白き斧と黒き大地の守護者
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
灼熱の大地には、死の気配だけがあるわけではなかった。
太陽は容赦なく照りつけ、乾いた風が吹き抜けるその下で、無数の命と緑が息づいている。
草は強く、獣は逞しく、人はこの大地に根を張って生きていた。
「タンザニア……広いね」
彩葉は地平線を見渡しながら、素直な感想を口にした。
視界の先まで続くサバンナ。
黄金色の草原の合間に、低木やアカシアが点在し、遠くでは何かがゆっくりと動いている。
「まぁな」
李=芳乃が腕を組む。
「この国はサバンナがほとんどだ。あとは様々な部族が、様々な場所で暮らしている」
「ほぇ~」
レナは目を輝かせる。
「あははっ、かわいい~」
リリア=エジソンは、少し前方を指さして笑った。
そこには、悠然と佇む一頭のライオンがいた。
黄金のたてがみを風に揺らし、こちらをじっと見つめている。
「……」
ライオンは動かない。
「リリアちゃん、危ないよ~」
マイがそっと注意する。
「案外、おとなしいですね」
ベアトリスは少し驚いたように言った。
「うん……」
メデューサも周囲を観察する。
「敵意はないみたい」
「他の動物たちも」
マミが目を細める。
「……ちゃんと、なじんでる」
その空気を破ったのは、不自然な音だった。
「……車の音?」
影が振り返る。
「……あれじゃないか?」
喰が目を細める。
「……こっちに突っ込んでくるぞ!」
砂煙を上げながら、数台の車両が猛スピードで迫ってきていた。
「危ない!」
栞が声を上げた、その瞬間――
「ちょっと前を失礼……」
澄んだ声が響く。
「――ホワイトアックス!!」
轟音とともに、白い閃光が走った。
次の瞬間、突っ込んできた車両はまとめて吹き飛ばされ、空中で粉砕される。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
悲鳴は爆音にかき消され、残ったのは黒煙と転がる残骸だけだった。
「ふぅ~」
砂煙の向こうから、白く大きな戦斧を肩に担いだ少女が現れる。
「怪我はない?」
「あ、はい……」
影が少し戸惑いながら答える。
「あなた達は?」
陽菜が問いかけた。
「危ないですよ?」
その隣から、低く落ち着いた声が響く。
「ロゼ・シュジャー?」
「大丈夫だよ」
白い少女は軽く笑った。
「ちゃんと外したから」
そして、彩葉たちに向き直る。
「あ、自己紹介だったね」
彼女は胸に手を当てた。
「私はタンザニアの守護者、ロゼ。タンザニアのアルビノの人たちからは、シュジャーって呼ばれてるよ」
「私はムトゥリヴです」
黒い肌の少女が静かに名乗る。
「民族から、そう呼ばれましたので」
「?」
村正が首をかしげる。
「……国花が名前なんじゃないのか?」
「ケニアには」
ムトゥリヴは淡々と答える。
「明確な国花はなかったはずです」
「すごい白い……」
レナは思わず呟いた。
「私?」
ロゼ・シュジャーは肩をすくめる。
「私は守護者の中で、唯一のアルビノ個体だからね。色素がないんだ」
「こっちは黒っぽいですね」
陽菜が言う。
「これは日焼けと泥です」
ムトゥリヴは平然と言った。
「毎朝、泥を浴びていますので」
「そ、そうなんだ……」
レナは少し引き気味に頷いた。
「そうだ」
フェルルが思い出したように言う。
「あれ、渡したほうがいいんじゃない?」
「あ、これ!」
彩葉は封書を取り出す。
「お手紙だ~」
ロゼ・シュジャーが受け取る。
「ふむふむ……」
ムトゥリヴも覗き込み、頷いた。
「なるほど。英雄さんたちですね。噂は聞いていますよ」
「ここにも届いてる!」
花火が驚いた声を上げる。
「ここの断界同盟といえば……」
ムトゥリヴが静かに言う。
「魔界に咲く妖艶の花」
ロゼ・シュジャーが続ける。
二人は声を揃えた。
「――カトレア・ノワール」
「……」
ベアトリスは小さく息を呑んだ。
「あっちにいた頃、聞いたことがある。人間を花粉で意のままに操って、混乱を招き、戦争を起こすって……」
「よく知ってるね」
ムトゥリヴは目を細める。
「描写の通りだ。……確かに、抜けた腹いせに攻撃を仕掛けてくるかもしれない」
「大丈夫ですよ!」
ロゼ・シュジャーは斧を軽く叩く。
「私たちが守ります!」
「ありがとうございます!」
ベアトリスは深く頭を下げた。
「アフリカ生まれの守護者は」
李=芳乃が腕を組んだまま言う。
「皆、密猟者狩りをしていると聞いていたから、どんな性格なのかと思ったが……結構、親しみやすいな」
「え……」
ユキが恐る恐る口を開く。
「もしかして、さっき爆発した車に乗ってた人たちって……」
「密猟者ですよ?」
ロゼ・シュジャーはあっさり答えた。
「ですよね……」
ユキは肩を落とす。
「そんなに怖がらなくていい」
ムトゥリヴは淡々と言う。
「優しい子しかいないから。……まぁ、密猟者狩りだけじゃなくて、タンザニア生まれの子は、アルビノ狩りを狩ることのほうが多いけど」
「!?」
ユキの顔が凍りつく。
「そのせいで」
ムトゥリヴは続ける。
「血まみれで帰ってくることもある」
「そんなこともあったね」
ロゼ・シュジャーは遠い目をする。
「その時は」
ムトゥリヴは平然と。
「水に落として、洗ってやったけどね」
「そんなこともあったね~」
ロゼ・シュジャーは笑った。
「…………」
彩葉たちは、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
灼熱の大地は、優しさと残酷さを同時に抱えている。
そして、そのすべてを受け止めながら、守護者たちは今日もこの地に立っているのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




