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最終話 そして、新たなる旅立ちへ

「……お兄様っ! ねえ、お兄様っ!」


 甲高い声が執務室に響き渡る。


 ぐいぐいと俺の服を掴んで揺さぶるローズ。


「また、領民からの嘆願書を放置して! ちょっと、聞いているんですか?」


 机の上の書類は、まるでバベルの塔のように積み上がり、今にも崩落しそうな勢いだ。その惨状を前に、ローズの説教が止まらない。


 あまりの激しさに、俺の意識は半分、どこか遠くへ飛んでいきそうだ。


「ほんっっっと信じられません! 領主っていうのは、もっと仕事をきちんとして、民のことちゃんと考えて──!」


 うるさいなぁ……。


 貴族の自覚だの嗜みだの、そんなの俺に求めんなよ。


 常識と俺は、犬猿の仲なんだから……。


 ふと視線を向けると、ローズの後ろでお母さんが、まるで仲睦まじい兄妹を微笑ましく見守るようににっこりしていた。


 ……この状況、そんなに面白いのか?


 そしてその横には、俺の秘書になったXが、相変わらず無表情でじっとひかえている。


 ……いや、なんでお前だけそんな冷静なんだよ。


「まあまあ、ローズ。エリクをそんなに振り回すものではありませんよ」


「お母様まで! 甘やかしてはなりません! お兄様には、領主としての自覚がまるでないのです!」


 ああ……、またはじまった。


 いったい、いつまでこの不毛なやりとりが続くんだろう……。


 俺は“アクシア辺境伯、エリク・ダークベルク”として、新しい人生を歩きはじめていた。


 家族と再会し、この辺境伯邸で日常を取り戻しつつある。


 ……まさか、つい最近まで“奴隷”だったとは思えない。


 本人の俺ですら、まだ信じられないくらいだ。


 まあ、エリクはもともと貴族だったから、もとさやって話だが、俺からすれば、世界がひっくりかえるくらいのバグ展開。


「お兄様は、国王陛下から信任された辺境伯なんですから! その期待に応えなければならないんです!」


「わかってるっばっ! 言われなくても、わかってるっ!」


 必死に訴える俺。


 だが、領主になるというのは、思ったより大変だ。


 俺がアクシアの辺境伯だとオレオスの領民にバレた時は、もう大パニックだった。


 仕事を回してくれた親方や同僚は、腰を抜かす勢いだったし、ギルドのお姉さんの方は、これでもかってくらいの美しい土下寝を披露してくれた。


 できることなら、領主であることを隠しておきたかったが……、まあ、こればっかりは仕方ない。


 そして、クラウディアのことだが。


 彼女はゲネス逮捕の功績を讃えられ、国王から叙勲を受けた。


 まあ、それは当然と言えば当然で、あの事件を解決できたのは、ひとえに彼女の冷静な判断とズバ抜けた行動力があってこそ。


 それでも、クラウディアは決して驕らない。


 今でも変わらず騎士団長として、オレオスの民を守り続けている。


 ああいうのを“本物の騎士”って言うんだろうな。


 それから、俺が面倒を見ていたルークだけど、彼は無事に魔法学校に合格した。


 気が小さいことを除けば才能はピカイチで、なんと特待生だという。


 たぶん将来は大魔導師になって、俺のことを“恩師”って呼んでくれる……はず。


 さらに、荒れ果てていたイレーネも、オレオスとアクシアの支援で再建が着々と進んでいた。


 ──みんな、それぞれ順調にレベルアップしてるってわけだ。


 ……俺も負けてられん。


「ローズ、悪いけど、ちょっと出てくるわ」


「またですか!? どこ行くつもりなんですか、お兄様!」


「……レベル上げ」


「やっぱりそれぇぇぇーーっ!!」


 もう、説明の必要はないだろう。


 レベル上げは、俺の生きがいなのだ。


 俺からレベル上げを取り上げたら、いったい何が残るっていうんだよ。


 それに、俺が辺境伯の地位を受けた理由は、このアクシアが魔物と戦うの最前線だからだ。


 つまり、領主の仕事=経験値稼ぎ放題──ってことで、うん、理にかなってる!


「辺境伯なら、誰よりも先んじて現場に向かわなければ……」


「そんなことばかりしているから、書類が山のようにたまるのではないですか!」


 まるで、夏休みに手をつけなかった宿題みたいな言い方だ。


 俺は視線を逸らし、見なかったことにしようと必死になる。


 その代わりに、頭の中を支配するのは、『巨大モンスター出現。討伐隊の派遣求む』という支援要請だった。


 こんな情報を聞かされて、屋敷でのんびりしていられるわけがない。


 ──経験値が、俺を呼んでいる。


「X、詳しい情報を頼む!」


「北方の渓谷に、超大型モンスターが出現したそうです。オレオス騎士団・団長クラウディア様からの報告で、エリク閣下に支援をお願いしたいとのことです」


 超大型モンスター!!


 ──なんて甘美な響きだ。


 俺は辺境伯になっても、人知れずレベル上げを続けてきた。


 今の俺は、レベルもスキルもブースト済。


 この世界で、俺以上に強化された存在はそうはいないと断言できる。


「想定では、このモンスターを倒せば、エリク様のレベルがひとつ上がり、レベル10になります」


 レベル10!


 待望の大台だ! 


 ──なら、やるしかないだろ。こんなチャンス、滅多にない!


「止めるなローズ! 俺は行く!」


 俺はしがみつくローズの腕を振り払った。


 彼女は「きゃあ」と悲鳴を上げ、そのまま力なく、こてんっとひっくり返る。


 ローズには悪いが、これが俺の生き方だ。


 俺はXから差し出されたマントを、颯爽と羽織った。別にマントは必須じゃないが、あった方がテンションが上がる。


 ──よし、じゃあ行ってくる!


 スキル《風駆けの祝福》を発動ッ!


 屋敷を勢いよく飛び出し、現場へ向かう。


 ──そして、文字通りあっという間に到着。


「エリク閣下。ご協力、感謝いたします」


 クラウディア率いるオレオス騎士団が、揃ってうやうやしく頭を下げる。


 ──だから、そんなにかしこまらなくていいってのに。


 俺はいつも通りで十分なんだが、身分というやつは、どうにも面倒なくらい厳格らしい。


 クラウディアの説明によると、今回の魔物はタイタン級の超大型モンスターだそうだ。


 だが、どこを見渡しても、それらしい姿は見当たらない。


 しかも現場の渓谷は、濃い霧にすっぽり包まれていて、視界はほぼゼロ。


 まさか、もうどこかへ逃げてしまったのだろうか……?


 そんな肩透かしを食らった気分になった、その時。


 霧の向こうに見えていた崖が、ゆっくりと、動いた。


 ──ん?


 ……いや、待てよ。


 あれは、崖じゃない。


 崖だと思っていた巨大の影こそが、モンスターだった。


「……で、でっか!? 予想の3倍くらいあるんだけど!?」


 大地を揺らしながら、魔物がその全貌を現した。放たれる魔力の波動が、空気をビリビリと震わせる。


 ──ゴゴゴゴゴゴオォォォーーッ!!


 あまりの巨大さに、唸り声がやまびこになって谷間に駆け抜けた。


 高さは数百メートル。


 遠目にはまるで“背景”が歩いているかのよう。


 黒く凝固した溶岩の巨体には無数の亀裂が走り、そこから煮えたぎるオレンジ色の溶岩がグツグツと煙を噴き上げていた。


 奴の名は、ボルケーノ・タイタン──まさに火山の化身だった。


 ──だが、心配は無用。


 俺の魔法攻撃力は、すでに次の領域に足を踏み入れているのだ。


 では、早速討伐といこう。


「クラウディア、頼んだ!」


「承知しました、エリク閣下!」


 俺の合図で、クラウディアが剣を大きく振りかぶった。


 そして狙い澄ました一撃が、俺の体に叩き込まれる。


 ──ズドーンッ!!


 その瞬間、スキル《狂戦士の咆哮》が発動した。


 俺の全ステータスは、お約束の10倍に。


「よーし、準備完了。見せてやるよ──俺の新・魔法攻撃を!」


 俺はフルパワーでマナを凝縮する。


 周囲に漂うマナはもちろん、空気中や地面の奥、この世界に存在するマナというマナを片っぱしからかき集める。


 バキバキッと音を立てながら、頭上でマナの塊が膨張していく。もはや魔法というより、太陽か何かが降ってくるレベル。


 俺はそれを、ボルケーノ・タイタンへ落っことす!


「喰らえ! これが新必殺技マナ・デストロイヤーだぁぁーーッ!!」


 ──ドゥオォォォォーーンッ!!


 次の瞬間、極限まで膨れ上がったマナが大爆発した。


 白熱の閃光がほとばしり、ボルケーノ・タイタンの巨体は、まるで花火のように盛大に弾け飛ぶ。


「エ、エリク閣下……!? こ、これは……!?」


 凄まじい衝撃波がクラウディアたちを巻き込んだ。成す術なく、騎士団は落ち葉のように吹き飛ばされる。


 やべっ! ちょっとやりすぎた感あるな、これ……。


 巨大なキノコ雲が吹き上がり、渓谷の一帯はもはや更地に……。ボルケーノ・タイタンは、キラキラと光の粒になって空へ溶けていった。


 ──オーバーキルにもほどがある。


 だがまあ、俺としては──大・満・足!


 最高の魔法をぶっ放して、最高の結果を叩き出したのだ。それ以上、何を望むっていうんだよ。


「よし、今回も楽勝だったな!」


───────────────

【名前】エリク・ダークベルク

【種族】人間(転生者)

【年齢】12

【職業】冒険者(Sランク魔法使い)


【Lv】10

【EXP】201058/400K


【HP】235/235

【MP】106/106

【攻撃力】20  【防御力】36

【敏捷】235  【魔力】103

【運】21


【スキル】自動回復Lv5

     CT短縮Lv5

     狂戦士の咆哮

【魔法】無属性魔法マナバレット

【属性】風駆けの祝福

───────────────



 ──そして、俺はレベル10に到達していた。


 常人なら数十年を費やす境地を、俺は半年もかからず踏破。文字通り、最速レベルアップの証明だ。


 弱小モブから、ここまで来れた理由?


 ──時短と効率を徹底して、最小の手数で最大の結果を出した。


 ……なんて、カッコいいことを言いたいところだが。


 たぶん実際は、諦めが悪くて、しつこく努力してきただけ。案外、それが一番の近道だったのかもしれない。


 俺は爆心地のど真ん中で、堂々と仁王立ちする。ドヤ顔をキメつつ、風にマントをなびかせる。


 ……完全にエンディングの立ち絵だな。


 背後では、騎士団がまだ地面にのめり込んでいるが……、まあ、大丈夫だろう。


 世界がどうなろうと、俺は今日も元気にレベル上げだ。


 モンスターがいる限り、


 そして、挑戦し続ける限り──


「さて……次のレベルアップ、いってみっか」



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


この物語を書き切れたのは、読んでくださった皆さんのおかげです。楽しんでいただけたなら幸いです。


もしよろしければ、評価をいただけると今後の執筆の励みになります。

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