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アルケオン  作者: れんP
南米編

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136/182

拒絶の亡骸と振動の裁き ― 守護者の怒りが砕くもの ―

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 熱帯の国ブラジル――リオデジャネイロ郊外の墓地。


 死者の眠る場所で、生者と怪異の戦いが始まっていた。


「貴様らの血をよこせぇーーーー!!!」


 コルポ・セコが、異常な速度で地面を蹴った。


 その身体は干からびた死体のはずだった。


 だが、その速度は生者を遥かに上回っていた。


 骨が軋む音。


 腐肉が裂ける音。


 それすら気にせず、怪異は一直線に彩葉たちへ迫る。


 ――迎え撃つ。


「アサシン・ブレンドスラッシュですわ!」


 ココア=モカ=コフィアが地を滑るように踏み込み、ナイフを振るう。


 刃は迷いなく、コルポ・セコの胴体を斬り裂いた。


 ――しかし。


 ズルッ。


 異様な感触。


 肉ではない。


 液体でもない。


 まるで――粘性を持つ影のような。


「……っ!?」


 手応えが、ない。


「陽光・陽日輪!!」


 続けて村正(むらまさ)が刀を振り抜いた。


 黄金の光をまとった斬撃が、弧を描く。


 閃光。


 光は確かに怪異を斬った。


 だが――。


 斬れたはずの身体が、元に戻る。


「トリニティスラッシュ!」


 ベアトリスの三連斬撃。


 正確無比な連続斬撃が、怪異を切り刻む。


 それでも――。


 繋がる。


 まるで最初から傷などなかったかのように。


「MG42!」


 ユキの銃が火を噴いた。


 激しい連射。


 無数の弾丸が怪異の身体を撃ち抜く。


 穴が空く。


 砕ける。


 だが。


 再生する。


「エンチャントバレット!」


 陽菜(ひな)の魔力弾。


「スターストライク!!」


 フェトゥの光の打撃。


 連続攻撃。


 連携。


 完璧な攻勢。


 だが――。


「効かねぇな!」


 コルポ・セコが笑った。


 その口は裂けていた。


「グシャャャャャャ!!!」


 身体が歪む。


 変形する。


 骨が曲がる。


 関節の概念を無視した動き。


「オレはなぁ四天王だ!」


 その声は狂気に満ちていた。


「それにオレはもっと強くなる!」


 空気が震える。


「そしてあのお方を超え!」


 異常な執念。


「この国の支配者になるんだぁ!!!」


 野望。


 歪んだ願望。


 怪異は、さらに膨れ上がるように蠢いた。


「神力の鎖」


 (エイ)の鎖が飛び出した。


 怪異の身体を絡め取る。


「ダークバインド!」


 (くろ)の闇の拘束。


「ストラップニードルバインド!」


 彩葉(いろは)の針状の拘束。


「ノ……ノイズバインドッ!!」


 マイの音の鎖。


 四重拘束。


 完全に縛り上げた。


 ――だが。


「ギャハ!」


 コルポ・セコが笑う。


「この程度の拘束、関節のないオレには聞かねぇ」


 身体が歪む。


 骨が外れる。


 肉がねじれる。


 鎖をすり抜ける。


 常識を無視した動き。


 ――その瞬間。


「それから、音波プレス!」


 リリア=エジソンの声。


 空間が歪む。


 見えない圧力が、怪異を押し潰した。


「グッ!?な、何だ!?」


 初めて苦悶の声を上げる。


「これなら逃げられないでしょ?」


 音は逃げ場を許さない。


 全方向からの圧力。


「小癪なぁ!」


 怪異が暴れる。


 だが――。


「ふむ」


 (しおり)が、手を一振りした。


 それだけだった。


 だが。


 拘束が強化された。


 鎖が、音波が、闇が、神力が。


 すべてが重なる。


「これでよいじゃろう」


 完全拘束。


 怪異は動けない。


 ――しかし。


「でもどうするのです?」


 ココアが言った。


「刃も柔軟すぎて通りませんわ」


「うん」


 ベアトリスも頷く。


「銃弾もたいして効かない」


 ユキ。


「刀もだ」


 村正。


「打撃も」


 フェトゥ。


 誰の攻撃も、決定打にならない。


 沈黙。


 その時。


「……」


 アンナが、前に出た。


「アンナ?」


 メデューサが呼ぶ。


 アンナは答えない。


 ただ、怪異の前に立つ。


「アンナ?」


 花火(はなび)


「なにするなの?」


 アビ。


「……」


 フェルル。


「?」


 レナ。


 アンナは、怪異を見つめた。


 その目には――感情がなかった。


「何人殺した?」


 静かな声。


「なぜ殺した?」


 問い。


 怪異は笑った。


「キシャャ」


 醜い笑み。


「オレは殺すのが好きなんだ」


 迷いのない答え。


「それ以外に理由があるか」


 悪意。


 純粋な殺意。


 その瞬間。


 アンナの目が、わずかに揺れた。


「そうですか……」


 短く。


 そして。


「さよなら」


 右手を、かざす。


「振動破裂」


 一瞬。


 何も起きなかった。


 ――次の瞬間。


 パァァァァンッ!!


 コルポ・セコの身体が、内側から破裂した。


 音。


 衝撃。


 振動が、怪異の存在そのものを粉砕した。


「な、何だ!?ぐっ……がぁ……ぁぁ……」


 断末魔。


 身体が崩壊する。


 維持できない。


 存在が、保てない。


 そして――。


 消滅した。


 静寂。


 戦いは終わった。


「……」


 アンナは立っていた。


 だが。


「……すみません」


 小さく呟く。


「大好きな人達を殺されていて……気が……」


 そのまま。


 バタン。


「アンナ!」


 彩葉が駆け寄る。


 アンナの身体を抱える。


 意識は――ない。


 怒り。


 悲しみ。


 その反動。


 誰も言葉を発せなかった。


 


 ――同時刻。


 ブラジル、サンパウロ。


 暗い路地裏。


 一人の老人が立っていた。


 痩せ細った身体。


 異様に大きな口。


 その手には――赤黒い臓器。


「ヒヒヒッ……」


 笑う。


「子どもの肝臓が一つ……」


 咀嚼音。


「子どもの肝臓が二つ……」


 滴る血。


「ヒヒッ……ヒヒヒヒヒヒヒッ」


 狂気の笑いが、夜に響いた。


 新たな悪意が――静かに動き始めていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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