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アルケオン  作者: れんP
南米編

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135/182

血を求める亡骸 ― 墓地より現れし拒絶の怪異 ―

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 熱帯の国ブラジル――その巨大都市リオデジャネイロ。


 昼間の喧騒とは違い、夜の街には静かな緊張が漂っていた。


 彩葉たちは、街外れの墓地から少し離れた場所に身を潜めていた。


 古びた街灯が、かすかな光を地面に落としている。

 その光は不安定で、まるで今にも消えそうだった。


 風が吹く。


 生温かい空気。


 そして――どこか腐敗したような匂い。


 死が、近い。


「アビ、大丈夫かな?」


 彩葉(いろは)が空を見上げながら呟いた。


 夜空は暗く、星は少ない。


 だが、その闇の中に、確かに一つの影があった。


「飛んでるし、きっと大丈夫だよ!」


 レナが明るく言う。


 その言葉は、皆を安心させようとしているのが伝わってきた。


「ふぇぇ〜……」


 マイは肩を震わせていた。


 彼女の耳は、すでに異常を感じ取っているのかもしれない。


「ここにおびき寄せるのよね」


 リリア=エジソンが静かに確認する。


「うむ、そうじゃ」


 (しおり)が頷いた。


「うまくいくかどうか……」


 陽菜(ひな)が呟く。


「祈るしかないな」


 村正(むらまさ)が短く答えた。


 その声は落ち着いていたが、油断は一切なかった。


 全員が戦闘態勢に入っている。


 静寂。


 ただ、待つ。


 


 一方――墓地上空。


 アビは、静かに羽ばたいていた。


 月明かりが彼女の輪郭を淡く照らす。


 その視線は、下へと向けられている。


 墓地。


 無数の墓石。


 十字架。


 そして――。


「……」


 アビの瞳が細まる。


 何かが動いた。


 墓の土が――揺れている。


 モゾ……。


 モゾモゾ……。


 まるで、地面の下から這い出そうとしているかのように。


 その時――。


「血……」


 低い声。


 かすれている。


「生き血……」


 それは、人の声ではなかった。


「人間の血……どこだ……?」


 飢え。


 渇望。


 狂気。


 アビの目が見開かれる。


「!……見つけたなの……」


 間違いない。


 探していた怪異。


「アンナ、そっちにおびき寄せるなの」


 通信装置に向かって告げる。


 


 墓地から少し離れた場所――。


 アンナの通信装置が微かに光った。


「……来る」


 彼女が静かに言う。


「こっちに来るって」


「うん!」


 彩葉が拳を握る。


 メデューサが目を閉じる。


「……」


 空気の振動を感じている。


 ユキが眉をひそめた。


「たしかに……なにか来てる……」


 ベアトリスとココア=モカ=コフィアは、同時に動いた。


 音もなく。


 アサシンナイフを取り出す。


 刃が、わずかに光を反射した。


 緊張が、極限まで高まる。


「!ついたなの」


 アビの声が届く。


 次の瞬間――。


 影が現れた。


 それは――人の形をしていた。


 だが、人ではなかった。


 皮膚は干からびている。


 骨が浮き出ている。


 目は落ち窪み、暗い穴のようだった。


 口は裂け、黒い歯が見えている。


 腐っている。


 生きていない。


 だが――動いている。


 怪異は、奇妙な言葉を発していた。


 意味を持たない。


 理解できない。


 呪いのような音。


「……あれは……」


 アンナが呟いた。


「コルポ・セコ」


 その名が告げられた瞬間――。


 (リー)芳乃(よしの)の目が細くなる。


「聞いたことがある……」


 彼女が低く言った。


「ワシと同じ死体でありながら、生前に悪行を行ったため、天からも地面からも拒絶された怪異」


 天にも行けない。


 地にも還れない。


 永遠に彷徨う亡骸。


 拒絶された存在。


 怪異は、ゆっくりと顔を上げた。


 そして――笑った。


「オレを知っているのか?」


 その声は、骨が軋むようだった。


「外から来たやつが……四天王であるオレを」


 首が、異様な角度に傾く。


 関節が、ありえない方向へ曲がる。


 そして――。


「まぁいい」


 一歩。


 近づく。


 その動きは遅い。


 だが、確実だった。


「貴様らの血をよこせぇーーーー!!!」


 瞬間。


 空気が裂けた。


 コルポ・セコが、信じられない速度で突進してきた。


 その口は、大きく開かれていた。


 血を喰らうために。


 生を奪うために。


 拒絶された亡骸が――。


 今、生者を狩ろうとしていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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