蒼海の呼び声、常夏に潜む異形
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
長く白い雲の国――ニュージーランドに、束の間の平和が訪れてから数日が過ぎていた。
山々は静かに風を受け、海は穏やかに呼吸を続けている。
あの戦いがまるで夢だったかのように、世界は再び優しい顔を取り戻していた。
その日のことだった。
「なぁ、一緒に来てくれないか?」
不意に、セキが彩葉へ声をかけた。
「え?」
彩葉は目を瞬かせる。
「実はな、仲間から連絡が来てな。敵の怪異が厄介らしいんだ。だから……来てくれないか?」
その声は、普段の軽さを少しだけ失っていた。
「その怪異って?」
「わからない」
セキは首を横に振る。
「急に『パラオ』に現れた怪異らしくてな」
パラオ――
常夏の島々が浮かぶ、蒼き海の国。
未知の怪異。
未知の戦場。
彩葉はしばらく考え、そして仲間たちの元へ向かった。
「……ということなの」
彩葉は皆へ事情を伝えた。
陽菜、影、喰、栞、村正、レナ、マミ、アビ、花火、リリア=エジソン、マイ、フェルル、メデューサ、李=芳乃、ユキ、ベアトリス、ココア=モカ=コフィア――
誰もが真剣な表情で聞いている。
沈黙。
そして彩葉は、まっすぐ顔を上げた。
「はい! 決めました! 行きます!」
迷いはなかった。
「そうか! ありがとう!」
セキが嬉しそうに笑った。
「アビが連れてくなの」
アビが胸を張る。
「うん、お願い」
陽菜が優しく頷いた。
その時だった。
「まって……」
静かな声。
振り向くと、そこにはフェトゥ=ハーネアネアが立っていた。
「あ~!! もう! さっきはどこ……」
レイナが駆け寄る。
だがフェトゥは、真っ直ぐ彩葉を見ていた。
「彩葉……だっけ? 一緒に行ってもいい?」
「いいけど……なんで?」
彩葉が首を傾げる。
フェトゥは少しだけ視線を逸らし――
「……気に入ったから……みんなの恩人だから……ダメ?」
その声は、ほんの少し不安そうだった。
彩葉は微笑んだ。
「……ううん、いいよ! 行こ!」
「……っ……うん!」
フェトゥの表情が、わずかに明るくなる。
「私と、甘奈は海から行くよ」
セキが言った。
「うん……花子をお願い」
甘奈が彩葉を見る。
「しゅっぱーつ!!」
花子が元気よく手を上げる。
「エアーライド……なの」
アビが手を広げた。
空気が震える。
透明な力が集まり、空間が持ち上がる。
「……三途の川にフェトゥちゃんを連れてく依頼なのに……まぁいいか」
レイナが小さく呟いた。
そして――
彩葉たちは、空へと浮かび上がった。
青い空。
白い雲。
そして、その下に広がる蒼き海。
島々が、宝石のように散らばっている。
パラオ――
常夏の楽園。
だが、その美しさの裏で、異変が起きていた。
その頃。
パラオの、とある海岸。
波が静かに打ち寄せている。
だが――
そこに、“それ”はいた。
人のようで、人ではない。
影のようで、影ではない。
揺れている。
崩れている。
そして――
「アンーミョージーーー」
それは、声を発した。
「アンーミョージーーーー……………………」
歪んだ音。
水の中から響くような声。
「ジョーーーーミーーーーシーーー」
砂が黒く染まる。
海が、わずかに濁る。
「ジョーーーーミーーーーシーーーー……」
呼んでいる。
何かを。
誰かを。
そして――
常夏の楽園に、新たな怪異が目を覚ました。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




