拒絶の亡骸と振動の裁き ― 守護者の怒りが砕くもの ―
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱帯の国ブラジル――リオデジャネイロ郊外の墓地。
死者の眠る場所で、生者と怪異の戦いが始まっていた。
「貴様らの血をよこせぇーーーー!!!」
コルポ・セコが、異常な速度で地面を蹴った。
その身体は干からびた死体のはずだった。
だが、その速度は生者を遥かに上回っていた。
骨が軋む音。
腐肉が裂ける音。
それすら気にせず、怪異は一直線に彩葉たちへ迫る。
――迎え撃つ。
「アサシン・ブレンドスラッシュですわ!」
ココア=モカ=コフィアが地を滑るように踏み込み、ナイフを振るう。
刃は迷いなく、コルポ・セコの胴体を斬り裂いた。
――しかし。
ズルッ。
異様な感触。
肉ではない。
液体でもない。
まるで――粘性を持つ影のような。
「……っ!?」
手応えが、ない。
「陽光・陽日輪!!」
続けて村正が刀を振り抜いた。
黄金の光をまとった斬撃が、弧を描く。
閃光。
光は確かに怪異を斬った。
だが――。
斬れたはずの身体が、元に戻る。
「トリニティスラッシュ!」
ベアトリスの三連斬撃。
正確無比な連続斬撃が、怪異を切り刻む。
それでも――。
繋がる。
まるで最初から傷などなかったかのように。
「MG42!」
ユキの銃が火を噴いた。
激しい連射。
無数の弾丸が怪異の身体を撃ち抜く。
穴が空く。
砕ける。
だが。
再生する。
「エンチャントバレット!」
陽菜の魔力弾。
「スターストライク!!」
フェトゥの光の打撃。
連続攻撃。
連携。
完璧な攻勢。
だが――。
「効かねぇな!」
コルポ・セコが笑った。
その口は裂けていた。
「グシャャャャャャ!!!」
身体が歪む。
変形する。
骨が曲がる。
関節の概念を無視した動き。
「オレはなぁ四天王だ!」
その声は狂気に満ちていた。
「それにオレはもっと強くなる!」
空気が震える。
「そしてあのお方を超え!」
異常な執念。
「この国の支配者になるんだぁ!!!」
野望。
歪んだ願望。
怪異は、さらに膨れ上がるように蠢いた。
「神力の鎖」
影の鎖が飛び出した。
怪異の身体を絡め取る。
「ダークバインド!」
喰の闇の拘束。
「ストラップニードルバインド!」
彩葉の針状の拘束。
「ノ……ノイズバインドッ!!」
マイの音の鎖。
四重拘束。
完全に縛り上げた。
――だが。
「ギャハ!」
コルポ・セコが笑う。
「この程度の拘束、関節のないオレには聞かねぇ」
身体が歪む。
骨が外れる。
肉がねじれる。
鎖をすり抜ける。
常識を無視した動き。
――その瞬間。
「それから、音波プレス!」
リリア=エジソンの声。
空間が歪む。
見えない圧力が、怪異を押し潰した。
「グッ!?な、何だ!?」
初めて苦悶の声を上げる。
「これなら逃げられないでしょ?」
音は逃げ場を許さない。
全方向からの圧力。
「小癪なぁ!」
怪異が暴れる。
だが――。
「ふむ」
栞が、手を一振りした。
それだけだった。
だが。
拘束が強化された。
鎖が、音波が、闇が、神力が。
すべてが重なる。
「これでよいじゃろう」
完全拘束。
怪異は動けない。
――しかし。
「でもどうするのです?」
ココアが言った。
「刃も柔軟すぎて通りませんわ」
「うん」
ベアトリスも頷く。
「銃弾もたいして効かない」
ユキ。
「刀もだ」
村正。
「打撃も」
フェトゥ。
誰の攻撃も、決定打にならない。
沈黙。
その時。
「……」
アンナが、前に出た。
「アンナ?」
メデューサが呼ぶ。
アンナは答えない。
ただ、怪異の前に立つ。
「アンナ?」
花火。
「なにするなの?」
アビ。
「……」
フェルル。
「?」
レナ。
アンナは、怪異を見つめた。
その目には――感情がなかった。
「何人殺した?」
静かな声。
「なぜ殺した?」
問い。
怪異は笑った。
「キシャャ」
醜い笑み。
「オレは殺すのが好きなんだ」
迷いのない答え。
「それ以外に理由があるか」
悪意。
純粋な殺意。
その瞬間。
アンナの目が、わずかに揺れた。
「そうですか……」
短く。
そして。
「さよなら」
右手を、かざす。
「振動破裂」
一瞬。
何も起きなかった。
――次の瞬間。
パァァァァンッ!!
コルポ・セコの身体が、内側から破裂した。
音。
衝撃。
振動が、怪異の存在そのものを粉砕した。
「な、何だ!?ぐっ……がぁ……ぁぁ……」
断末魔。
身体が崩壊する。
維持できない。
存在が、保てない。
そして――。
消滅した。
静寂。
戦いは終わった。
「……」
アンナは立っていた。
だが。
「……すみません」
小さく呟く。
「大好きな人達を殺されていて……気が……」
そのまま。
バタン。
「アンナ!」
彩葉が駆け寄る。
アンナの身体を抱える。
意識は――ない。
怒り。
悲しみ。
その反動。
誰も言葉を発せなかった。
――同時刻。
ブラジル、サンパウロ。
暗い路地裏。
一人の老人が立っていた。
痩せ細った身体。
異様に大きな口。
その手には――赤黒い臓器。
「ヒヒヒッ……」
笑う。
「子どもの肝臓が一つ……」
咀嚼音。
「子どもの肝臓が二つ……」
滴る血。
「ヒヒッ……ヒヒヒヒヒヒヒッ」
狂気の笑いが、夜に響いた。
新たな悪意が――静かに動き始めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




