虚しき角笛と感情体
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
太古の大地に、再び砂嵐の気配が満ち始めていた。
乾いた風が唸り、赤土が舞い上がる。
その中を、彩葉たちは突き進む。
荒土獣「……!!!!」
唸り声とともに、巨大な影が飛び出した。
「邪魔!」
アケイシャの声が鋭く走る。
次の瞬間、重い衝撃音が響いた。
荒土獣「!?!?!?」
横薙ぎの蹴りが、分厚い装甲ごと獣を吹き飛ばす。岩のような身体が宙を舞い、砂煙の向こうへ消えた。
「すごいなの……次々と蹴飛ばしてるなの……」
アビが目を丸くする。
「うむ、さすが国シリーズの守護者といったところかの」
栞が感心したように頷く。
「しかし奥に行くに連れ、だんだん増えてきておる。警戒を強めていくのじゃ」
言葉通り、前方から次々と荒土獣が現れる。
地面を揺らし、群れをなして突進してくる。
アケイシャは一歩も退かない。
踏み込み、回転、蹴撃。
一撃で一体、二体。
時に跳躍し、空中で軌道を変えながら踵を振り下ろす。
衝撃が波となって広がり、荒土獣たちがなぎ倒されていく。
仲間たちもそれぞれに応戦しながら、確実に奥へと進んでいった。
砂煙の中、最後の一体が彩葉へ向かって跳びかかる。
「これで最後……なの!」
アビの放った一撃が荒土獣の足を払う。
荒土獣「!!???!」
体勢を崩した瞬間、アケイシャの蹴りが直撃し、巨体は地に伏した。
やがて、辺りは静まり返る。
「もういないようですね」
アケイシャが周囲を見渡した。
そのとき。
「ヒヒッ、虚しい……虚しいねぇ〜」
不気味な声が、上方から降ってきた。
「――あそこです!」
陽菜が指さす。
大きな樹の枝の上。
そこに、少年の姿があった。
足をぶらつかせ、角笛のようなものを手にしている。
「ヒヒッ、はじめましてかなぁ〜、英雄の諸君」
少年は歪んだ笑みを浮かべた。
「私は『エンプティ』。虚しい感情から生まれ、虚しいを司る者だ」
「エンプティ……?」
アケイシャの目が鋭くなる。
「それにあれは、想霊の上位個体と呼ばれる『感情体』で間違いありません」
「……あれが」
ユキが小さく呟く。
「想霊の上位個体……」
彩葉も見上げる。
「ヒヒッ、そうだよ〜? 私は感情体だよ。もしかして、感情体に会ったのは初めてかな? 英雄さん?」
エンプティは愉快そうに首を傾げる。
「……感情体は意思と身体をもつ想霊。司るものによって能力が変わる」
李=芳乃が低く告げる。
「気をつけろ」
「おい! 何が目的だ!」
喰が叫ぶ。
「私ですか?」
エンプティは空を仰ぎ、笑った。
「……そうだ、生き物が減るのは虚しいと思いませんか〜?」
「急にどうした?」
村正が眉をひそめる。
「ヒヒッ! ですから、私が新たな生物を作り、在来種を消し去る。この世の在来種がいなくなったことによる“虚しい”を食す!! これほど素晴らしいものはないでしょう!!」
「つまり、あのサイみたいなのは……」
花火が息を呑む。
「えぇ、私の創造物ですよ?」
メデューサは黙り込む。
「想霊って、感情を食べるの?……」
影が不安げに問う。
「あぁ! だから取り付くんだ」
村正が拳を握る。
「でも上位個体は身体をもつ。取り付く必要がなく、直接干渉する。それに他の想霊より強い……」
「厄介……」
ベアトリスが低く言う。
「そうですわね」
ココア=モカ=コフィアも頷く。
「でも、そんな野望! かなえさせない!」
マミが前に出た。
「はい!」
リリア=エジソン。
「必ず止める!」
レナ。
「は、はいぃ〜……」
マイ。
「みんな! がんばるんだ!!」
フェルルが声を張る。
彩葉は一歩踏み出した。
「みなさん! 止めましょう!」
「はい!」「あぁ!」「えぇ!」
声が重なる。
エンプティは枝から軽やかに飛び降り、角笛を構えた。
「ヒヒッ! ヒヒヒッ!! 来るか? いいだろう!!」
その瞳が妖しく輝く。
「貴様らの感情もしぼりとり! 食らってくれる!!!」
再び角笛が鳴り響こうとしていた。
太古の大地に、新たな戦いの幕が上がる。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




