霧晴れし王国、そして箱舟は南へ
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
霧の晴れたイギリスは、息を呑むほどに美しかった。
石畳は朝露を反射し、街路樹の緑は洗われたように鮮やかで、古き建造物の輪郭は澄んだ空気の中で凛と立ち上がっている。長く街を覆っていた不穏な気配は、嘘のように消え去っていた。
――だが、その静けさは、国のすべてに行き渡っているわけではなかった。
イギリス王宮。
厚い扉の奥、重厚な会議室には、張りつめた空気が渦巻いていた。
「チィッ……!!なぜ我々が、あの守護者の言いなりにならねばならぬのだ!」
苛立ちを隠そうともしない声を上げたのは、王家の血を引く王女、エレノア・ヴァレンシュタインだった。玉座の横に立ち、鋭い視線で重臣たちを睨めつける。
「し、しかし……」
白髪の老大臣、ハロルド・ウィンスロウが恐る恐る口を開く。
「あの守護者は、古来よりこの国を見守ってきた存在。下手に敵対すれば、王国そのものが……」
「何を言う」
エレノアは鼻で笑った。
「あれは“国シリーズ”の守護者だろう?国が消えれば、守護者も消える。違うか?」
「い、いえ……」
別の大臣、エドワード・グレイヴスが声を震わせる。
「国シリーズは後天的に定められるもの。たとえ外れたとしても、守護者そのものが消えるわけでは……」
「うるさい!!!」
エレノアの一喝が、部屋を震わせた。
「ひっ……!」
エドワードは思わず身を縮める。
王女は冷たい笑みを浮かべ、低く命じた。
「暗部を動かせ。とびきり強い者たちを、な」
「ですが……」
若い大臣、マシュー・ロンドンが言葉を濁す。
「ほう?」
エレノアはゆっくりと首を傾けた。
「王女である妾の命令が、聞けぬと?」
「い、いえ!」
三人は一斉に頭を下げた。
「すべて、お任せください!!」
その命令は、確かに闇へと放たれた。
――そして、場面は船着き場へ移る。
「あ、アレデスよ!」
ロゼッタが弾んだ声を上げ、指差した先には、ひときわ大きな船があった。
それは鉄でも鋼でもない。巨大な一本の木をそのまま削り出したかのような、圧倒的な存在感を放つ木造船だった。
「あれは……?」
彩葉が目を見開く。
「ノアの箱舟デース!」
ロゼッタは誇らしげに胸を張る。
「……ノア!いるデス?」
「……ん?」
船の縁から顔を覗かせた青年が、静かに微笑んだ。
「ああ、来たんだね。その人たちが……ちょっと待ってて」
ぎし、と音を立て、はしごが降ろされる。
「アフリカのどこに行くの?」
メデューサが問いかける。
「それはデスね――」
ロゼッタが言いかけた、その瞬間だった。
「……いつまで隠れてるつもりデス?」
空気が、凍りつく。
「ほう……我々に気づくか」
黒衣の男が、倉庫の影から姿を現した。
「とあるお方の命でな。そこの娘を殺しに来た。さあ、渡せ」
ベアトリスの肩が、びくりと跳ねる。
「そう簡単に渡すとでも?」
村正が一歩前に出た。
「……ざっと、三十人ほどですね」
陽菜は静かに周囲を見渡す。
「ハハハハハ!」
男は嗤った。
「よく見抜いたな。まあいい――殺せ!」
「っ……石化の術!!」
メデューサの瞳が輝く。
「なっ!?」
黒衣の者たちの動きが止まる。
「陽光・陽日輪!!」
村正の斬撃が光を裂き、
「エンチャントバレット!!」
陽菜の弾丸が舞う。
「人魂・百狐蘭葉」
栞の符が宙を舞い、
「神力・シャイニングトリプルジャベリン!」
影の光槍が貫く。
「ブラックガトリング!!」
喰の火線が唸り、
「打ち上げ・人間花火!発射準備!」
「発射!!」
爆音と悲鳴が重なった。
「音響反射!」
「音ゲー・コマンドステップ」
「……仙拳・天消撃!!!」
「グロスフスMG42機関銃……出番……」
「籠球・シュート!」
「アドレナリンミサイル!」
「硬質化・ショルダーストラップブレード!」
嵐のような連携の中、黒衣の集団は瞬く間に崩れ落ちた。
「……私は、この部隊のリーダー」
最後に立っていた男が、低く告げる。
「私に勝てると思うなよ?」
「……ふふっ」
ロゼッタは微笑んだ。
「何がおかしい?」
「そういうことは、勝ってから言うデス」
背中の金色の大剣を引き抜く。
「ゴールデンローズ……出番デス」
「な、何だ、この覇気……!?」
男が息を呑む。
「いつの間に……!」
「終わりデス」
ロゼッタの声は、静かだった。
「ライトニング・ローザ・ブレード」
一閃。
「……見事、だ……」
男は崩れ落ちた。
「……あっちも終わったようデスね」
ロゼッタは剣を納める。
「みなさん……すみません」
ベアトリスが深く頭を下げた。
「私のせいで……」
「そんなことはないのじゃ」
栞は優しく言う。
「子どものうちは、頼るのじゃ。いつでも助ける」
皆が頷く。
「……はいっ!」
ベアトリスは、涙をこらえながら笑った。
「終わった?」
ノアが声をかける。
「じゃあ、一人ずつ、はしごで登ってね」
「はい!」
彩葉たちは順に船へ乗り込む。
「……よし、みんな乗ったね」
ノアは舵を握った。
「行き先は――エジプトだ」
大きな木の船は、静かに岸を離れる。
こうして彩葉たちのヨーロッパ編の旅は終わりを告げた。
――次なる舞台は、灼熱と神話の大地。
アフリカ編、ここに開幕する。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




