供物を喰らう影 ― 首都ブラジリアへ
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱帯の国ブラジル――沿岸都市サルバドール。
守護者の休憩所の前で、ひとりの女性が深く頭を下げていた。
「……本当に……ありがとうございました……」
ロビソンとして理性を失っていた女性。
だが今は、完全に人間としての意識を取り戻している。
アンナが刻んだ刻印は、暴走を完全に抑え込み、彼女の存在を安定させていた。
「もう、大丈夫?」
彩葉が優しく尋ねる。
「はい……少し体は重いですが……自分で帰れます」
女性はそう言って、胸に手を当てた。
「……皆さんがいなければ……私は……」
言葉を詰まらせる。
レナが微笑んだ。
「大丈夫だよ」
「もう安全だから」
女性は涙を拭き、もう一度深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
そして――
静かに歩き出し、街の奥へと消えていった。
その背中を見送りながら。
彩葉は、決意を込めて言った。
「……次は」
「やっぱり断界同盟の幹部――チュパウマノスを探さないと」
「あは♡」
軽い笑い声。
ラキシアだった。
「だったら」
「首都『ブラジリア』にいると思うよ♡」
「!」
全員の視線が向く。
レナが尋ねた。
「どういうこと?」
ラキシアは、指を唇に当てながら言った。
「あの人ね」
「ブラジリアで行動してるって」
「ロキって人が言ってた気がするの♡」
陽菜が腕を組む。
「なるほど……」
「ロキの行動拠点の一つ、ということか」
村正が頷く。
「なら」
「行くべき場所は決まりだな」
「うん!」
彩葉が強く頷いた。
「ブラジリアに行こう!」
全員の意思は、一つだった。
しばらく歩き。
街の外れに設置された守護者の転移装置へと到着する。
白い円形の台座。
複雑な紋様が刻まれ、淡く光を放っている。
李=芳乃が装置を確認した。
「……うむ」
「壊れておらぬな」
アンナが前に出る。
装置の中央に手をかざす。
空間に、音の波紋のようなものが広がった。
「……座標セット完了」
彩葉が、みんなを見た。
仲間たち。
そして――ラキシア。
「……行こう!」
全員が、静かに頷いた。
次の瞬間。
転移装置が輝きを増す。
空間が歪み。
光が、全員を包み込んだ。
――転移。
そして。
熱帯の国ブラジル。
首都――ブラジリア。
近未来的な建築物が並ぶ都市。
広大な人工都市。
だが――
その地下深く。
人の目の届かぬ場所に。
それは、いた。
緑色の大きな影。
異様な存在。
粘つくような気配。
「……供物がこない……」
低く、濁った声。
「……四天王がすべてやられたか……」
影が蠢く。
「……供物がなければ……」
「強くなれないではないか……」
その目が、ゆっくりと開く。
暗闇の中で、妖しく光る。
「……まぁいい……」
何かを感じ取った。
「……何かが……こちらに向かっている……」
影の口が、歪む。
「……そいつらを……いただくとしよう……」
それは。
断界同盟幹部――
チュパウマノス。
供物を喰らい、強くなる怪異。
そして今。
守護者たちとの戦いが、始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




