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アルケオン  作者: れんP
南米編

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138/182

静寂に潜む捕食者 ― サンパウロの空洞

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 熱帯の国ブラジル。


 彩葉たちはアンナの過去を聞き、その決意と想いを胸に刻みながら、新たな目的地――サンパウロへと到着していた。


 だが。


 そこに広がっていたのは、都市とは思えないほどの――異様な静寂だった。


「ここが、サンパウロ?」


 レナが周囲を見渡しながら言う。


 高層ビルが立ち並び、本来であれば人と車の喧騒に満ちているはずの大都市。


 しかし――。


「人がぜんぜんいないよ?」


 その言葉通りだった。


 道路には車が放置されている。


 店のシャッターは半分閉まり、看板は風に揺れて軋んでいる。


 信号機は意味もなく点滅を繰り返し、誰も渡らない横断歩道を照らしていた。


 都市は生きている。


 だが、人間だけが――いない。


「うぅ~、やっぱりここにもスケルトンがぁ~……」


 マイが震えながら指差す。


 視線の先。


 崩れたバス停の影から――白い骨の腕が見えていた。


 カタ……カタ……


 スケルトンがゆっくりと徘徊している。


 生者を求めて。


「人がいないのは多分、警戒しているんでしょうね」


 リリアが冷静に分析する。


「子どもが襲われないように……」


 その言葉は重かった。


 守るために、人々は隠れている。


「うん……」


 メデューサが静かに頷く。


「少し怖いかも……」


 (エイ)が小さく呟く。


「まぁ、ここまで人がいないとな」


 (くろ)も周囲を見渡しながら警戒を強める。


 風が吹く。


 紙くずが転がる。


 その音だけが、やけに大きく聞こえた。


「もう少し探してみよう」


 フェトゥが言う。


「うん」


 花火(はなび)が頷く。


 彩葉たちはゆっくりと街の奥へと進んでいった。


 


 道路を歩くたびに、違和感が増していく。


 店のガラスには、内側から打ち付けられた木の板。


 壁には――警告の文字。


 “夜に出るな”


 “子どもを外に出すな”


 “血を吸われる”


 “肝臓を取られる”


 “音を立てるな”


 殴り書きのような文字。


 恐怖の痕跡。


 人々は確かにここにいた。


 そして――逃げたのだ。


 


「……」


 彩葉(いろは)は拳を握る。


 守らなければならない。


 この街を。


 この人たちを。


 


 その時――。


「止まって」


 ベアトリスが静かに言った。


 全員が足を止める。


「足跡……?」


 地面を指差す。


 そこには――確かに足跡があった。


 人間のもの。


 裸足ではない。


 靴を履いた、普通の人間の足跡。


 だが。


「人間ぽいけど妖力がただよってる」


 ユキがしゃがみ込み、触れずに観察する。


 目を細める。


「たしかに、怪しい気配ですわ」


 ココア=モカ=コフィアも感じ取っていた。


 人間。


 だが、人間ではない。


 何かが混ざっている。


「うん、そうだね」


 陽菜(ひな)が頷く。


「行こう」


 村正(むらまさ)が短く言う。


 迷いはない。


 マミが拳を握る。


「子どもを襲う悪いやつを倒す」


 決意の言葉。


「うん!」


 彩葉が力強く頷いた。


 


 足跡を追う。


 それは大通りを外れ――。


 細い路地へと続いていた。


 ゴミが散乱している。


 腐敗臭。


 血の匂い。


 壁には引きずったような跡。


 まるで――何かを運んだような。


 


 さらに奥へ。


 さらに奥へ。


 やがて。


 街の外れに辿り着いた。


 そこには――。


「……空洞...なの?」


 巨大な穴が開いていた。


 地面が崩れ落ち、地下へと続く闇が口を開けている。


 自然にできたものではない。


 何かが――掘ったのだ。


 巣のように。


 捕食者の住処のように。


 そこから漂う。


 濃密な妖気。


 そして――血の匂い。


 


「ここにいる」


 フェトゥが確信する。


 全員が武器を構える。


 静かに。


 慎重に。


 地下へと降りていく。


 


 暗い。


 光が届かない。


 湿った空気。


 水滴の音。


 そして。


 奥から聞こえる――声。


 


「クソっ!!」


 老人の声。


「クソっ!!クソっ!!クソ!!!」


 激しい怒り。


「……あの野郎!」


 地面を叩く音。


「ワシの分の獲物まで持って行きよった!!!」


 歪んだ声。


「クソ!クソ!!クソ!!!」


 飢え。


 執着。


 狂気。


 


 そして――。


 ピタリと声が止まった。


 


「……」


 沈黙。


 


 次の瞬間。


「……侵入者か」


 低い声。


 気づかれた。


 


 闇の奥。


 赤い目が――開いた。


 


「……うまそうな匂いだ」


 その言葉は。


 明確な――捕食宣言だった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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