表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/32

第26話 洞窟でモンスター無双!

 ──数日後。


 今日も俺は懲りずに、ギルドの掲示板の前で腕を組み、ズラリと並ぶ依頼書の山をじっと品定めする。


 モンスター討伐、荷運び、迷子のネコ探し、井戸掃除……。本日もバリエーション豊かなラインナップだ。


 最近は、ルークの魔法指導なんて“追加クエスト”まで発生していた。


 俺のギルドでの便利屋ポジションは今日も安定して健在だ。


 ──冒険者の人生、レベル上げこそ至高なのだ。3度の飯より経験値。


 これが俺の揺るぎなき信念である。


「……よし、今日は3件ハシゴするか」


 俺は掲示板から3つの依頼書をひっぺがし、受付に向かった。


 ギルドのお姉さんは、今日も変わらず完璧スマイル。ちょっと反則レベルの安定感だ。


 午前は親方の手伝い、そのあとは薬草採取と荷運び。ラストはもちろん、ルークの魔法指導。


 派手さはないが、こういう地味な依頼の積み重ねこそが力になる。稼げる時に稼いでおかないと、あとで泣く羽目になるのが冒険者というもの。


 毎日コツコツと経験値を積み重ね、俺は少しずつ、確実に強くなる。



 * * *



 ──そして、その日の夜。


 ノルマを全部片付けた俺は、再びギルドへ顔を出した。今日も頑張った俺へのご褒美は、新しい依頼のチェックだ。


 ふ〜ん、と掲示板を眺めていると、背後から声をかけられた。


「エリクさん、ちょっといいですか……?」


 振り返ると、そこには完璧な角度でキラッと歯を光らせる、ギルドのお姉さんの魔性の営業スマイルが待ち構えていた。


「実は、新しい依頼が届いているんです」


 ──あ、これは来たな。


 間違いなく“妙なやつ”だ。


 わざわざ俺を名指しで指定してくる時点で、もう怪しさ満点。


 もちろん、直接依頼をくれるのはありがたい。ありがたいんだけど……こういう時の依頼は決まって、他の冒険者がそっとスルーした厄介ごとなんだよな。


 その予感を裏付けるように、お姉さんの笑顔はさらに光を増していく。


 ……やめろ、そのスマイル、意外と攻撃力高いんだって。


 そんなドギマギしている俺に、お姉さんはそっと告げた。


「今回は、北方領イレーネからの討伐依頼なんです」


 ──ん? お隣さんからの依頼?


 へぇ、珍しいことがあるもんだ。領地をまたいだ依頼なんて、よっぽどの非常事態に決まってる。


 普通なら、地元のギルドで片付けるはずだが、他領に回される時点で、一筋縄ではいかない案件である。


「それで、依頼内容は?」


「モンスター湧きの異常調査、および討伐です!」


 ──モンスター討伐……だと!!


 その一言で、俺の中の経験値センサーがピコーンと派手に反応した。


 頭の中でファンファーレが鳴り響く。


 おおっ! めっちゃ俺好みのクエストじゃないか!


 ついに来たか、俺のターン!


 これはもう、経験値ザクザク待ったなしの大好物案件じゃないか!


「最近、洞窟から突然モンスターが湧きだして、周辺の住人たちに被害が出ているそうなんです。イレーネではそんな場所が増えていて、騎士団も手が回らないそうです」


 ──へえ、それは大変だなあ。


 洞窟からモンスターが突然湧くって、だいぶ物騒な話だ。


「それに、最近のイレーネは治安もかなり悪いんです。領主家の政争とか、経済の混乱に加えて、“怪しい薬”まで出回っているらしくて……」


 ──怪しい薬?


 何だそれ、健康食品か? それとも新しい強化ポーション?


 ……いや、そんな甘い話じゃない。


 イレーネの政情不安は前々から噂で聞いていたけど、……まさか薬物が出回るほど腐っていたとは。


 貧民街では労働者が薬に溺れ、領都では貴族が裏で金を動かす。そんな腐敗の構図が容易に目に浮かんだ。


 ──ゲネスが勢力を伸ばすには、これ以上ない口実だ。


「どうです? エリクさんにぴったりな案件だと思うのです。報酬も相場の2倍出ていますよ!」


 と、お姉さんは身を乗り出して、これでもかというダメ押しの営業スマイル。


 思えば久しぶりの“特別依頼”。


 モンスター討伐に、洞窟探索つきの豪華フルコース。


 だが、現場へ向かうだけでも数日かかる距離だ。それに討伐にはそれなりの腕が必要だし、足場の悪い洞窟では不足の事態も起こりうる。


 普通の冒険者が進んで受けるクエストではない。


 ──だが、俺なら話は別だ。


 なにせ俺は《風駆けの祝福》の持ち主にして、移動速度バケモノ男子、エリク様である。


 現場までひとっ飛び。移動コストゼロ。宿泊費ゼロ。筋肉痛もゼロ。入り組んだ洞窟内ですら、高速移動が可能なのだ。


 Sランク冒険者の俺なら、こんな依頼、恐るるに足らず。


 ──つまりこれは、実質“勝ち確定クエスト”だ。


 しかも、洞窟っていえばモンスターの宝庫じゃないか。経験値山盛りという予感しかしない。


 これは間違いなく超・超・超おいしいクエスト!


 だが、俺はそんな本音を胸の奥にしまい、「しょうがないなあ」と、あえて困った顔を作って依頼を引き受けた。


「ありがとうございます! 本当に助かります!」


 お姉さんは胸を撫で下ろし、ほっと息をつく。


「でも、十分気をつけてくださいね。イレーネは今、本当に危険な場所になっていますから……」


 お姉さん、珍しくマジ顔で心配してくれてるけど、その割には、いつも俺にだけ“きわどい依頼”を回してくるのはなんでだろう……。


 まあ、細かいことは別にいいや。とにかく、今回の依頼は、俺にとってはもってこいのクエストだった。


 ──よし、さっそく討伐といこうじゃないか。


 今回も、サクっと片付けて、がっつり経験値を稼いでやろう!


 お姉さんから詳しい場所を聞き出すと、俺は勢いよくギルドを飛び出した。もちろん《風駆けの祝福》のスキルで、一気に現場へ。


 ──到着!


 わずか数分。


 風を切って駆け抜けた先に広がっていたのは、イレーネ領内の深い山あいだった。


 中心街から丘陵地を越え、北へおよそ10キロ。鬱蒼とした森の奥、岩肌の裂け目のように口を開いているのが、お目当ての洞窟だ。


 街からこれほど近い場所でモンスターが湧くなんて、住民たちはさぞ気が気でないだろう。


 洞窟の入り口は、想像していた以上に不気味だった。


 黒々とした岩肌がぽっかり口を開け、まるで何かを飲み込もうと待ち構えているみたいだ。


 耳を澄ますと、奥から低く唸るような──ゴゴゴォ……という音が。空気がかすかに震え、モンスターの気配がひしひしと伝わってくる。


 ……一般ピーポーならビビって引き返すところだが。


 ──おおっ! 経験値が両手を広げて歓迎してくれている!


 と、ひとりテンションが爆上がりの俺。


 さっそく軽く肩を回してストレッチ。そしてマナをギュッと集中させ、手のひらに光の玉をポンッと生み出す!


 白い光が前方を明るく照らす。


 ──よーっし、準備完了! 今日も経験値ザクザクいくぜ!


 気合一発、俺は洞窟に勢いよく飛び込んだ。


 すると、闇の奥で、ギラリと光る無数の眼光が。


「おっ、巨大ムカデだ! お出迎えありがとう! マナ・バレット!!」


 ──ズドン!


「ギュルルル!!」


「おっと、今度はリザードマンか! お前も歓迎してくれるよな! マナ・バレット!!」


 ──ズドン!


「グウェェッ!!」


「あっ、スライムの家族だ! ほっこりするぜ! マナ・マシンガン!!」


 ──ズドッドッドッドッドッドッ!


 ──ビシャ!


 ──ああ、たまらん。これ、本当に、キモチイイ!!


 俺は今、最高にノッていた。


 これぞ冒険者ライフの醍醐味だ。


 モンスターを倒すたびに、経験値ゲージがピコピコと跳ね上がる!


「もっとだ……、もっと俺に経験値をくれぇぇーーッ!」


 洞窟の中を縦横無尽に駆け回り、モンスターを見つけては即撃破。経験値ゲージが“ぐいーん”と伸びる音が、脳内でリアルに聞こえてくるレベル。


 ──最高。まさに俺タイム。


 だが、モンスターを討伐していくうちに、ふと、小さな違和感を覚えた。


 何故かモンスターの湧き方が、妙に規則正しい……。


 間隔も、数も、まるで“誰かが配置しました”みたいに正確だ。


 このパターン……、どこかで味わったことがあるぞ……。


 俺はマナの感知モードをオンにして、洞窟の奥へそろそろと進んだ。枝分かれする通路を、くねくね曲がりながら、隅々まで探る。


 すると、その先で。


 ──グワァアアアアアア……ッ!


 洞窟がビリビリ震えるような、バカみたいにデカい唸り声が響いた。


 奥の空間がぼうっと黒く光り、その中心に、何かがフワ〜ッと浮かんでいるのが見える。


 その真下には、見憶えのある魔法陣。


 ──ああ〜、これもう絶対それじゃん。


 俺は呆れ顔をしつつ、哀れみとツッコミの入り混じった声で叫んだ。


「お前シルフだろ! また呪いかけられてんじゃん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ