第29話 突入、教会の闇を暴け!
──俺たちは教会の中に足を踏み入れた。
中はやけに静かで、カビ臭さが鼻をついた。床はギシギシ、壁はボロボロ。祈りの場っていうより、“廃墟見学ツアー”って感じだ。
奥には小さな祭壇がひとつ、それと椅子が数脚並んでいるだけ。誰かが使った痕跡はゼロで、もはや幽霊くらいしか常連はいなさそう。
「何かあるかもしれない。エリク君、周囲を調べてくれないか」
クラウディアが警戒しながら言った。
俺はこくりとうなずき、《マナ探知》を発動する。
空間全体に薄くマナを張り巡らせた。そうすることで、物体の構造や、その隙間を流れる空気の動きまで読み取れるのだ。
俺のセンサーはかなり高性能で、床や壁の障害物も通り抜ける。まるで透視メガネでも付けてる感覚だ。
ちょうど祭壇へ足を運んだ時だった。
ピピッ、と俺のセンサーが反応した。
──ん? この下に……、何か、空間があるな……。
見た目はごく普通の祭壇だった。他の場所よりちょっとだけ高さのついた木の床だ。
だが、俺の《マナ探知》は、確かに反応がしている。
俺はクラウディアを呼び、祭壇の床を指さした。クラウディアは膝をついて辺りを調べる。
すると、何かを見つけたようだ。
「ここに、わずかな隙間があるな……」
そう言うなり、クラウディアはためらいなく、その隙間に指をかけた。そして力任せに引っ張り上げる。
ギギギ……ッ、という鈍い音とともに、床板が持ち上がった。するとそこには、ぽっかりと空いた黒い穴が。
──おおっ、地下通路だ!
蓋の下には、古びた梯子がかけられていて、その奥には、うっすら通路らしき影が見えた。
「エリク君、お手柄だよ。これはどこかへつながる通路だ。もしかしたら、この先にはアジトがあるかもしれない……」
「そうだな」
俺はクラウディアと目を合わせる。
──こうなったら、行くしかないだろ!
クラウディアが先に梯子に足をかけ、慎重に降りていった。俺も、ドキドキワクワクしながら、彼女のあとをついていく。
こういうの、テンション爆上げだよなあ。隠し通路ってだけで、男のロマン全開だろ。
ゆっくりと通路を進むと、枝分かれした先にいくつもの小部屋が現れた。そこには、見たこともない禍々しい装置の数々が並んでいた。
床には魔法陣がびっしり刻まれ、中央には錬金炉があった。
──なんだここは……、研究施設か何かか……?
赤紫に光る薬液がガラス管を伝って流れ、金属の器具がグゴゴ……ッと、うめき声みたいな音を立てている。
思わず引き気味の俺の横で、クラウディアが真顔で言った。
「これは……、毒薬だ。しかも恐ろしく純度が高い。おそらく、ポイズンダガーの製造も、この地下施設で行われているのだろう……」
──マジか……。
まさか、教会の地下が暗殺武器の製造工場になっているとは……。
罰当たりにもほどがある。いや、神さえもドン引きするレベルだろ……。
だが、ヤバいのはそれだけではなかった。
別の部屋の奥には、あの時、馬車に積み込まれていたものと同じ壺が、ズラリと並んでいた。
おそるおそる蓋を開けてみると……ふわりと、鼻をつくような甘い匂いが漂った。
中には乾燥した植物の葉らしきものが、ぎっしりと詰まっている。
「……エリク君、これは魔薬だよ。イレーネで蔓延しているものと同じものだ。ポイズンダガーのみならず、魔薬まで製造していたとは……」
クラウディアの声は、深く沈んだ。
俺も思わず言葉を失う。
ポイズンダガーの出どころを探っていたら、まさか魔薬の製造拠点にたどり着くとは……。
事件のスケールが、一気にラスボス級に跳ね上がった。
ふいに、どこからか人の声がした。俺とクラウディアは、そろりと声のする方へ向かった。
通路の奥の部屋から、何やら話し声が聞こえてくる。
中を覗くと、そこにはふたりの男がいた。
ひとりはハゲ頭の交易商ディトマー。そしてもうひとりは……見覚えありすぎる顔。
──性悪執事セルヴァだ!
よりによって、この地下製造施設で密談とは……。
ディトマーは手に持った書類をペラペラめくりながら、何やら重要そうな話をセルヴァに説明している。
セルヴァは相変わらず下卑た笑みを浮かべ、悪役幹部そのものの態度で聞き入っている。
どうやら、このふたりが、闇商売の元締めと言っていいだろう。
これは、まぎれもない“動かぬ証拠”。
……つまり、ルーク襲撃事件も、イレーネ魔薬蔓延も、全部つながったってわけだ。
──詰んだな、ゲネス。
俺の目の前に、原作回避ルートが見えた気がした。
とにかく、この男たちを捕まえないことには話がはじまらない。
俺はクラウディアと目配せし、息を合わせて一気に飛び出した。
「証拠は抑えたぞ! 観念しろ、ディトマー。そして、セルヴァよ!」
クラウディアの声に、ふたりはピタッと固まり、顔を真っ青にして振り向いた。セルヴァは俺の顔を見るなり、まるで幽霊でも見たように叫んだ。
「な、何故、エリクがここに!」
「久しぶりだな、セルヴァ」
まさかまた、そのムカつく顔を拝む日が来るとは。俺としては一生見たくなかったけどな!
クラウディアがピシッと姿勢を正し、威厳たっぷりに罪状を言い渡す。
「ポイズンダガーおよび魔薬の違法製造の容疑で、お前たちを逮捕する!」
「ちょっと、待ったぁ!」
突然、叫び声が響いた。
風がビュンと吹き抜け、姿を現わしたのは風の精霊シルフだった。小さな体をブンブン揺らして、怒り心頭といったご様子だ。
「私に呪いをかけて、イレーネに攻撃させたのは──こいつだよっ!!」
シルフがセルヴァをピシャッと指さした。
被害者による重要な証言だ。
これで、容疑はひとつ増えた。
こいつらは、牢屋どころか“打首コース”一直線だ。
「く、くそうっ! このままおめおめと捕まってたまるかぁ!」
突然ディトマーが、近くにあったフラスコを掴み、クラウディアめがけてブン投げた。
しかもよりによって、中身が紫色に光ってるヤバそうなやつを!
だが、クラウディアは涼しい顔で、ひょいっと回避。
返す刀で、剣の柄でディトマーのみぞおちに一撃を加える!
──ドォン!
「ぐわあぁぁぁっ!!」
くの字になったディトマーが、床を転げながら意味不明な悲鳴を上げた。
うむ。さすが騎士団長クラウディア。完璧な制圧っぷりに、思わず拍手したくなる。
……が、その横でセルヴァが、怪しい動きを見せた。
俺たちの目を盗み、ポケットの中に手を突っ込む。
──こいつっ! 逃げる気だな!
俺は即座に魔法を叩き込む。
「逃がすか! マナ・マシンガン!!」
──ズドッドッドッドッドッドッ!!
「ぎゃああああぁぁぁぁっ!!」
セルヴァはド派手に吹き飛び、机の器具をガシャーン、ガシャーンとドミノ倒しみたいに巻き込んでクラッシュした!
最後は壁にべちゃっと突き刺さり、カエルみたいな情けない姿でピクピクしていた。
床には、セルヴァの手から転がり落ちたテレポートの魔導具が。
──はい、残念でした〜。
ひとりだけ逃げようなんて、そんな都合のいい話あるかっての。こいつには、これまでの悪事を全部ぶちまけてもらう。
俺はセルヴァを見下ろしてニヤリと笑った。
「エリク君、これで奴を追い詰められそうだな」
「そうだな、クラウディア」
──残るは、ラスボスただひとり。
辺境領アクシアの領主、ゲネスだ。
もう、あいつの思い通りには絶対させない。ゲネスをぶっ倒し、これまでの恨み、ぜーんぶまとめて返済してもらう。
次の目的地は、もちろんゲネスの屋敷だ。
──これからはじまるのは“完全・原作ルート回避”への反撃だ!




