鳴り響く角笛と想いの影
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
太古の自然が息づく大地に巻き起こっていた砂嵐は、いつの間にかおさまっていた。
空は高く澄み、乾いた風が草原を渡っていく。
いろはたちはしばらく歩き続け、やがて奇妙な足跡が残る場所へとたどり着いた。
「なぁ、あのサイみたいな獣はなんなんだ?」
村正が口を開く。
先ほどアケイシャが蹴りで倒した巨大な獣のことだ。
「わかりません」
アケイシャは首を横に振る。
「最近増えていたので……ですが、妖獣の類かと」
「妖獣……」
栞が顎に手を当てる。
「たしかに、妖怪と獣の間のような感じじゃったな」
「あれが暴れているのですか?」
陽菜が問う。
「えぇ。人間にも被害が……」
アケイシャは静かに答える。
「怪異警官の人たちは、ニュージーランドの方でなんとかしてくれてるみたいです」
「怪異警官が来てるのか?」
村正が目を細める。
「えぇ、三人ですが」
アケイシャは続ける。
「ここを一通り調べたあと、ニュージーランドへ渡りました。あちらの方が深刻ですので、私が頼んだのです。……まぁ、元凶はわからないのですが」
「なにか手がかりは?」
李=芳乃が冷静に尋ねる。
「いえ、ありません。不思議な音が、不定期に流れることくらいでしょうか?」
「音?」
ユキが反応する。
「えぇ。楽器を吹いているような――」
そのとき。
ブォーーーーン……
ブォーーーーーン……
低く、遠く、けれど大地を震わせるような音が響いた。
「この音です!」
アケイシャが即座に言う。
「不思議な音……」
彩葉が目を閉じる。
「……この音……」
ユキの声がわずかに震えた。
「ユキちゃんも感じた?」
リリア=エジソンが小声で問う。
「はい」
「やっぱりそうですよね」
マイも頷く。
「なにか、わかったのですか?」
アケイシャが振り返る。
リリア=エジソンが静かに告げる。
「これ、想霊が出してる音」
「え?」
メデューサが目を見開く。
「想霊って、あの?」
「うん……」
ユキが小さく頷く。
アケイシャはわずかに息を呑んだ。
「……想霊。ですが、このようなことを起こす想霊は記録にない……新種?」
「だとしたら」
ベアトリスが眉をひそめる。
「どんな想いから生まれたのかわからない」
「どうするなの?」
アビが彩葉を見る。
「その音、どこから来てるかわかる?」
彩葉が三人に問う。
「はい」
マイが即答する。
「うん」
リリア=エジソンも。
「わかるよ」
ユキの瞳が、遠くを見据える。
彩葉は強く頷いた。
「じゃあ、その音を突き止めましょう!」
「うん! 行こう!」
花火が拳を握る。
「想霊か……」
フェルルが慎重な声を出す。
「魔法少女たちも、たまに苦戦している敵だ。どんな力があるかわからない。慎重に行こう」
「うん!」
彩葉が言う。
「うん、頑張る」
影が言う。
「任せろ!」
喰が言う。
「おまかせくださいですわ」
ココア=モカ=コフィアが言う。
他の仲間たちもうなずく。
「みなさん、あリがとうございます」
アケイシャは深く頭を下げた。
そして一行は、妖獣がうずまく草原の奥へと進んでいく。
――その頃。
赤茶けた岩場の影。
そこに、角笛のようなものを手にした“何か”が立っていた。
「もっとだ……もっと……」
くぐもった声が、ひび割れた大地に溶ける。
「……君たちの虚しさを教えてくれ! ヒヒッ」
謎の存在は、再び角笛を口元へ運ぶ。
ブォーーーーーン……
低く、重く、
想いを歪ませる音が、草原へと解き放たれた。
その音に呼応するように、遠くで妖獣の咆哮が重なる。
戦いは、すぐそこまで迫っていた。
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