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アルケオン  作者: れんP
南米編

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139/182

捕食者の末路 ― 肝臓喰らいの正体

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 熱帯の国ブラジル――サンパウロの外れ。


 彩葉(いろは)たちは、街の地下に広がる巨大な空洞へと足を踏み入れていた。


 湿った空気。


 濃密な妖気。


 そして、確かに感じていたはずの――敵の気配。


 だが。


「……あれ?」


 彩葉が周囲を見渡す。


「何もいない?」


 暗闇は静まり返っていた。


 気配はある。


 だが、姿が見えない。


 不自然な静寂。


 


「いや……」


 村正(むらまさ)が低く呟いた。


「上だ!」


 


 次の瞬間――。


「シャャャャャ!!」


 天井から何かが飛び降りてきた。


 老人だった。


 だが、それは人間ではない。


 歪んだ身体。


 異様に長い爪。


 濁った目。


 そして――麻袋を背負っている。


 その影が、一直線に――影へと襲いかかる。


「!」


 (エイ)の瞳が見開かれる。


 だが、その前に。


「日輪・灼炎突!!」


 村正の刀が閃いた。


 炎を纏った突きが、怪異の身体を弾き飛ばす。


「シャャ!?……チィッ」


 怪異は空中で体勢を立て直し、着地した。


 


 村正は刀を構えたまま言う。


「まっさきに子どもを狙うとは」


 鋭い視線。


「お前が噂のやつか?」


 


 アンナが一歩前に出る。


 その目は冷静だった。


「……麻袋……老人……うん、間違いないよ」


 確信。


「あれは、子どもの肝臓を食べる怪異――」


 一拍置いて。


「パパ・フィーゴ」


 空気が凍る。


「その意味は――」


「肝臓を食べる者」


 


「えぇ!?」


 レナが驚きの声を上げる。


「ふぇぇ……」


 マミが青ざめる。


「特殊性癖ですか~?」


 


「誰が特殊性癖じゃ!!」


 パパ・フィーゴが激昂する。


「ワシはうまいから食っとるだけじゃ!!」


 


「理解できん」


 (しおり)が即答した。


「うむ、そうだ」


 (リー)=芳乃(よしの)も頷く。


 


「シャャャャャ!」


 パパ・フィーゴは牙を剥いた。


「理解されようなど思っとらん!」


 そして、舌なめずりする。


「まぁいい……」


 濁った目が全員を見回す。


「貴様らの肝臓もよこせ」


 


 その時。


「何を勘違いしているかわかりませんが」


 陽菜(ひな)が冷静に言った。


「守護者に肝臓はありませんよ?」


 


「え!?」


 彩葉が驚く。


「そうなの!?」


 


 陽菜は彩葉を見た。


「……なぜあなたが知らないのですか」


 


 村正が苦笑する。


「仕方ないだろ」


「まだ産まれて数日だし」


 


「ま、まぁいいでしょう」


 陽菜は説明を続ける。


「守護者は生物学上、“生物ではない”ので」


「肺、心臓、血管、骨、筋肉、脳以外ありません」


 


「な!?」


 パパ・フィーゴが後退する。


「し、しかし!」


「どうやって食べたものを消化している!」


 


「?」


 陽菜は首を傾げた。


「そのままエネルギーに変換してますが?」


 


「守護者はまだ、謎が多いからね」


 フェルルが言う。


「経緯は不明なんだ」


 


「な……」


 パパ・フィーゴは動揺していた。


 自分の捕食対象が――存在しない。


 理解できない存在。


 


「ま、まぁいい!」


 怒りで誤魔化す。


「他の奴らの肝臓をもらうだけのこと!」


「シャャャャャ!!!」


 


 その瞬間。


「スターダストフィールド」


 フェトゥが指を鳴らした。


 パチンッ――


 空間が歪む。


 星の粒子が満ちる。


 逃げ場のない領域。


 


「アイアンテール!!」


 アンナの尾が振るわれた。


 ガンッ!!!


 


「ガハァッ!?わ、ワシは...四天王...なのに、」


 直撃。


 パパ・フィーゴの身体が地面に叩きつけられる。


 


「……」


 沈黙。


 


「弱……」


 ベアトリスが呟く。


「うん、弱い」


 ユキも同意した。


 


「まぁ、こいつは本来」


 アンナが説明する。


「コソコソと動いて子どもを襲うタイプだし」


「老人だからね」


 


「でも、ここまでとは……」


 メデューサが言う。


「人間を襲って食べてるから強くなりそうだけど……」


 


「あぁ」


 (くろ)が答える。


「人間をすべて食べてればな……」


 


「どういうこと?」


 影が尋ねる。


 


「妖怪は」


 ココア=モカ=コフィアが優雅に説明する。


「人間を食べれば食べるほど強くなりますが」


「残さず食べると更に強くなるのですわ」


 一拍置いて。


「まぁ、今は妖怪が人間を襲うのも、人間が妖怪を襲うのも禁止されていますが……」


 


「まぁ、そういうことです」


 アンナがまとめた。


 


「へぇ~」


 花火(はなび)が感心する。


 


「不思議なの……」


 アビが呟く。


「人間って」


 


 アンナが振り返る。


「まぁ、帰りましょうか」


 


 全員が頷いた。


 


 そして。


 ふと。


 彩葉が振り返る。


 


 そこにいたはずの――


 パパ・フィーゴの姿は。


 


 もうなかった。


 


 代わりに。


 灰が――静かに崩れていた。


 


 風が吹く。


 灰が舞う。


 そして。


 完全に消えた。


 


 捕食者の末路は――あまりにも呆気なかった。


 


「……う、うん!」


 彩葉は頷いた。


 


 だが。


 誰も気づいていなかった。


 


 この怪異は――


 ただの“捕食者”の一匹に過ぎないということを。


 


 真の脅威は。


 まだ――この国のどこかで蠢いていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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