目覚めし想霊 ― 監視者と新たな仲間
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱帯の国ブラジル――沿岸都市サルバドール。
守護者たちがかつて作った休憩所は、街の喧騒から切り離された静かな空間にあった。
白い壁と、淡く発光する紋様。
それらは守護者の力によって維持され、外界の干渉を遮断している。
部屋の中央。
簡易ベッドの上に、ラキシアは横たわっていた。
レナはその隣に座り、じっと見守っている。
「……」
眠っているラキシアの胸は、わずかに上下していた。
「安定していますね」
アンナが静かに言う。
「命に別状はありません」
レナの肩が、わずかに緩んだ。
「……よかった……」
その時だった。
「……ん……」
ラキシアの指が動いた。
「!」
レナが顔を上げる。
「ラキシア……?」
ゆっくりと。
ラキシアの瞼が開いた。
ぼんやりとした視線。
そして――
「……ここは……?」
弱々しい声。
「ラキシア!」
レナが身を乗り出した。
「大丈夫!?」
ラキシアはレナを見た。
「……お姉様……」
その瞳に、敵意はなかった。
困惑と――迷いだけがあった。
「……私……」
自分の手を見る。
「……撃たれて……」
そして。
「……なぜ……生きて……?」
レナは、優しく微笑んだ。
「助けたからだよ」
「!」
ラキシアの目が揺れる。
「どうして……?」
震える声。
「私は……」
言葉が詰まる。
「……人を……」
その先を、言えなかった。
だが。
レナは、静かに言った。
「知ってる」
「……!」
「それでも」
レナは続けた。
「あなたは、私の妹だから」
沈黙。
ラキシアは目を伏せた。
「……私は……」
「断界同盟の幹部で……」
「人を……殺した想霊です……」
自嘲するように笑う。
「そんな存在を……」
「助ける価値なんて……」
「あるよ」
即答だった。
「!」
ラキシアが顔を上げる。
レナの目は、まっすぐだった。
「価値は」
「誰かが決めるものじゃない」
「自分で見つけるものだよ」
ラキシアの瞳が震えた。
その時。
「……ふむ」
李=芳乃が口を開いた。
「回復したのは良いが」
「問題は別にある」
全員の視線が向く。
栞が続けた。
「この者は」
「人を殺した想霊」
「監視が必要じゃ」
空気が引き締まる。
ラキシアは、何も言わなかった。
否定もしない。
ただ、受け入れていた。
アンナが静かに言う。
「断界同盟の幹部だった以上」
「再び敵対する可能性もあります」
ベアトリスが頷く。
「当然の措置」
ユキも言う。
「危険性はゼロじゃない」
沈黙。
その時。
「……私が」
レナが言った。
「私が監視する」
「!」
全員が驚く。
「お姉様……?」
ラキシアが呟く。
レナは続けた。
「この子は」
「私から生まれた想霊」
「なら」
「責任を取るのは私」
真っ直ぐな声。
「私が、ずっと監視する」
「そして」
「間違えそうになったら」
「止める」
ラキシアの目に、涙が浮かんだ。
アンナが、少し考えた後、言った。
「……合理的ですね」
李=芳乃も頷く。
「うむ」
「異論はない」
栞が笑った。
「良い姉じゃの」
彩葉も、微笑んだ。
「うん」
「レナなら、大丈夫」
ラキシアは、震える声で言った。
「……いいのですか……?」
レナは頷いた。
「うん」
ラキシアは、ゆっくりと体を起こした。
まだ力は戻っていない。
だが――
その瞳には、確かな光があった。
「……私は……」
少し迷い。
そして、言った。
「……ここにいても……いいのですか……?」
彩葉が、一歩前に出た。
そして、笑った。
「うん!」
「一緒に行こう!」
その言葉は、まっすぐだった。
「……!」
ラキシアの目から、涙がこぼれた。
「……ありがとう……ございます……」
その瞬間。
新たな仲間が、加わった。
人を殺した想霊。
だが。
それでも――
救われた存在だった。
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次回もお楽しみに




