密林に轟く黒き斬撃
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
アマゾン近郊の密林。
巨大な樹木が天を覆い、昼であるはずの森は薄暗い。湿った空気が重く沈み、葉の隙間から差し込む光が、緑の霧のように漂っている。
その中央で、ヤギ頭の怪異――カブラ・カブリオーラが荒い息をついていた。
「キシャャャ! オレを追い詰めたつもりか? ただのパラボラアンテナに何ができる! キシャャャャャ!!」
嘲笑とともに、口から火花が散る。爪が地面を抉り、土が弾け飛ぶ。
対峙するのはアンナ。
細身の身体。長い尻尾。その先端には、身体よりもはるかに大きなパラボラアンテナ。
彼女は無言だった。
アンテナがゆっくりと回転する。
森のざわめきの中、目に見えない波が空間を震わせた。
「……」
アンナは片足を引き、静かに構える。
次の瞬間――
カブラ・カブリオーラが地を蹴った。
爆発のような衝撃。
一直線に迫る巨躯。
「キシャャャャャ!!!」
振り下ろされる爪。
アンナは横へ滑るように回避する。爪が地面を裂き、土と根が舞い上がる。
だが怪異は止まらない。振り向きざまに尾のような脚で蹴りを放つ。
「っ……!」
アンナはアンテナを盾のように前へ傾ける。
轟音。
衝撃波が森に広がる。
アンテナがきしむ。だが折れない。
「キシャャャャ!! その程度か?」
怪異が炎を吐いた。
赤い奔流が一直線に走る。
アンナはアンテナを高速回転させる。
空間が歪む。
炎が、逸れた。
まるで見えない壁にぶつかったかのように、火流は左右へ散り、木々を焼き焦がす。
焦げた匂いが広がる。
アンナの額に汗が滲む。
「……っ」
アンテナの縁が赤熱している。
カブラ・カブリオーラは獣じみた笑みを浮かべた。
「面白ぇ……だが、防ぐだけか?」
今度は跳躍。
頭上からの急襲。
巨大な影が覆いかぶさる。
アンナは片手を掲げた。
アンテナが空へ向く。
瞬間――
甲高い音。
空気を切り裂く振動波が上空へ放たれる。
不可視の衝撃が怪異を直撃。
「グッ!?」
軌道がわずかに逸れ、落下位置がずれる。
地面に叩きつけられる怪異。
土煙が舞う。
だがすぐに立ち上がる。
「……なるほどな。叩き落とすくらいはできるか」
獣の目が細まる。
「だが……殺せるか?」
再び突進。
今度はジグザグに軌道を変え、攪乱する。
アンナのアンテナが高速回転し、森全体に電磁のうねりが広がる。
だが怪異は炎と煙を撒き散らし、視界を遮る。
煙の中から牙が迫る。
「っ……!」
肩を掠める。
赤い血が飛ぶ。
アンナがよろめく。
「キシャャャャャ!!! その程度か?」
追撃の爪。
その瞬間――
「加勢しますよ……」
低く、澄んだ声。
森の奥から、ドス黒い斬撃が放たれた。
闇を凝縮したような刃が一直線に走る。
カブラ・カブリオーラの脇腹を裂いた。
「っ!?!?!? な、何者だ!!!」
血飛沫。
怪異が後退する。
煙の向こうから、二人の少女が姿を現した。
深緑色のドレス。腰には赤と黄色のリボン。
静かな威圧を纏う少女が一歩前へ出る。
「私はアマゾン=チャムサーモン……」
アンナが目を見開く。
「……なん……で」
「……なぜアマゾンから出てきたのか? ですって?」
アマゾン=チャムサーモンは淡く微笑む。
「この国は今の私のもう一つの住処です。そこにいるものを守るのは、私の役目」
その隣。
黄緑色の髪。茶色いドレス。
頭には黄緑の実――りんごのような果実が実っている少女。
「うん……私はあの国に居たくないから南米で暮らしてる。助けるのは当然」
柔らかな声。
「あぁ、私はマンチニールの守護者『ニル』」
森の空気が変わる。
湿度の中に、静かな力が満ちる。
「私はアマゾンの守護者……元・鮭の守護者」
チャムサーモンの足元で、地面がざわめいた。
木の根がうねる。
川の気配が満ちる。
その時――
「アンナ!」
彩葉たちが駆けつけた。
息を切らしながら、森へ踏み込む。
「くっ! 集まってきやがったか……」
カブラ・カブリオーラが舌打ちする。
だがすぐに、誇示するように胸を張った。
「まぁいい! オレはカブラ・カブリオーラ、断界同盟の幹部のお一人《人間の血を吸い尽くす者》チュパウマノス様の率いる四天王の一人! カブラ・カブリオーラ様だ!!」
名乗りと同時に、炎が噴き上がる。
森の上空まで届く火柱。
密林が赤く染まる。
四天王。
その言葉が重く響く。
アンナは血を拭い、再び構えた。
チャムサーモンの周囲で黒き水流が渦を巻く。
ニルの足元で毒の実が淡く光る。
彩葉たちも武器を構える。
密林は戦場と化した。
炎と電波と闇と水。
それぞれの力が交錯する。
カブラ・カブリオーラの瞳が狂気に染まる。
「さぁ来い……まとめて喰らってやる!!」
次の瞬間。
密林を揺るがす、総力戦が始まった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




