星堕ちて、虚無は解ける
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
「……霊魂ごときが、我を撃ち落とすだと?」
地に叩きつけられた巨躯が、黒い羽根を震わせる。
ヴォイド・ハーストの無数の瞳が、フェトゥ=ハーネアネアを睨みつけた。
「……私はただ、マオリ族を滅ぼすものを許さないだけ」
少女は静かに前へ出る。
「お家を犯すものは潰す!」
その声は小さい。だが、山の空気を震わせるほどの決意があった。
「……あの霊もずいぶん古いな……」
セキがぼそりと呟く。
「私一人で、やる……あんたたちは帰って」
「え? でも!」
彩葉が声を上げる。
「横取りはメーなのー!」
花子が頬を膨らませる。
「……」
フェトゥはわずかに困ったように目を伏せた。
「困惑しているぞ……」
甘奈が冷静に言う。
「……わかった、協力したげる……」
「うん!」
彩葉が強く頷いた。
「何体束になったところで……雑魚には変わらぬ! 食い殺してやる!!!」
「私もう死んでるけど」
レイナがさらりと言う。
「わたしも……」
フェトゥも続ける。
「……うるさい!!! しねぇ!!!! デスフェザー!!」
無数の黒い羽根が刃となり、嵐のように放たれる。
「霊魂・天の慈雨!」
レイナの両手から柔らかな光雨が降り注ぐ。
羽根の斬撃が、光に触れた瞬間、霧のように消えた。
「なぬ!? 我が羽根の斬撃が消えた!?」
「ふっふっふっ! 私は魂を三途の川に帰すのが役目だから! 力を授かったの」
「よくやった! もう一度叩き落とせ!」
セキが叫ぶ。
「言われなくても……リーダー……ハァッ!」
甘奈の蛇身が再び唸る。
鞭のようにしなり、ヴォイド・ハーストを強打。
「グッ!? この程度……」
再び飛び上がろうとした、その瞬間。
「水圧の楔です!」
花子の水が足に絡みつき、重く縛る。
「!?」
「フレイムバレット!」
「アドレナリン・スプラッシュ!」
陽菜の炎弾が貫いた穴へ、レナの薬液が流れ込む。
「っ!?!?!?」
内側からの衝撃。
ヴォイド・ハーストが暴れ出す。
「石化!……っ!……やっぱり、大きいと大変」
メデューサの視線で、足だけが石と化す。
「グアァァアア!!! こ、小癪なぁ!」
「ストラップ・ニードルバインド!」
「ダークバインド!」
「私も、できるかも……神力の鎖……できた!」
三方向からの拘束。
影の神の鎖が絡みついた瞬間、ヴォイド・ハーストの動きが明らかに鈍る。
「キィーーーーイ!?!?!?」
背後から、ユキのMG42が唸りを上げる。
「今だ! 翼を狙え!!」
セキが叫ぶ。
「アサシン・ブレンドスラッシュ!」
「トリニティスラッシュ……」
「陽光・陽日輪!!」
斬撃と光が翼を切り裂く。
「ぐぁあぁ!? つ、翼がぁ!?」
「これほど一方的とは……敵が可哀想になってきた」
李=芳乃が苦笑する。
「うむ……だが、あやつは掟を破って人間を襲ったようじゃし、討伐か、監視対象になるだけじゃ……」
栞が淡々と告げる。
「でも、監視対象になっても、多分暴れる……」
マミが呟く。
「うん……」
リリアも頷く。
「ふぇぇぇ……掟、怖いです」
マイが震える。
「……」
フェルルは黙って戦況を見つめている。
そして――
「……あリがとう……スターメテオクラッシュ……」
フェトゥが空へ手を掲げた。
空気が凍る。
次の瞬間。
幾つもの光の星が降り注ぐ。
轟音。
「っ! がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?……」
光が収まった時、黒い羽根は崩れ始めていた。
「…………?」
ヴォイド・ハーストの中心から、淡い光が滲み出る。
そして――
「……解放……してくれて……ありがとう……」
微かな声。
黒はほどけ、無数の光の鳥となって空へ舞い上がった。
最後に、ひときわ澄んだ鳴き声が響く。
「キィーーーーイ……」
それは、もはや怨嗟ではなかった。
静寂。
「……」
彩葉は、空を見上げた。
「まぁ、想霊ってのはそういう感情が合わさってできたものもいるからな」
セキが肩をすくめる。
「指示してただけのやつが何を言ってんだか」
村正が呆れる。
「な、何!? 指示だって立派な仕事だろう?」
「はははっ!」
花子が笑う。
「……」
甘奈は静かに空を見る。
「……」
フェトゥは背を向けた。
「ちょっと!? どこ行くの!?」
レイナが慌てる。
「私はもう役目を終えたから、見回りしてくるの」
「彷徨ってちゃ私が怒られるの~!!!」
「あなたも彷徨ってるじゃないですか」
「私は仕事~!」
騒がしいやり取りの中。
彩葉は、消えていった光の鳥たちを見つめ続けていた。
悪だったのか。
それとも、救いを求めていただけだったのか。
長く白い雲が、ゆっくりと流れていく。
戦いは終わった。
だが、世界の深淵は、まだ静かに口を開けているのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




