第6話 覚醒、マナ・コントロール!
突然、脳内に声が響いてきた時は、そりゃもうマジでびっくりした。こっちの意識にいきなり入り込んでくるんだもんな。
いわゆる精神魔法ってやつだ。
この世界にそういう魔法があるのは知っていたけど、いきなりそれやられたら、誰だってビビるって。
しかもその正体が、ゲネスの悪行を暴く内偵者と聞いてまたビックリ。まるでゲームの裏ステージに迷い込んだ、プレイヤーの気分だ。
ほんとこの世界、イベントの発生条件がカオスすぎる。うっかり寝首を掻かれないように気をつけないとな。
とはいえ、俺に“味方”ができたのは非常に大きい。最初は怪しさ満点だったけど、彼女の言うことは信じてもよさそうだ。
何より、俺への忠誠心はガチっぽいし、特にエリクの父──フィリップへの想いは嘘じゃないとわかった。
俺はそんな彼女から、《マナ・コントロール》の指導を受けることにした。
やはり魔法を習うなら、実戦経験のある指導者がいたほうが【効率】がいいに決まってる。
ただ、彼女は名前も素性も明かせないというので、俺は便宜上、“X”と呼ぶことにした。
自分で名付けておいてなんだが、完全に秘密結社の隠密キャラって感じだ。
そんな謎だらけのXの魔法指導が、こうしてはじまった。
(それでは、はじめましょう。ゆっくりと息を吸って……、吐いて。肩をの力を抜いて、意識をマナに向けてください……)
Xの指導方法は、実に独特だった。
言葉と感覚を、そのまま脳内に流し込んでくるのだ。
耳で聞くより早く理解できるし、体感レベルで技術が入ってくる。これが前世の受験勉強でも使えたら、俺の人生はもう少し、変わってたんじゃないか?
(では、両手をそっと合わせ……手のひらに、マナが静かに集まっていく流れを感じてください)
言われたままに意識を向けると、確かにマナがすっと流れ込んでくるのが分かった。その流れを散らさないよう、魔力をゆっくりと練り上げていく。
しかし、これが想像以上に繊細だった。
魔力の制御は、ただ撃ち放つ攻撃魔法よりも、何倍も難しかった。ちょっとでも気を抜けば、マナの塊がどこかへすっ飛んでいきそうになる。
これ、物置小屋の屋根にぶつかったら、大穴どころじゃ済まないな……。
内心ビビりつつも、俺は手のひらのマナをどうにかコントロールする。小さく揺れる光の玉は、俺の意志に従って、ふわりと形を保っていた。
──いや、俺、優秀すぎん?
(す、すごいですよエリク様! 本来マナ・コントロールは自由度が高い分、扱いがとても難しいのです。それを、こんな短時間で……!)
Xの驚きの声に、ニヤリと口元を緩める俺。
ゲーマーの俺は、異世界に放り込まれても、それなりにやれるようだ。
(これはもう、エリク様の才能の賜物ですよ! 魔法使いになる資質は十分すぎます!)
うれしいことを言ってくれるぜ、X。
ちょっとノってきた俺は、勢いのまま実践に踏み切る。
「よし! 何か、動かしてみよう!」
試しに、食卓に置いてあった食器で実験してみた。
ナイフとフォークにマナを注ぎ込むと、それがふわりと宙に浮かび、皿の上の分厚いハムを、スッ、スッと切り分けていく。
──おお、これはまさかの自動給仕システムじゃないか!
文明開化も真っ青な、ハイテク魔法の登場である。
しかもフォークは、切り分けたハムを勝手に俺の口まで運んでくれた。まるでVIP待遇の王侯貴族になった気分だ。
(……す、すごいです……! お見事としか言いようがありません……。初めてのマナ操作でここまで……!)
Xは、感嘆の声を漏らすばかりだ。
その日のうちに、俺は物置小屋の中のありとあらゆるものを動かした。
重い箱や、軽い掃除道具、大きな樽に小さな瓶まで。すべて手を使わずに、ヒョイヒョイと自在に操った。
まるで俺専用の無限アームロボットといった具合。もはや俺の周りだけ、重力のルールがバグってた。
「よっしゃ! 手応えは十分感じるぞ」
物を動かすイメージも掴めた。これなら雑用も、ワンタッチでオート化できそう。
「これで俺の奴隷ライフ、快適度200%アップだ!」
(……エリク様、それはお控えください。執事のセルヴァに気づかれてしまいます)
ピシャリと俺をたしなめるX
「そうだった。あの性悪執事、魔法使いだったな……」
現実に引き戻され、絶好調だった俺のドヤ顔はスンッとなる。
せっかく俺の奴隷ライフが、ハイテク仕様に進化すると思ったのに……。
あの嫌味ったらしい男のことを考えるだけで、テンションがマイナスまで急降下だ。
(あのう……エリク様。奴隷ライフとは、何ですか……?)
Xの声は、明らかに引き気味だった。
周りから見れば、今の俺は転生者の俺じゃなく、原作キャラのエリクそのもの。
彼は奴隷生活を楽しむようなタイプじゃない。むしろ、いつも苦悶の表情を浮かべる、冴えない少年。
その設定をすっかり忘れて、いつものノリで喋ってしまった……。
──Xの忠誠心を傷つけないようにしなければ。
ちょっとはしゃぎすぎた俺は、慌てて仕切り直そうと、コホンとわざとらしく咳払い。
「ま、まあ……しばらくは物置小屋限定、ってことで……」
(はい。それがよろしいかと存じます)
その後も、Xの脳内《マナ・コントロール講座》は、順調に続いた。
マナを感じ、魔力を高め、そしてイメージを固める──。
この一連の流れを、いちいち意識せず自然にできるようになることが、今の俺の課題だ。
(ですが、エリク様。閂を外すのは容易ではありません)
「……そうだな」
Xの言葉に、俺は小さくうなずく。
実際、閂を外すのは想像以上に厄介だ。その理由は単純で、閂は“扉の向こう側”にあって、中からは見えないということ。
見えない物を正確にイメージするのは、目で見えているものを動かすよりも、はるかに難しい。
たとえ閂を外してモンスター狩りに出られたとしても、戻って来きたら、物置小屋の中から閂をかけ直さなければならない。
もし朝までに元どおりにできなかったら……、その瞬間、俺の奴隷ライフはゲームオーバー。ゲネスにバレて、処刑ルート一直線だ。
つまり、失敗は絶対に許されない。
(できるという確信──。出来て当然という感覚──。まずこれを確立しましょう)
「そうだな。これは腰を据えて、じっくりやらないとな」
その日から、俺の成長は目に見えて加速していった。
小さな成功を積み重ねるたびに、《マナ・コントロール》をより確実なものへと磨き上げていく。
やがて、手にひらで浮かぶ光の塊は、もはや俺の意志そのものになっていた。
これはもう、俺専用の《マナ・ボール》。指先でコロコロと転がして遊べるまでになっていた。
──よし、これなら、閂を外すことも時間の問題だな。
* * *
そんな奴隷生活とマナ修行に明け暮れる日々が続いた、3日目のこと。
俺は《マナ・コントロール》に、確かな自信を持っていた。
その技術はすでに頂点に達していて、操作はもはや意識の外。考えるよりも先に、マナが勝手に動いてくれた。
俺は自分の才能に、驚きを隠せなかった。
「ヤッバ、便利すぎるだろ、これ……! マジで何もしなくてもいいじゃん!」
物置小屋に近づくだけで、ひとりでに閂が外れ、扉が開いた。
中に入ると、これまたひとりでに扉が閉まり、閂が掛かる。
──自動ドアの完成である。
ここまで来れば、もう迷う理由はなかった。俺は計画を次の段階へ進めることにする。狙うのはモンスター狩りによる経験値稼ぎだ。
俺は大きく息を吸い、拳をぎゅっと握りしめた。
「よーし! 今夜こそ、モンスター狩りの決行だ!!」




