第27話 爆速レベルアップ大作戦!
──グアァアアアア……、ギィギギギギ……、ヌゥググググ……!
シルフは光を失った羽を震わせながら、苦しそうに呻いていた。
その小さな身体には、闇色の鎖のような呪縛がびっしり絡みつき、黒いモヤがモクモクと立ちのぼっている。
──うわぁ……。完全に“闇落ち”バージョンだな、これ。
風の精霊なのに、魔を孕んでいるなんて……。
アクシア領の騎士団練習場で見た、あの事件の再来だ。
「久しぶりだな、シルフ……」
俺がそっと声をかけると、ぐったりしていたシルフが、ノロノロと顔を上げた。
──ヒザジブリィ〜……、エリグゥ〜……、ゲンギ、ダッダァ〜……?
「うん、まあ……、元気にやってるよ。てか、なんでそんなカタコトなんだよ!?」
俺は即ツッコミを入れる。
呪いって、滑舌にも影響するものなのか?
──マダ、ズガマッチャッダノォ〜……、ダズゲデ、エリグゥ〜……。
闇落ちしている割には、ちゃんと話せていた。黒いモヤの塊をグニャグニャさせながら、俺に助けを求めている。
まあ、助けてって言われたら、助けないわけにはいかないけど……。
俺は腕を組んで考える。
──いや、マジで超真剣に考える。
当然、苦しむシルフを放っては置けない。
こんな蛮行を見せられて、こっちだって内心ブチギレ寸前だ。
だが、今すぐにシルフを救助すれば、せっかく湧きまくっていたモンスターが一瞬で消えてしまう。
つまり、経験値はサヨウナラだ……。
──うぅ……、それは正直、めっちゃ痛い。
この洞窟、モンスター湧きはマジで絶妙だった。出現テンポも、数も、配置もパーフェクト。こんな完璧なレベリングスポット、そう簡単には見つからない。
ここで止めるなんて、宝箱の前でセーブせずに電源切るようなもの。
俺は葛藤しつつ、おもむろにステータス画面を開いて確認する。
───────────────
【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】冒険者(Sランク魔法使い)
【Lv】7
【EXP】24092/48000
【HP】115/115
【MP】55/55
【攻撃力】14 【防御力】24
【敏捷】145 【魔力】52
【運】8
【スキル】自動回復Lv5
CT短縮Lv5
狂戦士の咆哮
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
───────────────
ふむ……。レベル8まで、あと24000か。
今のペースだと、モンスター1体につき5ポイント手に入る計算だから……、つまり、5000体討伐でレベルアップだ。
……5000体!?
正気じゃない数字だが、今、俺の目の前にいるのは、“モンスター湧き機能付きシルフ”という、“天然経験値生成マシン”なのだ。
──これを、使わない手あるか?
いや、まったく、ない!
俺はできるだけ申し訳なさそうな顔をして、そっと尋ねる。
「なあ、シルフ、お願いがあるんだけど……。その、ほんのちょ〜っとだけ経験値稼ぎに協力してくれないか?」
──グガァ……? イマ、ナンテ……!?
「あと24000必要なんだよ。だからさ、モンスター1万体くらい出してくれたらうれしいな〜、なんて」
──ゴ、ゴノジョウギョウデ……、ソレ、イウゥ? ソレニ、10000ハ、モリズギダロォ……。
まあ、シルフの言うとおり、5000で十分なんだけど、ここはキリよく1万でいこう!
「ほら、どうせなら数が多い方が楽しいだろ? お祭りだ、お祭り!」
──オ、オマエド、イウゥ、ヤヅハ……
ドン引きするシルフに、俺は手を合わせてお願いする。
「終わったら、ちゃんと助けてやるから! ね? ねっ?」
──ジガダナイナァ……。
ブツクサ文句を垂れながら、シルフは闇の力をたぎらせはじめた。その身体から放たれた黒い風が、グルグルと不穏な渦を描き出す。
──ギィギギギギィィィィ……ッ!!
洞窟全体がビリビリと震えた。
天井からも壁からも地面からも、あらゆる方向からモンスターがニュルニュル湧き出した。
──この瞬間、洞窟は俺の“経験値工場”と化したのだ。
「シルフ、恩に切るよ! 俺は外で待ってるから、ジャンジャン、モンスターを湧かせてくれ!」
──ギィギギギギィィィィ……ッ!!
シルフの叫び声を背に、俺は勢いよく洞窟の外へ飛び出した。
10000体を相手にするのに、狭い洞窟とかナンセンスだ。どうせなら、だだっ広いところで、ド派手にやろうじゃないか!
洞窟を出た先は、ゆるやかな丘陵地だった。見通しバツグンで、討伐にはもってこい。
俺はワクワクを全身にみなぎらせながら、モンスターの出現を待つ。
──と、その時。
地平線の向こうに黒い影がムクムクと姿を現した。
……いや、影なんて生やさしいものじゃない。うごめく黒い塊が、ドドドドッと絶え間なく押し寄せて来る!
それは、丘陵地全体を飲み込むほどのモンスターの大群だった。
──キタキタキタァァァーーッ!! 経験値の群れだぁぁぁーーッ!!
俺のテンションは一気に限界突破!
モンスター10000体の勢いは想像以上だ。
端から見れば、この状況、とても正気の沙汰じゃないだろう。
──アンタ、アダマ、オガジイィィィ……。
どこからか、シルフのかすれた声が聞こえた。だが、その言葉は俺にとっては最高の褒め言葉だ。
「よっしゃぁ! 全部まとめてレベル上げだァァァーーッ!!」
俺は腕を突き出し、全身にマナを集中させた。
そしてモンスター目がけ、魔法をぶっ放す!
「喰らえぇっ! マナ・ガトリング!!」
──キュウィーン……、ズバッバッバッバッバッバッバッバーーッ!!
「グウェッ!」「ギャアァァ!」「ギュルゥゥゥ!」
魔法弾の嵐がモンスターの群れを薙ぎ払う!
リザードマンの大群がボウリングのピンみたいに吹き飛び、巨大ムカデの行列がひっくり返ってバタバタ暴れ、スライムの大家族がぷるんぷるんと無慈悲に爆散する!
俺の耳に届くのは、間違いなく経験値ゲットの快音。
──うん、いい悲鳴だぜ!
モンスターの群れが際限なく押し寄せる。だが、それ以上に俺の攻撃も止まらない!
──ズバッバッバッバッバッバッバッバーーッ!!
「グウェッ!」「ギャアァァ!」「ギュルゥゥゥ!」
リロードなし! マナ無限! 俺最強!
撃っても撃ってもマナが尽きないという、この快感。
……ああ、たまらねえ!
俺は口元をニヤけさせながら、一心不乱に撃ちまくる。
──そして、数分後。
丘陵地帯には、嘘みたいに静寂が戻っていた。
倒れたモンスターの数、実に10000。俺は恍惚の表情を浮かべ、ふうっと長い息を吐く。
その直後、ステータス画面がバーンと目の前に立ち上がった。
───────────────
【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】冒険者(Sランク魔法使い)
【Lv】8
【EXP】25908/100K
【HP】150/150
【MP】70/70
【攻撃力】16 【防御力】28
【敏捷】170 【魔力】67
【運】11
【スキル】自動回復Lv5
CT短縮Lv5
狂戦士の咆哮
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
───────────────
──やったあぁぁぁーーッ! 作戦成功ッ! レベル8だあぁぁぁーーッ!!
しかも経験値は、25000オーバーのお釣りつき。
俺はその場で高らかにガッツポーズを決めた。風に舞う土埃の中で、勝利BGMが脳内再生される。
作戦は──間違いなく、大・大・大成功だった。
「よし、シルフも頑張ってくれたし、そろそろ助けてやろう」
俺は洞窟に戻り、シルフを捕らえていた魔法陣に手をかざす。
──ズドンッ!!
石壁がビリビリ震え、魔法陣が粉々に砕け散った。
「あああぁ〜! マジ最悪ぅ〜! どんだけモンスター出させるのよアンタぁ! 疲れたぁ〜! 羽バキバキ〜だし! 肩凝ったぁ〜!」
解き放たれたシルフは、俺の周りをブンブン飛び回りながら愚痴る。
「もう、こんな無茶なこと、させないでよね!」
俺の頭の上で、地団駄を踏むシルフ。その姿は怒っているというよりも、完全に駄々っ子モード。かわいらしく、ほっぺを膨らませていた。
一息ついたところで、俺は経緯を尋ねる。
「なあシルフ。お前に罠をかけたのって、どんな奴だった?」
「んー……すっごく嫌味ったらしい顔してた。あとね、闇属性の匂いがプンプンしたの! 性格の悪さが滲み出てる感じ」
ああ、これはもう確定だな。
セルヴァ以外に考えられない。
犯人があの性悪執事だとすれば、明らかにイレーネの弱体を狙った、ゲネスの悪どい策略だ。
イレーネの政情不安も、あいつらが関与していると見て間違いない。
──これは早めに手を打たないと、マズいぞ……。
俺はすぐに決意を固めた。
一刻も早く、この顛末をクラウディアに伝えるべく、俺は超特急でオレオスへ向かった。




