灼熱の大地に咲く白と黒の花は、やさしい人だ
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
灼熱の大地に吹く風は乾いているが、不思議と冷たさを含んでいた。
太陽の光に焼かれた大地の上で、白と黒の花のような二人の守護者は、静かに並んで歩いている。その背中は強く、同時にどこか優しかった。
「それで、カトレア・ノワールはどこに?」
彩葉が問いかける。
「ケニアで目撃情報がある」
ムトゥリヴは淡々と答えた。
「かなり曖昧だが、花粉による精神汚染の報告が出ている」
「それなら」
ロゼ・シュジャーは白い斧を肩に担ぎ、軽く笑う。
「一緒に行こうか?」
「お願いします!」
ベアトリスは迷いなく頭を下げた。
「うん」
ムトゥリヴは短く頷く。
「その前に……少し、寄り道だ」
そうして彩葉たちは歩みを進め、やがてタンザニアの街へと辿り着いた。
乾いた大地とは対照的に、街には人の営みの痕跡が残っていた。
低い建物が連なり、色あせた壁には手書きの文字や絵が残されている。市場の名残なのか、香辛料と土埃の匂いが混じり合って漂っていた。
「街だ~!」
レナが声を弾ませる。
「ここで情報を集めよう」
ムトゥリヴは周囲を見渡しながら言った。
「全員で動くより、分かれたほうがいい。ここでも何か掴めるはずだ」
その言葉に従い、彩葉たちはいくつかの組に分かれて街へ散っていった。
彩葉とベアトリスは、比較的静かな裏通りを歩いていた。
昼間だというのに、人影は少なく、乾いた風が紙屑を転がしていくだけだった。
「う~ん……人がいないね」
彩葉が首をかしげる。
「うん……」
ベアトリスも周囲を見回し、ふと足を止めた。
「……あれ?」
路地の奥、日陰の部分に小さな人影があった。
茶色い髪の少女が一人、壁際に立っている。その前には、数人の荒んだ男たちが立ち塞がっていた。
「おいお前! コーヒー出せや!!!」
下卑た声が響く。
「そうだ! とびきりうまいやつをな!」
そこには店も屋台もない。ただの何もない路地裏だった。
それでも男たちは、茶色い髪の少女を取り囲み、威圧するように肩を揺らしている。
「あなた達に出すコーヒーはありませんわ」
少女は落ち着いた声で答えた。
「アァ~ん? なんだと?」
男の一人が顔を近づける。
「もういっぺん言ってみろ!!」
「何度でも言いますわ」
少女は一歩も引かない。
「あなた達に差し上げるコーヒーは、ありませんわよ?」
「なんだと!? この……!」
男の手が伸びた、その瞬間。
「硬質化!」
彩葉の声と同時に、肩から垂らしたストラップが硬質化し、鋭い動きで男たちを打ち据えた。
鈍い音が連続し、悲鳴が路地に響く。
「ぐぁっ!?」
「な、なんだこいつ……!」
数秒後には、男たちは地面を転がりながら逃げ去っていった。
「……あの子」
ベアトリスは少女を見つめ、静かに呟く。
「えっと、大丈夫?」
彩葉が声をかける。
「はい」
茶色い髪の少女は小さく微笑んだ。
「大丈夫ですわ。助けてくださって、ありがとうございますわ」
「彩葉」
ベアトリスは小声で言う。
「この子、人間じゃない」
「え?」
彩葉は驚いて少女を見る。
「精霊」
ベアトリスは断言した。
少女は否定せず、むしろ楽しそうに目を細めた。
「そうですわ」
胸に手を当て、優雅に名乗る。
「私はコーヒーノキの精霊、ココア=モカ=コフィアですわ」
その名を口にした瞬間、微かに甘く香ばしい香りが路地に漂った。
まるで焙煎した豆のような、温かく落ち着く匂い。
「ふふっ」
ココア=モカ=コフィアは微笑む。
「この街では、よくあることですの。価値があるものを持っていると思われると、こうして絡まれますわ」
「でも……」
彩葉は眉を寄せる。
「ここ、何もなかったよ?」
「ええ」
精霊は頷いた。
「それにあの方たちに出すコーヒーはありませんの」
その言葉に、ベアトリスは静かに息を吐いた。
灼熱の大地の中で、白と黒の守護者が人を守り、
その影で、静かに根を張る精霊が街を支えている。
タンザニアの街は、見えないところで確かに生きていた。
そしてその優しさは、これから向かう戦いの地へも、きっとつながっていくのだろう。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




