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第24話 謁見に行ったらヤバかった

 ──そして、領主との謁見の日。


 俺はクラウディアとともに、迎えの馬車に揺られていた。


 ガタゴトと走ること30分。馬車の窓から見えた景色に、俺はあんぐりと口を開けた。


「でっっかっ!!」


 そこにそびえ立っていたのは、“屋敷”なんて呼んだら逆に失礼になるレベルの巨大建造物だった。


 白亜の石壁はツルッツルに磨かれ、天まで届きそうな尖塔がドーン!


 極めつけに庭の真ん中に、バカでかい噴水が鎮座していて、噴き上がる水が虹まで作っていた。


 もう、重厚感とファンタジー演出が、全力でこっちに殴りかかってくる。


「これ、もう屋敷じゃなくて、完全にお城だろ……」


 玄関前には使用人たちがずらりと整列していた。しかも全員、角度そろえてピシィッ!と完璧なお辞儀だった。


「ようこそエリク様、お待ちしておりました」


 うやうやしく頭を下げる使用人たち。


 Sランク冒険者という称号があるだけで、ここまで“VIP待遇”になるとは……。


 ──うむ。悪くない。


 いや、むしろ……めちゃくちゃキモチいい!!


 真ん中にいた執事に、案内されるまま屋敷の奥へ進むと、通されたのは“謁見の間”だった。


 扉が開いた瞬間、俺は息を呑んだ。


 まるで、王城の大広間をそのまま切り取ったような豪華さだ。


 きらびやかなシャンデリアに、深紅の絨毯。細工がまぶしい金の装飾。そのひとつひとつが、別世界のような空気を放っている。


 そして、その荘厳な間の中央で俺を迎え入れたのは──オレオス領主、グランツ・ラインフェルトだった。


「よく来てくれた。君が、Sランク冒険者のエリクだね」


 正義感と聡明さを併せ持ち、領民の信頼も厚い“できる若き領主”。


 実際に目の前で見ると、その設定どおり、いや、それ以上にまぶしいくらいの領主オーラを放っている。


 そしてその隣には、昨日、俺がオレオスまで送り届けた“あの少年”の姿が。


「まずは礼を言おう。息子を守ってくれて、ありがとう」


「……息子?」


 思わず聞き返すと、横に控えていた少年が、ちょこん一歩前に出た。


 小動物のようにおずおずと、それでも、真っ直ぐこちらを見るその姿。


 ──ちょ、ちょっと待ってくれ……。


 この子って、昨日、白目を剥いていて失神していたあの少年じゃないか!? よりによって、その子が領主の息子だったなんて……。


 グランツはこくりとうなずいた。


「名はルーク・ラインフェルト。私のひとり息子だ」


 ──まさか……!


 俺はその名前を聞いて、思わず目を見開いた。


 脳内アーカイブが、原作ゲームの記憶を呼び起こす。


 そうだ! たしか原作では、この少年はゲネスに拉致され、アクシアに幽閉される運命だったはずだ。


 ……そして、命からがら脱出し、事件の真相を告げることになる。


 この事件の発覚をきっかけに、物語は一気に急展開し、ゲネスの武装蜂起へと繋がっていく。


 のちに“真実を告ぐ者”として名を刻むこの少年は、まさに物語のターニングポイントを引き起こす重要人物だった。


 そう考えると、あの謎の覆面集団の襲撃にも説明がつく。


 領主の後継である息子、ルークを狙ったのはゲネスであり、オレオスの統治を揺さぶるための、計画的な犯行だったというわけだ。


 ──まったく、ゲネスの野郎、許せねぇ……!


「エリク君がいなければ、どうなっていたかわかりません……。彼の功績は計り知れません」


 クラウディアが、やけに真面目な顔でそう言った。


 まあ結果的に、この世界の“悲劇フラグ”をひとつ、へし折ったわけで、これは、なかなかの主人公ムーブ。


 すると、グランツが上機嫌に笑みを浮かべた。


「まさに若き英雄だな。それに君は精霊から《風駆けの祝福》という能力を授かったと聞く。それを使って、あっという間にルークをオレオスへ送り届けたそうじゃないか。実に素晴らしい能力だ。私も一度、体験したいものだ」


 領主様は満面の笑みだが、そのスキルは普通の人間にとっては、結構なスパルタ仕様だ。真っ先にその洗礼を受けたルークは、となりで青ざめている。


「お父様、それは……本当に……やめておかれた方がよろしいかと……」


 ルークはやんわりと否定した。


 さすがに、領主が白目剥いてぶっ倒れるのはシャレにならない。


「君の評判はクラウディアから聞いている。そして君がダークベルク家の子息であることも……。君は覚えていないと思うが、実は、私は君に会うのは二度目なのだ」


 ──ん? 二度目?


 全然覚えてないぞ。


 俺の頭に「?」が浮かんでいると、グランツは穏やかな笑みを浮かべ、静かに続けた。


「覚えていないのも無理はない。それは君がまだ赤子だった頃の話だ。私はフィリップ閣下とは懇意にしていてね。君が生まれた時、我が腕に抱いたことがあるのだ。その時の面影が、今も残っているよ」


 ──なるほど、そういうことか。


 そんな赤ん坊の頃じゃ、途中で転生した俺が知らないのは当然だ。エリク本人だって覚えてないだろう。


「フィリップ閣下が亡くなり、アクシアの政局が変わったことは、君にとって、さぞ辛いことだったろう……。私は陰ながら、君の身を案じていたのだ。よく無事でいてくれた」


 グランツは胸を撫でおろすように、安堵の色を見せた。


 ──なんていいやつなんだ、この男は。


 この世界に来てから、ロクでもない貴族ばかり見てきたせいで、まるで聖人に出会った気分だ。


 さすが、ゲネスと対局にいる人物だ。


「恥ずかしながら、オレオスの戦力ではアクシアには勝つことはできないだろう。だが、エリクが我らについてくれるなら、これほど心強いことはない」


 グランツは、まっすぐ俺を見据えてそう言った。


 ──おおっ。これは領主からの正式なスカウトじゃないか。


 俺はグランツに応えるように、ぐいっと深く頷いた。


 そして、この力をオレオスのために捧げると、静かに決意した。


 今回の騒動で、ルークの拉致は未遂に終わったが、武装蜂起フラグはまだ折れ切れていない。


 つまり、このままゲネスを野放しにしている限り、オレオスの未来は暗いままだ。


 ──俺がやらないで、誰がやる?


「ひとつ、エリクに頼みがある。君にルークの魔法指導をしてほしいのだ。君ほどの魔法技術を持つものは、この領内にはいない。できれば、この屋敷にしばらく滞在してはくれないか」


 この屋敷で魔法指導?


 俺に住み込みで、家庭教師やれってか。


「見ればわかると思うが、ルークは気が小さくて人見知りな性格だ。だから歳も近いエリクに教えてもらえると助かる。もちろん報酬は十分に用意するつもりだ」


 ルークはというと、目をキラッキラ輝かせて俺を見つめてくる。


 昨日は悲鳴を上げて白目を剥いていたくせに……。


 あの展開から俺に教えを乞うって、どういうことだ?


 まさか、一周回って《風駆けの祝福》が病みつきになったのか……?


「エリク君に教えてもらえば、ルーク様の上達も早いでしょう」


 クラウディアまで俺をゴリ押しする。


 まあ、悪い話じゃない。


 住み込みで報酬もいいし、ここは安全地帯の超・豪華屋敷。しかも、経験値稼ぎまでできるなら、断る理由はなかった。


 ──が、


 俺は引き受ける前に、グランツにひと言つけ加えておくことにした。


「グランツさん。ルーク君は、あなたが思うよりずっと勇敢な子です。将来はきっと、この領地を立派に治める逸材になりますよ」


 俺はわざとらしいくらいのドヤ顔で断言した。


 まるで、何かを悟った賢者みたいな口ぶりだったが、実際のところ、原作知識によるネタバレである。


 だが、グランツもルークも、そろって「???」みたいな顔になっている。


 ありゃ!? 見事にスベったな、これ。


 ……まあいいや。


 伏線ってのは、後から効いてくるものだ。


 その時が来れば、俺の言った意味が理解できるだろう。


 俺は心の中で、いずれゲネスの悪行を暴き“真実を告ぐ者”となるはずだった少年に、密かにエールを送った。


 そして俺は、家庭教師エリク先生として、この豪華な屋敷で新生活をスタートすることになったのだ。

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