表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケオン  作者: れんP
オセアニア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/182

南十字の都、風はやさしく

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 太古の大地を震わせた戦いは終わり、赤土の平原には静かな風が戻っていた。遠くでユーカリの葉が擦れ、乾いた空気にほのかな青い香りが混ざる。


「感謝するよ。ありがとう」


 アケイシャが柔らかく微笑む。


「い、いえ!」


 彩葉(いろは)は少し照れながら首を振った。


「ふふっ、優しいんだね。次はニュージーランドに行くのかな?」


「はい! 怪異警官の人を手伝いに行きたくて……でも、話し合ったんですが、」


「?」


「この国を案内してくれませんか? もっと世界を知りたくて」


 アケイシャは一瞬、空を見上げ、それから小さく笑った。


「……ふふっ、うん、いいよ。おいで」


「わーい!」

 レナが両手を上げて跳ねる。


 ――やがて一行は、オーストラリアの首都キャンベラへと足を踏み入れた。


 整然とした街路は広く、青く澄んだ空がどこまでも高い。都市でありながら、どこか静謐で、呼吸が深くなるような空気が流れている。


 最初に訪れたのは、湖のほとり。


「きれい……」


 影の視線の先に広がるのは、バーリー・グリフィン湖。水面は鏡のように光を反射し、中央からは白い水柱がまっすぐ天へと噴き上がっている。キャプテン・クック記念噴水だ。


 陽光を受けた水滴が虹を生み、湖畔では人々がのんびりと散歩をしている。サイクリングを楽しむ者、芝生で読書をする者、笑い声が風に乗る。


「自然がいっぱい!」

 ユキが目を輝かせる。


「計画都市だからね。自然と共存する設計なんだ」


 アケイシャの案内で、なだらかな丘へと登る。アンザック・パレードの直線道路がまっすぐに伸び、その先に白く壮麗な建物が見える。


「あれが国会議事堂だよ」


 丘の上に広がる近代的な建築。芝生の屋根の上には巨大な旗がはためいている。風を受けて揺れるその姿は、この国の誇りを静かに語っているようだった。


 内部に入ると、磨き上げられた大理石の床と、赤と緑に分かれた議場の色彩が印象的だ。


「議場の色が違うね……」


「上院と下院で色が分かれてるんだ。自然を意識した配色なんだよ」


 陽菜(ひな)は静かに頷く。

 世界にはそれぞれの歴史があり、形があり、思想がある。その一端に触れていることを実感する。


 次に訪れたのは、オーストラリア戦争記念館。


 荘厳な空気が漂い、回廊の壁には無数の名前が刻まれている。


「……」


 マミは言葉を失う。


 戦いの歴史。守るための犠牲。

 静かな献花台に立つと、さきほどの激戦が脳裏をよぎる。


「平和って、当たり前じゃないんだね」


 ぽつりとこぼれたベアトリスの言葉に、アケイシャはゆっくり頷いた。


「だから守る価値がある」


 重さと温もりのある言葉だった。


 午後はナショナル・ギャラリーへ。

 先住民アボリジニのアートが壁一面に広がる。点描で描かれた大地、精霊、夢の物語――ドリームタイム。


「色が……生きてるみたいなの」


 アビは絵に吸い込まれるように見入る。


「この国の“はじまり”の物語だよ」


 太古の自然と重なる感覚に、彩葉は静かに胸を打たれた。


 夕暮れ時、再び湖畔へ戻る。


 空がオレンジから紫へと溶け、湖面がその色を映す。遠くで黒鳥が羽ばたき、水面に波紋を描いた。


「ほんと広いね、世界って」


 レナが芝生に寝転びながら言う。


「うん……知らないことばっかり」


 彩葉は夕焼けを見つめる。


 戦いもある。悲しみもある。

 けれど、それだけじゃない。


 人の営みがあり、文化があり、笑顔がある。


「次はニュージーランドだね」


 アケイシャが穏やかに言う。


「はい。でも……また戻ってきたいです」


「いつでも歓迎するよ」


 南十字星が、ゆっくりと夜空に浮かび始める。


 太古の大地にも、確かな平和が根づこうとしていた。

 そして彩葉たちの旅もまた、新たな景色へと続いていくのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ