第8話 只今、レベルアップ強化月間中!
──ひと月ほど経っていた。
今日も俺は元気いっぱい、モンスター狩りと奴隷仕事にフル稼働。戦闘と雑用、二刀流でこなす俺。……働き者すぎる自分が怖い。
だがこれで、全部経験値になるんだから、嫌でもテンション爆上がりだ。
こんな充実した“奴隷ライフ”なんて、今までなかった。レベル上げが順調すぎて、気分はルンルン。思わず鼻歌まで出ちゃうレベル。
夜になれば、恒例の《マナ・マシンガン》乱れ撃ちタイムだ。高速連射をぶっ放すたびに、奴隷生活のストレスが吹き飛んでいく。
──まさに、爽快そのもの。
一度この快感を覚えたら、もう戻れない。指先が勝手に禁断症状みたいにムズムズ動く。
「ああ……、早く夜にならないかなあ……」
そんな俺の『レベルアップ強化月間』は、クライマックスを迎えようとしていた。
レベル4まで、あと少し。
計画どおりなら、今夜ついにレベルアップする。
果たして、どんなスキルが解放されるのか……。妄想するだけでニヤニヤが止まらない。鏡を見たら、完全に不審者かって怪しさだ。
とにかく、今の俺は最高な気分だった。自分でもその浮かれっぷりに気づいて笑ってしまうくらい、ご機嫌だった。
だが、そんなムードをぶち壊すかのように、またしても、あの“厄介者”が現れた。
「……ふん。相変わらず、こんなところ床磨きかよ」
──出たな、バカ息子め。
俺はイラッとした視線を送る。
どうやらケツの傷は完治したらしい。あの巨大オムツ包帯はすっかり取れていた。……ってことは、今日からまた、バカ息子のウザ絡み再開ってわけか。
ああ、マジでうぜえ〜!
「俺がいないと、お前も張り合いがないだろ。だから来てやってんだよ。ありがたく思えよ」
まったく、いちいち癪にさわるガキだ。顔を見るだけでストレスゲージが振り切れそうになる。
今の俺なら、いつでもこいつをミンチにしてやれるのに……。だが、俺はそんな怒りをグッとこらえて床を磨いた。
こんな奴に構うだけ無駄だし、経験値の方が大事だ。
もし何かやらかしたら、その時はドロップキックをお見舞いしてやればいい。
……だが、予想に反してバカ息子は何もしてこなかった。ただじっと俺の手元を見つめているだけ。いったい何が狙いなのか、まったく読めなかった。
もしかして、心の中で新手の悪巧みでもしてるのか?
そんな警戒心を抱いた時だった。
バカ息子がまさかの一言を口にした。
「……エリクは、俺が好き好んで、お前の邪魔をしてると思ってるのか? 誤解するなよな……」
──な、何だって……!?
俺は思わず手を止め、その顔を見つめる。
いつものバカ息子とは、明らかに様子が違った。妙に真剣な顔つきで、思い詰めたような口ぶり。
……いったい何のポーズだよ! 何でお前がもどかしそうなんだ!?
と、思わずツッコミそうになる。
だが、バカ息子はいたって真面目に、ぽつりとつぶやいた。
「……お前が俺より強くなろうとするから、悪いんだぞ……。お前が強くなったら、俺の立場がどうなるか、ちょっとは考えろよな……」
まるで喉の奥から絞り出したようなその声は、自嘲気味に響いた。
──なるほど、そういうことか。
その一言で、俺はようやく腑に落ちた。
バカ息子ワルロの父親は、あの“脳筋至上主義者”ゲネス辺境伯だ。
そしてこの家では、強さ=正義、弱さ=敗北者という、シンプルすぎる価値観が支配している。
そんな環境で育ったワルロにとって、最近の俺の活躍は悪夢のように映ったのだろう。
つまり、今までのウザ絡みはただの嫌がらせではなく、俺が力をつけていくのが怖くて、必死に自分の優位を守ろうとしていたというわけだ。
こいつはこいつで、人知れず、苦労してるのかもしれない。
「……俺だって、エリクと仲良くなりたいに、決まってるだろ……」
どこか罰が悪そうに視線をそらす、バカ息子ワルロ。
──ふっ……。
何だよ、結局そういうことか。
なら最初から素直にそう言えば、俺だってお前のケツに、魔法なんて撃ち込まなかったのに……。
こいつは嫌な奴だけど、まだ子どもだ。
これからいくらでも変われるチャンスはある。ここはわだかまりを捨てて、歩み寄るのが教育的にもいいだろう。
俺はバカ息子に向き合った。
そして、ぎこちなく笑顔を作り、そっと右手を差し出した、──その時。
──バシャーン!
あろうことか、バカ息子がバケツを蹴飛ばしやがった。
「うっそぴょーん! 騙されたなこの間抜け! 誰がてめぇなんかと仲良くするかよ! これからも邪魔しまくってやるからな! 覚悟しろよ!」
──こいつ……。
廊下があっという間に水浸しに……。俺の慈愛に満ちた教育的精神も一緒に流れ去っていく。
一瞬でも同情した俺が、バカだった。
俺は静かに深呼吸し、ドロップキックの体勢に入った。
ホップ、ステップ、ジャンプ!
スリーステップで華麗に舞い上がると、バカ息子の脇腹にフルパワーで蹴り込んだ。
──ドガッ!
「ふごぉおおおおーーッ!」
見事な放物線を描いて、バカ息子は見事にふっ飛んでいった。
こいつに必要なのは、やはり“痛みによる教育”なのだと、再確認した。
* * *
バカ息子のせいで、最悪の気分になったが、そんなモヤモヤを吹き飛ばせしてくれるのが、モンスター狩りだ!
しかも今夜は、レベルアップ確定イベントの日!
鬱憤を晴らすには、これ以上ないチャンスだ。
俺は物置小屋を飛び出し、その勢いのまま森の騎士団練習場へ突っ込んだ。 木々の間を駆け抜けながら、次々に魔法をぶっ放す!
「マナ・バレット!」
──ズドン!
「グギャ!」
「マナ・バレット!」
──ズドン!
「グワァ!」
モンスターが、まるで花火みたいに派手に吹き飛んでいく。
狩りの調子は上々だった。俺はモンスターを片っぱしから吹き飛ばし、経験値を稼いでいく。
テンションはまさに最高潮。俺はまるで跳ね回るように、狩りを楽しんでいた。
──すると、その時だ。
森の奥で、ズズン、と地鳴りがした。
……ん? 何の音だ……?
木の葉がザワザワ揺れ、地面までビリビリ震えている。
次の瞬間、木々をなぎ倒しながら、巨大なモンスターが出現した。
「──うわっ、出たな……! ツリーゴーレム!」
巨木にぶっとい手足が生えた人型の怪物だった。一歩踏み出すたびに、森全体がザワザワと揺れていた。
顔のような節に、大きく開いた口。まるで森そのものが喰らいかかってくるかの迫力だ。これまでの低級モンスターとは、格が違う。
──ボス・モンスターの登場か。
だが、その巨体を目の前にしても、俺には“経験値の塊”にしか見えなかった。
すでに完全に戦闘モード──いや、経験値収集モードなのだ。
──よし! さっそく、討伐開始だ!
俺は両手を突き出し、魔力を全開にする。
「マナ・マシンガン!!」
──ズドッドッドッドッドッドッ!!
光の弾がツリーゴーレムに容赦なく叩き込まれる。
単発での威力はまだ大したことはないが、高速射撃で手数を増やし、着実に削っていく。
そう、スキル《自動回復》と《CT短縮》のシナジーは、もはや永久機関。
すでに、勝ちは見えている。
俺はレベルアップへ向け、《マナ・マシンガン》をぶっ放す!
「いっけぇぇぇーーっ!」
──ズドッドッドッドッドッドッ!!
「グワァァァ!」
ついに、ツリーゴーレムがゆっくりと崩れ落ちていった。断末魔を上げ、巨体をきしませる。ドーンと地面が震え、木の葉が舞い上がった。
──よし、今回もあっけなく討伐完了!
その瞬間──目の前にステータス画面がパッと現れた。ついに来たかと、俺はその画面に釘付けになる。
───────────────
【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】奴隷
【Lv】4
【EXP】1011/4000
【HP】40/40
【MP】22/22
【攻撃力】8 【防御力】12
【敏捷】6 【魔力】19
【運】3
【スキル】自動回復Lv4
CT短縮Lv3
【魔法】無属性魔法マナバレット
───────────────
──レベル4昇格キタァーーーッ!!
やった、やったぞ俺! ついに念願のレベル4!
しかも強化月間を数日残してのフィニッシュだ! これは、まさに完全勝利ってやつじゃないか!?
全ステータスがググッと伸びて、スキルもしっかりレベルアップ。
俺の代名詞、『マナ・バレット一本槍戦法』が、新たな進化を遂げようとしている。
──これ、どこまで行くんだ俺?
もしかして、世界ラスボス化コースまっしぐら?
「はぁ〜、まったく俺ってやつは……、経験値の女神に愛されすぎだろ」
などと、ドヤ顔全開の俺。
だが、そんな俺の視界に、何やら妙なものが割り込んできた。ツリーゴーレムがひっくり返っている、その向こう側。
黒い塊が、フワ〜ッと空中に浮かんでいる。
俺は思わず目を細め、凝視した。
おい、おい、おい……! これは、マズイだろ! その黒いモヤモヤ、絶対にヤバイやつじゃん!!




