第7話 いざ、モンスター狩りへ!
──その夜。
ついに来た。
モンスター狩りの時間だ。
この瞬間のために、俺はあのブラック奴隷労働を耐え抜いてきたんだ──胸を張ってそう言える。
むしろ今となっては、あの鞭打ちすら前座だったと思えるほどだ。
Xの情報によれば、この近くに“絶好の狩場”があるらしい。場所は、森の一角にある騎士団の訓練場だ。
そこは低級モンスターが適度に湧き、しかも深夜ともなれば人の気配は一切ないという。
つまり、誰にも邪魔されず、ひたすら狩りに集中できる。まさに、経験値稼ぎにはうってつけの場所だった。
戦闘は基本、魔法で片をつけるつもりだが、念のため武器も持っていくことにする。奴隷業務の合間に、こっそり拝借してきたのはショートソード。軽くて扱いやすく、森の中でもブンブン振り回せる優れもの。
それと、真っ暗な森にはランタンが必須だ。これはホラー映画ばりの死亡フラグを立てないための、安全装置ってやつ。
あとは、身バレ防止用マスク──といっても、ズタ袋に穴を開けただけという雑な代物だ。見た目は完全に強盗犯だが、まあ、ないよりはマシだ。
俺は深く息を吸い、マスクをすっぽりと頭に被った。
「よし、これで準備完了っと!」
──レベルアップ作戦、いざ開幕!
(……エリク様、くれぐれもお気をつけて)
「ああ、任せとけX。経験値じゃんじゃん稼いでくるからさ!」
制限時間は3時間。
夜明けまでに物置小屋に戻らなければならない。
その限られた時間で、どれだけ経験値を稼げるかが腕の見せどころ。まるでゲームでいうタイムアタックモードそのものだ。
──なら、全力で行かせてもらう!
俺はすっかり“自動ドア”と化した物置小屋の扉から、シュッと滑るように飛び出した。ひと気が途切れる瞬間を狙って、塀をするりとよじ登る。
屋敷の周囲には衛兵たちが、警備に目を光らせていたが、俺はすでに脱獄ルートを完全攻略済みだ。
ゲームで言うならここが“隠しルート”ってやつ。
そのまま勢いに乗って街へと駆け出すと、月明かりを頼りに森へ一直線。
──よし、うまくいった!
Xが教えてくれた森まで、およそ3キロ。俺はその距離をノンストップで突っ走る。
《自動回復》と《CT短縮》のおかげで、息が上がる気配すらない。走りながらスタミナがジリジリ回復していくのが、妙にクセになる……。
──そして、走ること十数分。
「……ここか」
森の入り口に到着すると、やたら主張の激しい看板が目に飛び込んできた。『騎士団特別訓練場 危険! 無断侵入厳禁!』とデカデカと書かれている。
看板の奥は月明かりは遮られ、まるで闇がぽっかりと口を開けているように見えた。そこから冷たい空気が流れ出し、薄気味悪いほど静まり返っている。
「……よし、行くか」
俺は勇者っぽいセリフを吐き、ランタンに火を灯すと、そのまま訓練場の闇へ足を踏み入れる。
そこは、うっそうと茂る枝葉が頭上を覆っていて、暗闇がまるで生き物のように侵入者を押しつぶそうとしていた。
ここで待ち受けるのは低級モンスターばかり……とはいえ、油断は禁物だ。
相手だって、むざむざ殺されに来るわけではない。やはり戦闘は、いつだって命がけなのだ。
しばらく森の奥へ進むと、ぬるり──と地面が動いた。暗がりから這い出して来たのは、ぷるぷると揺れる一体のスライムだった。
「よっしゃ! 経験値、見〜っけ!」
妙にテンションが上がっているのは自覚している。だが、そんなこと気にしている暇はない。
今の俺にとって、こいつはただのスライムじゃない。それは、スライムの形をした純度100%の《経験値》だ!
──じゃあ、さっそく、狩らせてもらう!
俺は魔法を発動した。
「マナ・バレット!」
──ズドンッ!
──バシャッ!
スライムはあっけなく砕け散った。
その瞬間、俺の中に経験値がザッと流れ込む。
ステータス画面を確認すると、この一発でEXPが5ポイントも増えていた。
「うおぉおおおおっ! やっべ! マジで上がってる!!」
朝から晩まで奴隷仕事をしても、稼げる経験値はせいぜい3ポイント。それが、こんな簡単に5ポイントゲットできるとは……。
ゲーム的には、5ポイントなんて鼻クソみたいな数値だ。だが、長い奴隷生活で狂わされた俺の価値観には、この5ポイントがまばゆい光を放って見えた。
「よーし! この調子なら、今夜中にレベルアップも夢じゃない!」
俺は森の中を駆け回る。
まるで狂人のごとく、叫び声を上げながら。
「経験値ぃぃぃ!! もっとだ、もっと経験値を、よこせぇぇぇぇ!!」
俺はモンスターを見つけるや否や、間髪入れず魔法を叩き込む。
「フォレストワーム、発見──マナ・バレット!」
──ズドンッ!
「ギュルルルッ!」
「次! 大コウモリ! マナ・バレット!」
──ズドンッ!
「ギャアア!」
「おっ! スライムもいたな! マナ・バレット!」
──ズドンッ!
──ビシャ!
容赦なく、次から次へと討伐する。
俺は今、3時間以内にレベルアップするという崇高な使命を背負っている。一分一秒たりとも無駄にできない。
──必要なのは経験値だ! 経験値を俺にくれ!!
そして迎えた、5匹目のモンスター。
「あっ! ポイズンマッシュだ! マナ・バレット!」
──ズドンッ!
「グエッ!」
煙のように消え去るキノコモンスター。
戦闘を終えると目の前に、ステータス画面がパッと浮かび上がった。もしやと思い、俺はその画面に釘付けになる。
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【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】奴隷
【Lv】3
【EXP】304/1000
【HP】25/25
【MP】15/15
【攻撃力】6 【防御力】8
【敏捷】5 【魔力】12
【運】2
【スキル】自動回復Lv3
CT短縮Lv2
【魔法】無属性魔法マナバレット
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──レベル3に、昇格……、キタァァァァァーーッ!!
ついに、ついにやった! 俺はこの瞬間を待っていた!
経験値が一気に25ポイントも増えていた。奴隷生活で何日もかけて稼ぐ分を、わずかな時間で叩き出したのだ!
しかも、上がったのは基本ステータスだけじゃない。《自動回復》も《CT短縮》も、しっかりレベルアップしてるではないか!
モンスター狩りと奴隷仕事の経験値──このふたつを組み合わせれば、1ヶ月もかからず、レベル4に到達可能。そう確信できるほど、手応えは十分だった。
これでまた、原作回避に一歩前進。順調すぎて、逆に震えるんですけど……。
もしかして俺、チートに片足突っ込んでない?
そんな勝利の余韻に浸っていると、俺の背後で、何かがうごめく気配がした。
──シャーッ!!
鋭い威嚇に反射的に振り向くと、そこにいたのは、ジャイアントスネークだった。
体長は10メートル超。黒光りする鱗がギラリと光り、巨体が木の枝をぬるり、ぬるりと滑り降りてくる。
「……いや、デカすぎるだろ……」
本来、この訓練場で出るのは低級モンスターだけのはず。なのに、この巨体が放つ圧は、明らかに“格”が違う。
こいつは……、そこそこ強いぞ……。
だが、レベル3に上がった今の俺には、むしろこの展開は好都合だった。
──試すなら、これが絶好のチャンスだ。
強化された《自動回復》と《CT短縮》。
この2つが噛み合えば、MPは使った瞬間に満タンへ逆戻り。連射性能が跳ね上がる、完全にチート級コンボだ。
──その実力、確かめずにいられるか。
俺は腕を伸ばし、ジャイアントスネークに狙いを定める。
「マナ・バレット──!!」
次の瞬間、森が連射音で埋め尽くされた。
──ズドッドッドッドッドッドッ!!
息つく暇もなく《マナ・バレット》が放たれる。《自動回復》と《CT短縮》が唸りを上げ、魔力は瞬時にフルチャージ!
──もはや、ただの《マナ・バレット》じゃない。
それをはるかに超える、圧倒的な高速連射。
今、俺がぶっ放しているのは、《マナ・マシンガン》だ!!
──ズドッドッドッドッドッドッ!!
「グエェェェェェーーッ!!」
無数の弾丸に貫かれ、ジャイアントスネークはあっけなく地面に崩れ落ちた。無数の木の葉がヒラヒラと、まるで勝利を祝うようかのように舞い散った。
そして手に入った経験値は、──まさかの25ポイント!
「マジかよ、……うっま!」
思わぬ大収穫に、俺のテンションはMAXに。森の中で、俺だけが勝ち組感を味わっていた。
《マナ・マシンガン》という高速連射を手に入れた今、俺に敵なんていなかった。
この森は、完全に俺の庭だった。
「よーし! この調子でレベルアップ、ガンガンぶち上げていくぞぉーー!!」
俺は新たなステージへ駆け上がった。
──これより、『レベルアップ強化月間』を開催する!




