都市リオデジャネイロ ― 墓地に潜む影を追え ―
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱帯の密林を抜けた先――。
そこは、木々の圧迫感から解放された、やや開けた場所だった。
高い空が広がり、重苦しかった森の気配が、ようやく遠ざかる。
湿った空気は変わらないが、風が通るだけで幾分か呼吸がしやすくなる。
彩葉たちはその場で足を止め、互いに顔を見合わせた。
先ほどまでの戦闘の余韻が、まだ体の奥に残っている。
「なるほど、それで追っていると……」
アマゾン=チャムサーモンが静かに頷いた。
彼女の瞳は、深い森と同じ色をしている。
「でしたら、リオデジャネイロに行くことをおすすめします。あそこでも事件は起きているので」
「他には……」
ニルが続ける。
「サンパウロやサルバドール、首都『ブラジリア』などでも不可解な事件が起きているみたい……」
不可解な事件。
その言葉の重みが、空気をわずかに沈ませる。
「なるほど……ありがとうございます」
彩葉が深く頭を下げた。
その仕草には、純粋な感謝が込められていた。
「わたしたちは、このあたりから離れることは命令でできないけど……」
チャムサーモンは微笑む。
「応援してる」
「うん……」
アンナも小さく頷いた。
その声は静かだったが、確かな意志が宿っていた。
守護者たちと別れた後――。
彩葉たちはリオ・ブランコへと戻り、都市に設置された転送装置の前に立った。
青白い光が空間に満ちている。
「これで……リオデジャネイロに行けるんだね」
「うん」
アンナが操作を行う。
光が強まる。
空間が歪む。
そして――。
次の瞬間。
彼女たちは、新たな都市へと降り立っていた。
リオデジャネイロ。
ブラジルを代表する巨大都市。
巨大な建造物が立ち並び、遠くには湾が見える。
山々と都市が混ざり合う、独特の景観。
「わぁ〜! 大きい!」
レナが目を輝かせる。
だが――。
「や、やっぱりいるよぉ〜」
マイの震える声。
視線の先。
通りのあちこちに、骨の怪異――スケルトンが徘徊していた。
カタカタと顎を鳴らしながら、意味もなく歩いている。
ミクトランから溢れ出した死者たち。
この街にも、その影は確実に広がっていた。
だが、街の人々は完全に恐慌しているわけではなかった。
守護者たちの存在が、辛うじて均衡を保っているのだろう。
彩葉たちは慎重に街を進む。
石畳の道。
古い建物。
新しい高層建築。
そして――死者。
生と死が混ざり合う、異様な都市。
「ねぇ、どうしたんだい?」
陽菜が近くの男性に声をかける。
「あぁ、守護者様か……」
男性は安堵したように息を吐いた。
「いや、最近怪死事件が頻発していてな……」
「怪死事件?」
村正が反応する。
「あぁ……生きたまま血を吸われているらしい」
一瞬、空気が凍った。
「ブラジリアでも似たような事件が起きてるらしいし、最近物騒だ」
「なるほど……」
陽菜が頷く。
「だって」
彩葉が皆へ伝える。
「なるほど」
フェトゥ=ハーネアネアが目を細める。
「ふむ、ならば、まず、その犯人を見つけねばな」
李=芳乃が静かに言った。
「でも、どこにいるのか……」
ユキが不安そうに呟く。
「うん、うん……」
彩葉が再び街の人の元へ駆けていき、話を聞く。
そして戻ってきた。
「墓場で見かけるって!」
その言葉に、皆の視線が集まる。
「墓地かぁ〜……ずっといるのも失礼だよね……」
花火が困ったように笑う。
「うむ、そうじゃな……理由もなく居座るのは悪い……」
栞が頷く。
そして――。
「……そうじゃ、アビ。空中から知らせられるかの?」
「連絡はどうするなの?」
アビが首を傾げる。
「でしたらコレを」
アンナが小型の装置を差し出した。
「小型通信装置です」
「ありがとうなの」
アビがそれを受け取る。
「これで連絡を取るの?」
ベアトリスが尋ねる。
「うん……これで空から張り込みすればいい」
アンナが答える。
「わかったなの」
アビは翼を広げた。
風が舞う。
「私達はどこに」
メデューサが問う。
「すぐに駆けつけられるところにいるほうがいいのじゃ」
栞が冷静に判断する。
「うん」
メデューサが頷く。
「では、そうしましょう。皆で待機ですわ」
ココア=モカ=コフィアが言う。
「緊張する……」
影が呟く。
「そうだね」
フェルルも同意する。
「あぁ……」
喰が短く答える。
そして――。
彩葉が一歩前に出た。
皆を見渡す。
不安もある。
恐怖もある。
だが、それ以上に。
守りたいという意志があった。
「うん! それじゃあ、作戦開始!」
拳を握る。
「オー!!」
全員の声が重なる。
その瞬間。
アビが空へと舞い上がった。
街の上空へ。
墓地に潜む影を暴くため――。
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