黄泉より来たりし者と虚無の鳥
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
彩葉たちは、花子に連れられ、長く白い雲の国ニュージーランドの山道を歩いていた。
空は高く澄み、遠くには氷河を抱く山々。足元には羊歯が生い茂り、冷たい風が頬を撫でる。
「もうすぐだよ~」
花子が軽やかに振り返る。
やがて、視界が開けた。
岩に囲まれた広場。中央には焚き火の跡。そこに、二つの異形の影があった。
「甘奈お姉ちゃん! セキお姉ちゃん! ただいま! 英雄さん達連れてきた!」
そこにいたのは――
蛇の下半身を持ち、六本の腕をしなやかに揺らす女性。そして、背丈よりも大きな赤黒いハサミを携えた少女。
「……こんにちは……」
彩葉が一礼する。
「おぉ! あの英雄か! おや? そちらにいるのは」
「久しぶりだな、セキ」
村正が口元を緩める。
「知り合いなの?」
レナが小声で問う。
「まぁ、リーダーは有名だからな」
蛇身の女性が静かに言う。
「リーダー?」
ユキが首を傾げる。
「てことは、怪異警官のリーダー?」
マミが目を見開く。
「おうよ! 私は怪異警官の創立者だ! それでこいつが姦姦蛇螺の甘奈だ!」
「……よろしく」
甘奈は伏し目がちに言った。
「何だ、元気ないな」
「私はこんなもの……」
(……姦姦蛇螺って封印されてなかった?)
マイがひそひそと。
「ねぇ? 封印は?」
「その封印なら仲間になる時壊したぞ?」
「えぇ~……まぁ、人間に害がないならいいけど」
「まぁ、近頃は人間を襲わないと誓えば封印を解いてもいいって考えが主流だからな」
陽菜が補足する。
「セキさんは、何の怪異なんですか?」
影が尋ねる。
「ん? 私か? 私は赫バサミだ」
「何だそれ聞いたことねぇ」
喰が眉をひそめる。
「あはは~知らなくせ当然だよ~」
振り向けば、半透明の少女がふわりと浮いていた。
「お、お前も来たか、レイナ」
「知らなくて当然って?」
「んーっとね、赫バサミって都市伝説は~『黄泉の国』で伝わってるからだよ~」
「お前までいたとは、騒霊よ」
村正が呆れたように言う。
「想霊!?」
彩葉がびくり。
「ふふっ、そっちじゃないですよ? 彩葉? 騒がしい霊と書いて騒霊」
陽菜がくすりと笑う。
「あ、」
「そうです~私は騒がしい霊……って! 誰が騒がしいですか!」
「騒がしいじゃねぇか」
「たしかに」
ベアトリスが即答。
「ちょっと!?」
「あははっ! 皆仲良くしてて楽しい!」
花子が無邪気に笑う。
「たしかに」
メデューサも頷く。
「あれ? アケイシャは三人って言ってなかった?」
アビが首をかしげる。
「あぁ~それは、私は日本から直接ここに来たからですね~」
「な、なるほど」
「ん? ちょっと待てお主、いつの霊魂だ? ずいぶん古いように見えるが」
李=芳乃が目を細める。
「ん~? 新石器時代~」
「は?」
「こいつの言ってることは事実だ。冥界も昔は連れてくるように色んなやつを派遣してたっけな~……全てこいつに食われたが」
「えへへ~」
「へ、へぇ~……」
「まぁ、今は違うのですか?」
ココア=モカ=コフィアが尋ねる。
「あぁ、今は閻魔直々に頼み事を受けてて彷徨える者を帰してる」
「うん!」
「なるほどの」
栞が頷く。
「ねぇ! ここに来た理由って?」
花火が手を挙げる。
「ん~? えっとね、昔の英霊がいるって聞いたから来たの」
「英霊?」
レナが目を輝かせる。
「英霊とは色んなことで功績などを称えられたものがなるものよ」
リリア=エジソンが説明する。
「へぇ~なんかすごそう!」
「でも見つからなくて、マオリ族なのはわかってるんだけど……」
「そうだ、今回の異変って?」
彩葉が本題を切り出す。
「ヴォイド・ハーストだ」
「ヴォイド・ハースト?」
メデューサが繰り返す。
「あぁ、想霊の類らしくてな。山奥で封印されてたのが解かれて、近頃街にまで出てくるようになったんだ」
「その想霊って、ハーストイーグルっていう鳥の集合体で結構でかい」
「どのくらい?」
ユキ。
「う~んっとね~10……メートル??? わかんない、はかったことないし」
「まぁ、アレに近づいたらお前食われそうだしな」
「ひどい!」
「もしかしてそいつが断界同盟の可能性があるかな?」
彩葉が真剣な眼差しを向ける。
「はぁ、断界同盟でなくても、封印を解いたのが断界同盟という可能性があるな」
「でも、たおさないと!」
花子が拳を握る。
「あぁ! そうだな!……よし! あらためて会議と行こう!」
「え!?」
こうして彩葉たちは、焚き火を囲み長く話し合った。
ヴォイド・ハーストの出現位置。
封印の痕跡。
断界同盟の関与の可能性。
山の風が、ざわりと鳴る。
その時――
おや?
木々の茂みが、わずかに動いた。
誰も気づかぬほど、ほんのわずかに。
「……必ず……」
低い囁きが、森に溶ける。
それは、虚無の翼か。
それとも、別の何かか。
戦いの足音は、すぐそこまで迫っていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




