血を求める亡骸 ― 墓地より現れし拒絶の怪異 ―
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱帯の国ブラジル――その巨大都市リオデジャネイロ。
昼間の喧騒とは違い、夜の街には静かな緊張が漂っていた。
彩葉たちは、街外れの墓地から少し離れた場所に身を潜めていた。
古びた街灯が、かすかな光を地面に落としている。
その光は不安定で、まるで今にも消えそうだった。
風が吹く。
生温かい空気。
そして――どこか腐敗したような匂い。
死が、近い。
「アビ、大丈夫かな?」
彩葉が空を見上げながら呟いた。
夜空は暗く、星は少ない。
だが、その闇の中に、確かに一つの影があった。
「飛んでるし、きっと大丈夫だよ!」
レナが明るく言う。
その言葉は、皆を安心させようとしているのが伝わってきた。
「ふぇぇ〜……」
マイは肩を震わせていた。
彼女の耳は、すでに異常を感じ取っているのかもしれない。
「ここにおびき寄せるのよね」
リリア=エジソンが静かに確認する。
「うむ、そうじゃ」
栞が頷いた。
「うまくいくかどうか……」
陽菜が呟く。
「祈るしかないな」
村正が短く答えた。
その声は落ち着いていたが、油断は一切なかった。
全員が戦闘態勢に入っている。
静寂。
ただ、待つ。
一方――墓地上空。
アビは、静かに羽ばたいていた。
月明かりが彼女の輪郭を淡く照らす。
その視線は、下へと向けられている。
墓地。
無数の墓石。
十字架。
そして――。
「……」
アビの瞳が細まる。
何かが動いた。
墓の土が――揺れている。
モゾ……。
モゾモゾ……。
まるで、地面の下から這い出そうとしているかのように。
その時――。
「血……」
低い声。
かすれている。
「生き血……」
それは、人の声ではなかった。
「人間の血……どこだ……?」
飢え。
渇望。
狂気。
アビの目が見開かれる。
「!……見つけたなの……」
間違いない。
探していた怪異。
「アンナ、そっちにおびき寄せるなの」
通信装置に向かって告げる。
墓地から少し離れた場所――。
アンナの通信装置が微かに光った。
「……来る」
彼女が静かに言う。
「こっちに来るって」
「うん!」
彩葉が拳を握る。
メデューサが目を閉じる。
「……」
空気の振動を感じている。
ユキが眉をひそめた。
「たしかに……なにか来てる……」
ベアトリスとココア=モカ=コフィアは、同時に動いた。
音もなく。
アサシンナイフを取り出す。
刃が、わずかに光を反射した。
緊張が、極限まで高まる。
「!ついたなの」
アビの声が届く。
次の瞬間――。
影が現れた。
それは――人の形をしていた。
だが、人ではなかった。
皮膚は干からびている。
骨が浮き出ている。
目は落ち窪み、暗い穴のようだった。
口は裂け、黒い歯が見えている。
腐っている。
生きていない。
だが――動いている。
怪異は、奇妙な言葉を発していた。
意味を持たない。
理解できない。
呪いのような音。
「……あれは……」
アンナが呟いた。
「コルポ・セコ」
その名が告げられた瞬間――。
李=芳乃の目が細くなる。
「聞いたことがある……」
彼女が低く言った。
「ワシと同じ死体でありながら、生前に悪行を行ったため、天からも地面からも拒絶された怪異」
天にも行けない。
地にも還れない。
永遠に彷徨う亡骸。
拒絶された存在。
怪異は、ゆっくりと顔を上げた。
そして――笑った。
「オレを知っているのか?」
その声は、骨が軋むようだった。
「外から来たやつが……四天王であるオレを」
首が、異様な角度に傾く。
関節が、ありえない方向へ曲がる。
そして――。
「まぁいい」
一歩。
近づく。
その動きは遅い。
だが、確実だった。
「貴様らの血をよこせぇーーーー!!!」
瞬間。
空気が裂けた。
コルポ・セコが、信じられない速度で突進してきた。
その口は、大きく開かれていた。
血を喰らうために。
生を奪うために。
拒絶された亡骸が――。
今、生者を狩ろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




