炎を喰らう獣と、電波を発する守護者
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱帯の国ブラジル――リオ・ブランコ。
今日もまた、街のあちこちをスケルトンたちが静かに徘徊していた。
骨の足が石畳を鳴らし、空洞の眼窩が虚ろに空を見つめる。
だが、不思議なことに彼らは暴れない。ただ歩き、時に立ち止まり、やがてどこかへ消えていく。
「今日もたくさんいるね〜」
レナがのんびりと周囲を見渡す。
「なんだか、前より増えてるような……」
マイが小声で言った。
確かに、昨日よりも数が多い。路地の奥、屋根の上、広場の噴水の周り――白い影が増えている。
「アンナは何してるの?」
彩葉が尋ねると、少し離れた場所で目を閉じていたアンナが片目を開けた。
「……ん? ……電波を発信して標的を探してる」
彼女の尻尾の先にある巨大なパラボラアンテナが、ゆっくりと回転する。
耳には聞こえない振動が、空間を震わせていた。
「標的って、もしかして……」
「うん……カブラ・カブリオーラ……」
その名が出た瞬間、空気が引き締まる。
「ブラジルの守護者、イペーってどこにいるの?」
彩葉が問う。
「イペーはG30の集まりに行ってるぞ」
村正が腕を組んだまま答えた。
「ジーサーティ?」
彩葉が首を傾げる。
「G30は世界同盟の別名ですよ」
陽菜が説明する。
「加盟している。国シリーズ守護者は――日本、ロシア、中国、北朝鮮、韓国、インド、インドネシア、バングラデシュ、トルコ、ギリシャ、ドイツ、イタリア、スイス、リヒテンシュタイン、イギリス、エジプト、タンザニア、ケニア、南アフリカ、エチオピア、オーストラリア、ニュージーランド、パラオ、ブラジル、コロンビア、エクアドル、メキシコ、アメリカ、カナダ、スウェーデン……」
息を整え、続ける。
「三十人の守護者の国シリーズの守護者の集まりで。今回はカナダの守護者の特殊空間で行うと聞いています」
「へぇ〜、なんかすごそう」
彩葉は純粋に感心した。
「人間でいえば大統領の集まりだしな」
李=芳乃が笑う。
「それはすごい……」
マミがぽつりと呟いた。
「……あれ?」
リリア=エジソンが首を傾げる。
「私の知ってるのだとG28だったような?」
「うん、第一次神怪世界大戦時まではね」
アンナが答える。
「アメリカの守護者と、メキシコの守護者が負けたときに入ったの。ダリアはローズを追いかけて加盟したの」
「そうなんだね」
フェルルが頷く。
「アンナも戦ったの?……」
影が静かに尋ねた。
アンナは首を振る。
「ううん。私はアンテナを使って無線を盗んで、モールス信号で送ってた……この街で」
遠い目。
戦場に立つ者ではなかった。
だが、彼女もまた戦っていたのだ。
「そう、なんだ……」
「ま、存在してりゃ何かあるよなぁ」
喰が肩をすくめる。
「うん」
アンナは小さく笑った。
その時――
「うわぁぁぁぁぁぁ!!! でたぞ!!!」
街の奥から叫び声。
「でた!?」
アンナのアンテナが激しく回転する。
「行ってみよう」
ベアトリスが即座に走り出す。
「うん……!」
ユキが続く。
「えぇ!」
ココア=モカ=コフィアも駆け出す。
彩葉たちも一斉に走った。
広場の中央。
黒い煙。
焦げた匂い。
そこにいたのは――
ヤギの頭部。
二足歩行。
鋭い歯と爪。
口から火花が散る。
「キシャャャャ!!! ガキはどこだ!! キシャャャャャ!!!」
カブラ・カブリオーラ。
その足元で、子どもが泣いている。
「うわぁぁん!!」
「危ない! スターダストスラッシュ!」
フェトゥ=ハーネアネアが飛び出し、星屑の軌跡を描く斬撃を放つ。
火花が散る。
「グッ!? ……邪魔をするなぁ!!!!!」
爆炎。
衝撃波。
フェトゥが吹き飛ばされる。
「大丈夫!?」
彩葉が駆け寄る。
「問題ない」
フェトゥはすぐに立ち上がる。
「……あれが、カブラ・カブリオーラですわね」
ココア=モカ=コフィアが静かに構える。
「うん」
アンナの声は低い。
カブラ・カブリオーラが周囲を見渡す。
「……チィッ、分が悪いか……」
「逃げたぞ!?」
喰が叫ぶ。
「逃さない! エンチャントバレット!!」
陽菜の魔弾が放たれる。
命中。
「グッ!? ……」
だが、怪異は煙を吐きながら森へと跳んだ。
「当たったけど、逃げられました」
陽菜が歯を噛む。
「追いかける」
アンナは即座に走り出す。
「あ! 待って……行っちゃった……私たちも行く?」
彩葉が振り返る。
皆が頷いた。
「空から案内するなの!」
アビが舞い上がる。
「お願い!」
「こっちなの!」
空を駆ける案内。
地上を走る仲間たち。
市街地を抜け、森へ。
湿度が増し、空気が重くなる。
やがて、巨大な樹々が並ぶ地帯に入る。
アマゾン近く。
「はぁ、はぁ……ここまでくれば……」
カブラ・カブリオーラが木陰で息を荒げる。
その背後。
「逃さない……絶対に逃さない」
低い声。
アンナが立っていた。
アンテナが真紅に光る。
「!?」
怪異が振り返る。
森の奥で、空気が張り詰める。
逃げ場はない。
ここは――密林。
狩る者と、狩られる者。
その立場が、いま逆転しようとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




