守る理由と守られる理由 ― 振動の守護者の過去 ―
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱帯の国ブラジル――リオデジャネイロ。
四天王の一人「コルポ・セコ」を撃破した彩葉たちは、街外れの廃ビルの一室で休息を取っていた。
窓から差し込む夕陽が、静かな空気を赤く染めている。
「…………」
ベッドの上で、アンナがゆっくりと目を開けた。
「……すみません」
目覚めて最初の言葉は――謝罪だった。
「あ、起きた?」
彩葉がすぐに気づき、優しく笑う。
「べつにあやまる必要はないよ」
「そうだよ」
花火が頷く。
「うん」
メデューサも静かに同意した。
アンナはしばらく黙っていた。
そして――。
「……少し、話をしても?」
彩葉は迷わず答える。
「うん」
その一言で、アンナは決心したように語り始めた。
「私は……ブラジル軍のアンテナから生まれました」
一同が静かに耳を傾ける。
「……あの頃はまだ、ただのアンテナで……何もすることも、目的もなく……ただ、存在していました」
無機質な存在。
意思も、感情もなかった。
「そんな時……人間に会いました」
アンナの目が、わずかに優しくなる。
「その人間は……ブラジル軍の人でした」
思い出。
「私を……仲間たちと一緒に……可愛がってくれました」
道具としてではない。
仲間として。
家族として。
接してくれた。
「……でもある日」
空気が変わる。
「第一次神怪世界大戦が始まりました」
誰も言葉を挟まない。
「私は……逃げるように言われました」
その理由は――。
「理由はすぐに分かりました」
アンナの手が、わずかに握られる。
「ブラジル政府が……アメリカ側に付こうとしていると……」
沈黙。
「私が……政府に使われることを恐れて……私を遠くへ行かせたんだと……」
守るための別れ。
利用されないための選択。
「……その後」
声が、少しだけ震えた。
「あの人達がどうなったかは……知りません」
生きているのか。
死んでいるのか。
分からない。
それでも――。
「私は決めました」
顔を上げる。
「……あの人達の愛した国を守るために」
その瞳には、強い意志があった。
「アメリカ側の者を倒すと」
それが――。
「それが私のやることだと想いました」
自分の存在理由。
「軍を音波で撹乱している時」
運命の出会い。
「ブラジルの守護者――『イペー』に出会いました」
守護者。
「その人についていきました」
迷いなく。
「大事な人を守るために……」
そして。
「……それで」
少しだけ、俯く。
「大事なものを傷つけられると……周りが見えなくなるのです」
それが、先ほどの戦い。
怒り。
復讐。
制御できない感情。
沈黙。
誰も否定しない。
「そうなんだね……」
陽菜が優しく言う。
その言葉に責める気配はなかった。
ただ、受け入れていた。
「守るべきものがあるのはいいことだ」
陽菜が続ける。
「君は君の正義を貫いたんだろう?」
肯定。
「それでいい」
そして。
「周りが見えなくなっても――僕達がいる」
その言葉は、支えだった。
「…………」
アンナの目が揺れる。
「……はい!」
はっきりと答えた。
もう、一人ではない。
仲間がいる。
その時――。
「おい聞いたか?」
近くを歩く旅人の声が聞こえた。
「サンパウロでまた、子どもの肝臓が抜き取られる事件だって」
空気が変わる。
「最近物騒だよ~」
旅人たちは去っていった。
だが。
その言葉は、確かに残った。
「……どうやら」
村正が立ち上がる。
「次の目的地が決まったようだな」
全員が理解した。
「はい!」
アンナも立ち上がる。
もう迷いはない。
「じゃあ出発!」
レナが元気よく言う。
「お~!!」
花火が拳を掲げた。
守護者たちは再び動き出す。
――同時刻。
サンパウロ。
地下深く。
光の届かない空間。
「カブラ・カブリオーラとコルポ・セコが殺られた……」
低く、重い声。
「もっとオレの供物を届けろ」
命令。
その前にいるのは――あの老人。
「フンッ」
老人は鼻で笑う。
「ワシはワシの食事を集めているにすぎない」
手には、新しい臓器。
「お前の供物はもうやっただろう?」
だが。
「まだだ!」
声が激しくなる。
「まだ足りんのだ!!!」
空間が震える。
怒り。
飢え。
そして――。
より大きな悪意が、目覚めようとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




