黒き想霊 ― 妹を名乗る者
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱帯の国ブラジル――沿岸都市サルバドール。
満月の光が、廃墟の街を白く照らしていた。
ロビソンは唸り声を上げながら、守護者たちを睨みつけていた。
「グルルルルルルル!」
次の瞬間。
巨体が跳躍する。
鋭い爪が、彩葉へと振り下ろされた。
だが――
「月光・三日月!」
キィィィィィン!!
村正の月光刀が閃き、ロビソンの爪を受け止めた。
満月の光を受けた刃は、まるで本物の月の欠片のように輝いている。
村正は歯を食いしばりながら叫んだ。
「今だ!」
「了解」
喰が前へ出る。
「ダークバインド」
黒い影が地面から伸び、ロビソンの脚へ絡みついた。
さらに――
「ノイズバインド!」
マイの能力が発動する。
空気が震え、見えない波がロビソンの動きを鈍らせた。
「グ……グルルル……!」
拘束。
完全ではない。
だが、十分だった。
その瞬間。
アンナが動いた。
地面を蹴り、空中へ跳躍。
そして――
ロビソンの背中へ、正確に着地した。
「大人しくしてください!」
ロビソンが暴れる。
だが、拘束されている。
アンナは迷わず、術式を展開した。
指先から、光が溢れる。
そして――
刻む。
背中へ。
刻印を。
「――刻印」
光が、ロビソンの体へと染み込んでいく。
「グルルル……」
唸り声が弱まる。
「……グ……」
力が抜けていく。
「……Zzz……」
そして。
ロビソンは、静かに眠りについた。
レナが目を瞬かせる。
「寝た?」
アンナは背中から降りながら言った。
「これで成功です」
次の瞬間。
ロビソンの体が――光り出した。
光。
優しい光。
その巨大な獣の姿は崩れ、
代わりに――
一人の女性が、そこに倒れていた。
「……」
静かに眠っている。
アンナはしゃがみ込み、確認する。
「……うん」
手首に触れる。
「脈も正常」
そして、安心したように言った。
「問題ない……」
その時だった。
「わぁ〜すご〜い」
無邪気な声。
全員が振り向く。
そこに――
いた。
オレンジのフードパーカー。
触角のような二本の飾り。
そして――
レナと同じ顔。
「!」
陽菜が目を見開く。
「え!?」
彩葉も驚愕する。
メデューサが呟いた。
「レナちゃんが……もう一人?」
「えぇ!?」
レナ自身も叫ぶ。
「私はここだよ!」
もう一人のレナは、微笑んだ。
「うふふ」
そして、優しく言った。
「はじめまして、姉さま」
「え……?」
マミが困惑する。
「レナ、妹いたの?」
「知らないよ!」
栞が前に出た。
目を細め、見極める。
「いや……」
静かに言った。
「あれは妖怪ではないな」
そして断言した。
「想霊に近いのじゃ」
その存在を睨みつける。
「おい、お主」
「何者じゃ!」
少女は笑った。
「私、ラキシア」
そして。
「レナお姉ちゃんの妹」
レナを指差した。
「レナ姉様の黒い感情から産まれた想霊」
「想霊!?」
彩葉が驚く。
レナは、言葉を失っていた。
ラキシアは楽しそうに続ける。
「うん!想霊!」
李=芳乃が問う。
「黒い感情から……だと?」
「うん!」
ラキシアは無邪気に言った。
「お姉ちゃんはね」
「前の持ち主を殺されたの」
空気が凍る。
「男子生徒のいたずらによって」
レナの体が、わずかに震える。
「その時、お姉ちゃんは思ったの」
「その男子生徒たちを、自身の能力で殺そうって」
ラキシアは笑った。
「でも」
「しなかった」
そして――
囁くように言った。
「だ・か・ら」
満面の笑みで。
「私が代わりに殺してあげたよ?」
甘く。
狂気を孕んだ声で。
「お姉ちゃん♡」
「……」
レナは、何も言えなかった。
マミがそっと肩に手を置く。
「レナ、落ち着いて……」
「気にしなくていいから」
ユキも言った。
「そうですよ」
ベアトリスが前へ出る。
「それと」
ラキシアを見る。
「何しに来たの?」
ラキシアは首を傾げた。
「ん?」
そして笑う。
「お姉ちゃんに会いに来たんだよ?」
倒れている女性を見る。
「そこのお姉さんを使って」
アンナが目を細める。
「刻印を消したのはあなた?」
「うん♡」
ラキシアは嬉しそうに答えた。
「私だよ〜♡」
「姉様をおびき寄せるために」
そして、手を差し伸べる。
「さぁ、姉様」
甘い声で誘う。
「私と一緒に」
「アレルギーを信じない人間を」
「ひとり残らず消しに行こ♡」
沈黙。
そして。
レナは言った。
「……嫌だ」
「え?」
ラキシアが目を瞬かせる。
レナは、真っ直ぐ見つめた。
「私は」
「そんなの、今は望んでない!」
ラキシアは少しだけ黙り――
そして、笑った。
「……まぁ、いいや」
その目が、冷たく光る。
「無理やり連れてくから」
そして、軽く言った。
「そうそう」
「私ね」
楽しそうに。
「断界同盟幹部の四天王の一人なんだ〜」
「なんじゃと!?」
栞が叫ぶ。
「ええ!?」
花火も驚く。
ココアが微笑む。
「まぁ」
「これはお仕置きが必要かしら?」
フェトゥが問う。
「なんで?」
ラキシアは無邪気に答えた。
「お手伝いだよ?」
「こうすれば、たくさんの信じてない人間を教えてくれるって」
「“あの人”が言ってたから」
影が呟く。
「……あの人?」
喰が目を細めた。
「もしかして……」
「カブラ・カブリオーラが言ってた」
「チュパウマノスか?」
ラキシアは目を輝かせた。
「あ!」
「知ってるんだ!」
そして笑った。
「流石幹部だね」
アビが言った。
「断界同盟なんかについていかないほうがいいなの」
ラキシアは首を傾げる。
「なんで〜?」
そして。
嬉しそうに言った。
「あの方のおかげで」
「たくさんの信じてない人間を殺せたよ?」
その瞬間。
レナが前に出た。
拳を握る。
「……目を覚まさせてあげる」
震えていた声が、強くなる。
「あなたが私の妹だと言うなら」
そして、宣言した。
「その目を覚まさせてあげる!!!」
ラキシアは、嬉しそうに笑った。
「あは♡」
「やってみる?」
彩葉も前へ出る。
「みんな!」
「行くよ!」
全員が構える。
その瞬間。
ラキシアの瞳が――紫に光った。
「ふふっ♡」
そして。
静かに告げた。
「永遠の毒に」
微笑む。
「蝕まれるといいよ♡」
満月の下。
姉と妹。
光と闇。
想霊との戦いが――
今、始まった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




