第26話 洞窟でモンスター無双!
──数日後。
今日も俺は懲りずに、ギルドの掲示板の前で腕を組み、ズラリと並ぶ依頼書の山をじっと品定めする。
モンスター討伐、荷運び、迷子のネコ探し、井戸掃除……。本日もバリエーション豊かなラインナップだ。
最近は、ルークの魔法指導なんて“追加クエスト”まで発生していた。
俺のギルドでの便利屋ポジションは今日も安定して健在だ。
──冒険者の人生、レベル上げこそ至高なのだ。3度の飯より経験値。
これが俺の揺るぎなき信念である。
「……よし、今日は3件ハシゴするか」
俺は掲示板から3つの依頼書をひっぺがし、受付に向かった。
ギルドのお姉さんは、今日も変わらず完璧スマイル。ちょっと反則レベルの安定感だ。
午前は親方の手伝い、そのあとは薬草採取と荷運び。ラストはもちろん、ルークの魔法指導。
派手さはないが、こういう地味な依頼の積み重ねこそが力になる。稼げる時に稼いでおかないと、あとで泣く羽目になるのが冒険者というもの。
毎日コツコツと経験値を積み重ね、俺は少しずつ、確実に強くなる。
* * *
──そして、その日の夜。
ノルマを全部片付けた俺は、再びギルドへ顔を出した。今日も頑張った俺へのご褒美は、新しい依頼のチェックだ。
ふ〜ん、と掲示板を眺めていると、背後から声をかけられた。
「エリクさん、ちょっといいですか……?」
振り返ると、そこには完璧な角度でキラッと歯を光らせる、ギルドのお姉さんの魔性の営業スマイルが待ち構えていた。
「実は、新しい依頼が届いているんです」
──あ、これは来たな。
間違いなく“妙なやつ”だ。
わざわざ俺を名指しで指定してくる時点で、もう怪しさ満点。
もちろん、直接依頼をくれるのはありがたい。ありがたいんだけど……こういう時の依頼は決まって、他の冒険者がそっとスルーした厄介ごとなんだよな。
その予感を裏付けるように、お姉さんの笑顔はさらに光を増していく。
……やめろ、そのスマイル、意外と攻撃力高いんだって。
そんなドギマギしている俺に、お姉さんはそっと告げた。
「今回は、北方領イレーネからの討伐依頼なんです」
──ん? お隣さんからの依頼?
へぇ、珍しいことがあるもんだ。領地をまたいだ依頼なんて、よっぽどの非常事態に決まってる。
普通なら、地元のギルドで片付けるはずだが、他領に回される時点で、一筋縄ではいかない案件である。
「それで、依頼内容は?」
「モンスター湧きの異常調査、および討伐です!」
──モンスター討伐……だと!!
その一言で、俺の中の経験値センサーがピコーンと派手に反応した。
頭の中でファンファーレが鳴り響く。
おおっ! めっちゃ俺好みのクエストじゃないか!
ついに来たか、俺のターン!
これはもう、経験値ザクザク待ったなしの大好物案件じゃないか!
「最近、洞窟から突然モンスターが湧きだして、周辺の住人たちに被害が出ているそうなんです。イレーネではそんな場所が増えていて、騎士団も手が回らないそうです」
──へえ、それは大変だなあ。
洞窟からモンスターが突然湧くって、だいぶ物騒な話だ。
「それに、最近のイレーネは治安もかなり悪いんです。領主家の政争とか、経済の混乱に加えて、“怪しい薬”まで出回っているらしくて……」
──怪しい薬?
何だそれ、健康食品か? それとも新しい強化ポーション?
……いや、そんな甘い話じゃない。
イレーネの政情不安は前々から噂で聞いていたけど、……まさか薬物が出回るほど腐っていたとは。
貧民街では労働者が薬に溺れ、領都では貴族が裏で金を動かす。そんな腐敗の構図が容易に目に浮かんだ。
──ゲネスが勢力を伸ばすには、これ以上ない口実だ。
「どうです? エリクさんにぴったりな案件だと思うのです。報酬も相場の2倍出ていますよ!」
と、お姉さんは身を乗り出して、これでもかというダメ押しの営業スマイル。
思えば久しぶりの“特別依頼”。
モンスター討伐に、洞窟探索つきの豪華フルコース。
だが、現場へ向かうだけでも数日かかる距離だ。それに討伐にはそれなりの腕が必要だし、足場の悪い洞窟では不足の事態も起こりうる。
普通の冒険者が進んで受けるクエストではない。
──だが、俺なら話は別だ。
なにせ俺は《風駆けの祝福》の持ち主にして、移動速度バケモノ男子、エリク様である。
現場までひとっ飛び。移動コストゼロ。宿泊費ゼロ。筋肉痛もゼロ。入り組んだ洞窟内ですら、高速移動が可能なのだ。
Sランク冒険者の俺なら、こんな依頼、恐るるに足らず。
──つまりこれは、実質“勝ち確定クエスト”だ。
しかも、洞窟っていえばモンスターの宝庫じゃないか。経験値山盛りという予感しかしない。
これは間違いなく超・超・超おいしいクエスト!
だが、俺はそんな本音を胸の奥にしまい、「しょうがないなあ」と、あえて困った顔を作って依頼を引き受けた。
「ありがとうございます! 本当に助かります!」
お姉さんは胸を撫で下ろし、ほっと息をつく。
「でも、十分気をつけてくださいね。イレーネは今、本当に危険な場所になっていますから……」
お姉さん、珍しくマジ顔で心配してくれてるけど、その割には、いつも俺にだけ“きわどい依頼”を回してくるのはなんでだろう……。
まあ、細かいことは別にいいや。とにかく、今回の依頼は、俺にとってはもってこいのクエストだった。
──よし、さっそく討伐といこうじゃないか。
今回も、サクっと片付けて、がっつり経験値を稼いでやろう!
お姉さんから詳しい場所を聞き出すと、俺は勢いよくギルドを飛び出した。もちろん《風駆けの祝福》のスキルで、一気に現場へ。
──到着!
わずか数分。
風を切って駆け抜けた先に広がっていたのは、イレーネ領内の深い山あいだった。
中心街から丘陵地を越え、北へおよそ10キロ。鬱蒼とした森の奥、岩肌の裂け目のように口を開いているのが、お目当ての洞窟だ。
街からこれほど近い場所でモンスターが湧くなんて、住民たちはさぞ気が気でないだろう。
洞窟の入り口は、想像していた以上に不気味だった。
黒々とした岩肌がぽっかり口を開け、まるで何かを飲み込もうと待ち構えているみたいだ。
耳を澄ますと、奥から低く唸るような──ゴゴゴォ……という音が。空気がかすかに震え、モンスターの気配がひしひしと伝わってくる。
……一般ピーポーならビビって引き返すところだが。
──おおっ! 経験値が両手を広げて歓迎してくれている!
と、ひとりテンションが爆上がりの俺。
さっそく軽く肩を回してストレッチ。そしてマナをギュッと集中させ、手のひらに光の玉をポンッと生み出す!
白い光が前方を明るく照らす。
──よーっし、準備完了! 今日も経験値ザクザクいくぜ!
気合一発、俺は洞窟に勢いよく飛び込んだ。
すると、闇の奥で、ギラリと光る無数の眼光が。
「おっ、巨大ムカデだ! お出迎えありがとう! マナ・バレット!!」
──ズドン!
「ギュルルル!!」
「おっと、今度はリザードマンか! お前も歓迎してくれるよな! マナ・バレット!!」
──ズドン!
「グウェェッ!!」
「あっ、スライムの家族だ! ほっこりするぜ! マナ・マシンガン!!」
──ズドッドッドッドッドッドッ!
──ビシャ!
──ああ、たまらん。これ、本当に、キモチイイ!!
俺は今、最高にノッていた。
これぞ冒険者ライフの醍醐味だ。
モンスターを倒すたびに、経験値ゲージがピコピコと跳ね上がる!
「もっとだ……、もっと俺に経験値をくれぇぇーーッ!」
洞窟の中を縦横無尽に駆け回り、モンスターを見つけては即撃破。経験値ゲージが“ぐいーん”と伸びる音が、脳内でリアルに聞こえてくるレベル。
──最高。まさに俺タイム。
だが、モンスターを討伐していくうちに、ふと、小さな違和感を覚えた。
何故かモンスターの湧き方が、妙に規則正しい……。
間隔も、数も、まるで“誰かが配置しました”みたいに正確だ。
このパターン……、どこかで味わったことがあるぞ……。
俺はマナの感知モードをオンにして、洞窟の奥へそろそろと進んだ。枝分かれする通路を、くねくね曲がりながら、隅々まで探る。
すると、その先で。
──グワァアアアアアア……ッ!
洞窟がビリビリ震えるような、バカみたいにデカい唸り声が響いた。
奥の空間がぼうっと黒く光り、その中心に、何かがフワ〜ッと浮かんでいるのが見える。
その真下には、見憶えのある魔法陣。
──ああ〜、これもう絶対それじゃん。
俺は呆れ顔をしつつ、哀れみとツッコミの入り混じった声で叫んだ。
「お前シルフだろ! また呪いかけられてんじゃん!」




