第20話 灼熱のレッドドラゴン戦
俺のやる気ボルテージは、すでにマックスを振り切っていた。頭の中は経験値とランクアップの妄想でパンッパンだ。
『Sランク冒険者』──その文字が、脳内でチカチカと点滅している。
──俺は、ひらめいたのだ。
“竜殺しの大剣”を使った、必殺技を。
練習なんて必要ない。
実践で検証こそ、俺流だ。
俺は頭の中で完璧な計画を描きながら、レッドドラゴンがいるという、湖へ向かった。
その場所は、深い森の奥にひっそりと隠されているという。
俺はスキル《風駆けの祝福》を発動し、森の中を突っ切った。鬱蒼とする木々の間を、【敏捷】100越えのスピードで駆け抜ける。
まるで風のように──いや、風さえも置き去りにする勢いで、俺は森を疾走する。
しばらくして、突然、視界がパッと開けた。
──おおっ、ここが“銀葉の湖”か。
目の前に広がったのは、静かで、神秘的な湖だった。
水面は鏡みたいに滑らかで、空の色をそっくりそのまま映している。微かな風が通るたびに、湖面がキラリと光り、まるで本当に“銀の葉”が舞っているかのよう。
……だが、その幻想的な風景の端っこに、どう見ても場違いなものが、ひとつ。
岩か?
山か?
いや、違う。
──あれこそが、お目当てのモンスター、レッドドラゴン。
その巨体を無造作に放り出し、悠々とお昼寝中だった。最強モンスターの余裕か、隠れる気ゼロで開放感に浸っている。
──デカい……。デカすぎる……!
あれはもう、モンスターというより経験値の塊!
いや、経験値の山そのものだ!
俺ははやる気持ちを抑え、まずは現在のステータスを確認する。
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【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】冒険者(Dランク魔法使い)
【Lv】6
【EXP】13022/24000
【HP】85/85
【MP】42/42
【攻撃力】12 【防御力】20
【敏捷】125 【魔力】39
【運】5
【スキル】自動回復Lv5
CT短縮Lv5
狂戦士の咆哮
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
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うむ、前回ミノタウロスを倒したおかげで、けっこう経験値は増えていた。
だが、レベル上げに必要な経験値は──11000。
普通に考えれば気が遠くなる数字だが……。
俺の目の前には、超高経験値モンスター・レッドドラゴンがドーンと寝そべっているのだ。
これは、一撃で人生のランクが変わるビッグチャンス。あいつを倒せば、すべてまるっと解決する未来が見える。
──ではでは、奴が寝ているうちに、サクッと討伐といこう。
俺は物音を立てないように、息をひそめゆっくりと近づいた。
手にした大剣をぎゅっと握り締め、レッドドラゴンにそろりと忍び寄る。
──よし、この位置ならイケる!
そう思った、瞬間だった。
目の前に人影がふわりと現れた。
「誰だよ!? 邪魔するなよ!」
その数、ざっと12名。銀色の甲冑をバッチリ着込んだ集団が、レッドドラゴンに近づいていく。鎧は太陽を反射してギラリと光り、森の中でめっちゃ目立ってる。
──騎士団か!
彼らはレッドドラゴンをぐるりと取り囲み、寝ているうちに奇襲をかける気だ。
──おいおい、やめろ!
俺の経験値に何てことを……!
一気にヤバい状況になってきた。
どうやら俺より先に、ドラゴンの情報を嗅ぎつけていたようだ。
案の定、騎士団は討伐する気マンマンで、しかも、その中には騎士団長クラウディアの姿まである。
彼女が指揮をとるなら、レッドドラゴンだろうが討伐されかねない。先を越されたら、俺のSランク昇格も、レベル7への到達も、あっという間に泡と消える。
──もう、迷っている暇はない!
ここはいったん、ドラゴン討伐はお預けにして、その前にクラウディアたちをやっつけることにする。
無茶苦茶だけど、やるしかない!
「マナ・コントロール!」
「な、何だ……!? 体が……、動かん……!」
俺はうろたえる騎士団を、まとめて空中に持ち上げる。
そして、そのまま湖にドボン!
「うわぁぁぁぁーーっ!!」
大きな水しぶきが上がり、騎士たちの悲鳴がこだまする。その物音で、レッドドラゴンが目を覚ました。
俺はすかさず、前に躍り出る。
「エリク君じゃないか! これは君の仕業か!!」
びしょ濡れになったクラウディアが、絶叫しながら俺を睨む。
「悪いなクラウディア、俺は経験値をみすみす逃すわけにはいかないんだ!」
「君とは協力関係を結んだばかりじゃないか!」
「だから今回はクラウディアが引いてくれ! 説明はあとだ!!」
安眠を邪魔されたレッドドラゴンは、怒り心頭のご様子。でっかい雄叫びを上げると、俺に向かって口から炎をブワッと吐いてきた。
俺は軽やかに身をかわす。
──ゴオォオオオオーーッ!!
一瞬で、あたり一面火の海に。
森の木々が揺れ、湖の水面も燃え上がるような赤に染まる。
騎士団を湖に投げ込んでおいて、マジで正解だった。危うく全員丸焼きになるところだ。
「エリク君、君は本当に無茶苦茶だな!」
呆れ顔で叫ぶクラウディア。
まるで説教に来たお姉さんそのものだ。頭から湯気が出そうな勢いで怒っている。
俺はそんな彼女を尻目に、ちゃっちゃとレッドドラゴン討伐にかかる。
──さて、お昼寝タイムは終わりだ、レッドドラゴン!
ここは手っ取り早く、新・必殺技で片をつけてやる!
俺は《マナ・コントロール》をかけた“竜殺しの大剣”をガシッと握り直し、全力でレッドドラゴンめがけ投げつける。
「これが俺の新必殺技! 名付けて……《ホーミング・ブレイド》だーーッ!!」
──バヒューーンッ!!
轟音を立て、竜殺しの大剣が弾丸のごとく飛んでいく。
だが、レッドドラゴンは一筋縄でいく相手ではない。巨体とは思えない素早さで、俺の攻撃を軽々かわした。
大剣は空の向こうへ飛んでいく。
さすがは、大ボス。
強さだけじゃなく、素早さもピカイチだ。
だが、俺の必殺技はこんなもんじゃない!
「これからが本領発揮だぜ! レッドドラゴンよ、覚悟しろ!!」
すると、竜殺しの大剣はくるりと向きを変え、再びレッドドラゴンへ突っ込んでいく。
大剣はまるで「俺に任せろ」とでも言わんばかりに、意思を持っているかのような動きを見せる。
「なるほど、自動追尾か!」
──そう、クラウディアの言うとおり。
俺はあの重い大剣に魔法をかけていた。
最初に《マナ・コントロール》で浮かべた時に、ひらめいたのだ。
それは、大剣に魔力を込め、投擲武器として使うアイデアだった。
《マナ・コントロール》で操作すれば、俺が汗水たらして動く必要はない。安全な場所から、ぬるっと討伐を見守るだけでいい。
──まさに、これぞ魔法使いの真骨頂。
《マナ・コントロール》さまさまだった。
ドラゴンは必死に避けていた。だが、自動追尾の大剣はそれを許さない。
しかも、こっちの魔力は無限ときている。ドラゴンの体力が尽きるのは、もはや時間の問題。
あとは、勝敗がつくのをただ待つだけ──
「まさか、レッドドラゴンを翻弄するとは……!?」
クラウディアは池の真ん中でびしょびしょになりながら、目を丸くして固まっていた。レッドドラゴンを追い詰める光景は、作戦を練った俺自身ですら壮観だった。
──よし、もう間もなくだな……。
レッドドラゴンの動きが鈍くなってきた。
苦し紛れに炎を吐く。
だが、竜殺しの大剣はそんなことをものともせず、レッドドラゴンを追い詰める。
そして、ついに!
──ズシャーーッ!!
鈍い音とともに、ドラゴンの首が宙を舞った。
ドーンと轟音を上げ、巨体が地面に崩れ落ちる。土煙が舞い上がり、辺りに木々を揺らす衝撃が響いた。
決着はあっけなくついた。
俺は落ちてきたドラゴンの頭を《マナ・コントロール》でキャッチした。そして高らかに掲げる。
「よっしゃ! 討伐完了!!」
「うおぉぉーーっ!」
戦いを見守っていた騎士団から、歓喜の声が轟いた。
その瞬間、俺の視界にステータス画面がピコンッと浮かび上がる。光に照らされ、レベルアップの瞬間を告げる数字と文字が踊った。
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【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】冒険者(Sランク魔法使い)
【Lv】7
【EXP】24022/48000
【HP】115/115
【MP】55/55
【攻撃力】14 【防御力】24
【敏捷】145 【魔力】52
【運】8
【スキル】自動回復Lv5
CT短縮Lv5
狂戦士の咆哮
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
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やったあぁぁぁーーッ! ついにレベル7に昇格だ!!
しかも、冒険者ランクも一気にSランクにアップ!
“竜殺し”の実績も解除され、お土産にレッドドラゴンの首まで持って帰れる。
これで、クエストの条件は全てクリア。
今回も計画通り、サクッと勝利。
完璧すぎて、俺のテンションはもう、天井を突き破りそうな勢いだった!




