砂と太陽の国、墓守の導き
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
イギリスを発った箱舟は、白い波を割きながら南へと進んだ。
ドーバー海峡を抜け、青の濃さを増す海を越え、やがて船は地中海へと入る。空は高く、雲は薄く、太陽は容赦なく照りつけていた。潮風は次第に乾きを帯び、空気の匂いが変わっていく。
遠くに見えた大地は、緑ではなく、黄金色だった。
「……見えてきたね」
彩葉が甲板から身を乗り出す。
それはエジプト。
悠久の歴史を抱え、砂と神話に覆われた大地だった。
船が港に着くと、一行は順に下船した。
足元に広がるのは、果てしなく続く砂の世界。都市部を少し離れただけで、視界のすべてが砂と空に塗り替えられる。
「砂漠広いね~!」
彩葉は思わず声を上げた。
熱を含んだ風が、衣服を揺らす。
一行はしばらく歩き、周囲を警戒しながら進んでいた――その時。
ず、……ずるり。
何かを引きずるような、不思議な音が砂の向こうから聞こえてきた。
「あれは……」
陽菜が目を細める。
やがて砂煙の向こうから、一人の少女が姿を現した。
淡い色の衣をまとい、軽やかな足取りで歩いてくる。その周囲には、四つの小さなピラミッド型のユニットが、静かに宙に浮かんでいた。
「……ん?」
少女は足を止め、首をかしげる。
「おや、観光客かな?それとも遭難かな?」
「いや」
栞が一歩前に出る。
「アフリカにいるらしい断界同盟を探し、そして倒しに来たのじゃ」
少女は一瞬きょとんとした後、ぱっと表情を明るくした。
「なるほど~」
彼女は胸に手を当てる。
「私はスイレン。エジプトの守護者、《スイレン》だよ~。……あ、もしかして英雄?」
「……」
メデューサがわずかに目を見開く。
「アフリカ大陸まで知られてる……」
「おぉ~、やっぱりそうだ」
スイレンは嬉しそうに笑った。
「よろしくね~」
「あ、はい」
彩葉は軽く頭を下げる。
「えっと……それは?」
彩葉の視線は、スイレンの背後を引きずられている大きな棺に向いていた。
「?」
スイレンは振り返り、ああ、と頷く。
「ツタンカーメンの棺だよ~」
「なぜ?」
李=芳乃が静かに問う。
「墓荒らしが持っていっちゃってね~」
スイレンは軽い調子で言う。
「取り返したの。私は墓守だからね~。お墓とお宝を守る者なのさ~」
「なるほど……」
芳乃は小さく頷いた。
「そうだぁ~」
スイレンは手を叩く。
「断界同盟を探してるんだよね~?私が転移で連れてってあげる~。砂漠は広いからね~」
「助かります」
彩葉は思い出したように懐から封書を取り出した。
「そうだ、これ渡すように言われてたんだ」
「?」
スイレンは手紙を受け取り、目を通す。
「……え~っと……これはね~」
少し考え込むように指を顎に当てる。
「南アフリカの守護者、《キングプロテア》に渡したほうがいいよ~。リーダーは多分タンザニアにいると思うから~。いなくても、タンザニアかケニアの守護者に渡せば大丈夫~」
「はい!」
彩葉は力強く頷いた。
「それじゃあ、飛ばすね~」
スイレンはにこりと微笑む。
「今度、ゆっくりお話ししようね~」
「はい!」
彩葉たちも応じる。
スイレンが指先を砂に触れると、黄金色の魔法陣が広がった。
古代文字のような光が回転し、空気が震える。
次の瞬間、眩い光が一行を包み込む。
――そして。
彩葉たちの姿は、エジプトの砂漠から消え去った。
転送魔法陣は、彼女たちを遥か南、タンザニアへと導く。
新たな大地、新たな守護者、そして断界同盟との戦いを求めて。
アフリカ編は、静かに、しかし確かに動き始めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




