桜菊祭・中編
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
「おい! 何だあれは!?」
悲鳴に近い声が、祭りの喧騒を切り裂いた。
人々が一斉に空を見上げる。
そこにいたのは――
まるで木星のような、歪に丸い巨体。
表面は不気味に脈打ち、中央には巨大なひとつ目が開いていた。
「貴様ら人間どもと――人間どもとつるんでいる奴らよ!」
低く、憎悪に満ちた声が夜空に響く。
「俺は宣言する!
こんな祭り! 破壊し尽くしてやる!!!」
「な、なにあれ……!」
彩葉は思わず一歩後ずさった。
影は栞の陰に隠れ、身体を小刻みに震わせている。
「何だあれ!? 妖怪か!?」
「いや……あれは妖怪ではない」
栞の声は、珍しく緊張を帯びていた。
「古い文献で読んだことがある……
あれは太歳星君。中国に伝わる、祟り神じゃ!」
「中国!? なんでここに!」
陽菜の問いに、巨大な瞳がぎょろりと動いた。
「なんでだと?」
太歳星君は嗤う。
「俺は人間が――だいっきらいだ!
だから潰す。それの何が悪い?」
「そんな……!」
彩葉は拳を握りしめる。
「こんな幸せな祭り……壊させない!」
「やれるものなら、やってみろ」
その瞬間――
空気が歪み、周囲の景色が暗転した。
「これは……?」
「結界じゃ! 気をつけろ!」
栞の叫びと同時に、太歳星君が宣告する。
「断界同盟、太歳星君。
貴様らを、直々に潰してやろう」
「断界同盟……?」
陽菜が言葉を反芻した、その時。
「ほぅ……お前が、あの断界同盟のメンバーか……」
低い声とともに、影がひとつ、結界の縁から現れた。
「……つぶします……」
「猿夢!?」
彩葉が振り返る。
「……そして」
もうひとり、鋭い気配を纏った青年が前に出る。
「刀の守護者、村正だ。よろしくな!」
「お久しぶりですね、村正。僕を覚えているかい?」
「当たり前だろ?
江戸の夜で、ともに暴れた仲じゃねぇか」
「暴れたのは、あなただけでしょう?」
陽菜は苦笑し、銃を構える。
「まぁいいです。さて……
戦いといきましょうか」
「かかってこい!」
太歳星君の咆哮と同時に、戦端が開かれた。
「――ストラップ・ニードルバインド!」
彩葉のショルダーストラップが走り、巨体を絡め取る。
「ッ!? これで俺を固定したつもりかァ!!!」
「嘘……一瞬で……!」
拘束は、容易く引きちぎられた。
「俺は神だ!!
この程度の拘束、効かぬわ!!!!」
「合わせるぞ、陽菜!」
「うん!」
「妾も手を貸そう……
妖術・百鬼昂揚!」
空気が震え、仲間たちの力が一気に高まる。
「これは……!」
「全能力を底上げする妖術じゃ」
「ありがとう」
「感謝する、栞殿……
――妖刀・血風乱刃!」
村正の斬撃が、赤い旋風となって走る。
「早い――!?
グァアァァ!? き、貴様ぁ!」
「富士・雷風バレット!」
陽菜の放った一撃が、雷鳴とともに太歳星君の眼を貫く。
「グッ……目が!?
くそが! 呪術・太歳呪砲!」
巨大な眼から、黒い光線が放たれる。
「させない!」
彩葉は前に出た。
おぼろげな感覚で異空間を開き、光線を呑み込む。
「――返す!」
次の瞬間、同じ攻撃が太歳星君へと跳ね返った。
「何ッ!?
グァァァ……!」
「……まだ終わってない……」
猿夢が静かに一歩踏み出す。
「狂気・えぐり出し」
「ぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
太歳星君の絶叫が、結界を震わせる。
「こんな……ところで……
終われるかァァァ!!!」
「まだやる気?」
陽菜は冷静だった。
「いくら立ってこようと、仕留めるだけだ」
「……うん……」
「つ、強い……」
喰は呆然と呟き、影はただ黙って戦場を見つめていた。
「まだだ! まだ俺は――!」
「――おしまいだよ?」
鈴の鳴るような声が、戦場に落ちた。
「誰だ!?」
太歳星君が叫ぶ。
その前に、ひとりの少女が立っていた。
小柄な体。
静かな微笑み。
だが、その存在そのものが、異様な重さを放っている。
夜風が吹き、祭りの灯りが揺れた。
――戦いは、まだ終わっていなかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
桜菊祭編は、彩葉にとって「守護者としての力」だけでなく、「人や他の存在と並んで立つ覚悟」を描く章でした。
人間、守護者、妖怪、怪異警官――立場も生まれも違う者たちが、同じ祭りを守るために肩を並べる。その姿こそが、この世界で“友好”という言葉が持つ意味だと思っています。
第十三話では、断界同盟という大きな脅威の一端が姿を現しました。
太歳星君は単なる敵ではなく、「人間への憎しみ」という歪んだ感情の塊でもあります。彼の存在は、この世界が決して平和一色ではないこと、そして彩葉たちがこれから直面していく現実を象徴しています。
そして、最後に現れた謎の少女。
彼女が何者なのか、敵か味方か。
それは、これからの物語で明らかになります。
守護者〈アルケオン〉の物語は、まだ始まったばかりです。
彩葉たちの旅と選択を、これからも見守ってもらえたら嬉しいです。
彩葉たちの旅は、まだ始まったばかりです。次回は20時00分に投稿予定です




