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推召し上がり

父は先に準備させていたのか、近くの貴族御用達のレストランで個室をとり、席に着くとすぐに食事が運ばれてきた。


アレクシスは先ほどとは打って変わって、品のある食べ方をしていた。

夢中で食べているのは相変わらずだったが、空腹だと我慢できないのは当然のことだ。


先ほどのクッキーが彼の胃袋をある程度満たして、心に余裕が生まれたのかもしれない。


「殿下、よろしければこちらもお召し上がりになりますか?」


私は自分の皿を差し出して、彼に伺った。


「すまない、いただくよ・・・。」


彼は遠慮せずに、皿を譲り受け、大量の食事をその小さな体に取り込んでいった。

父と私はその光景をほほえましく見守り、彼の胃が満たされるのを待った。


彼は綺麗に食べようとしていたが、時より涙が止まらず、胸元を濡らした。


私も、セレスティア侯爵家に来た初めての日を思い出した。

家族のぬくもりに触れると、たまらなく涙がでてしまうものだ。

これまでの彼の境遇を考えると、少しでも癒してあげたいという気持ちになった。


「アリア、食事はどうだい?」


「とっても美味しいです。

それに初めて目にする料理ばかりで、楽しいです。」


「そうか、良かった。」


父は続けてアレクシスに声をかける。


「殿下もお口に合ったようでよかったです。」


「はいっ・・・。」


彼は、夢中で食べていた手を止めた。


「セレスティア侯爵・・・本当にありがとうございます。」


「何これは娘がしでかしたことへのお詫びですから、遠慮しないで召し上がってください。」


「うっ・・・はい・・・。」


震えた声がした。


アレクシスはどれだけ食事をしてないのだろう。

こんなに幼い子に、本当に理不尽な仕打ちだ。

私の目にも力が入る。


私除き、二人はとにかくよく食べた。

追加で注文もしながら、いい食いっぷりの二人を見るとどっちが親子なのかと思うほどだった。


食事が終わり、食後の紅茶が運ばれた。

アレクシスも食べつくしたのか、満足したように見えた。


「改めて紹介いたします。

娘のアリアです。」


「殿下、先ほどは大変失礼いたしました。

アリアと申します。」


席を立ち、身に着けたばかりのカテーシーを披露する。


「アレクシス・サウス・アストレアだ。

名前で呼んでも構わないだろうか?」


「もちろんです。」


アレクシスの瞳が優しくなり、私も笑顔でほほ笑んだ。


父が咳払いして、話を進める。


「しかし、王城は相変わらずなのですね・・・。」


父は不敬にはあたらない程度に、含みのある言い方をした。

娘である私も状況をわかっているのだから、このような話ができたのだろう。


実は王族の中ではすでに、醜い後継者争いが起きていた。


第1王太子以外は、多少差があるけれど、冷遇されているのには違いがなかった。

特に魔力持ちの他の3人には王位継承権があるため、それが極端に酷かった。


死なない程度に毒を盛られたり、兵糧攻めに遭うなんてことは日常茶飯事で、王族教育も4人で受けることができないほど対立しているそうだ。


その結果第3王太子はかえらぬ人となり、若くして命を落とした。


でも、第1王太子も第2王太子もそんな環境で育ったせいか、子供ながらに深い傷を負っていた。


物語はヒロインに選ばれる、たった1人の攻略対象しか幸せになれない。

願わくば、それがアレクシスであることを切に願った。

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