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第19話 特別クエストはSランクへの近道!?

 ──ギルドに戻った瞬間、俺は眩しい光に包まれた。


 ……こ、これは光属性の魔法か? いや違う。犯人はギルドのお姉さんの、視界を奪うレベルの笑顔だ。


「エリクさぁ〜んっ♡」


 あまりのフレンドリー攻撃に、思わず一歩、後ずさる俺。


 なんだか、あざとさが限界突破している。……これは絶対に裏があるパターン。


 この笑顔、どう見ても“ヤバい契約を結ばせようとする営業スマイル”だ。


 どんな依頼なのかとワクワクしていたものの、経験上、こういう時のお姉さんは、だいたいロクでもない依頼を持ってくることを知っている。


「先ほどもお話しましたように、本日はエリクさん“だけ”に紹介する“特別クエスト”なんです! 成功すれば、なんとSランクへ昇格ですよ!」


 ……そんな上手い話、あるか?


 そもそも、なんで俺なんだ。いきなりSランクって、飛び級にもほどがある。Sランク級の依頼って、普通に考えて、命が10個あっても足りないやつだろ……?


 俺は、おそるおそる尋ねる。


「……で、その“特別クエスト”って、どんな内容なの?」


「はい! その依頼とは──!」


 お姉さんは一拍置くと、まるで重大発表するプレゼンターばりに両手を広げて、盛大にぶち上げた。


「──レッドドラゴンの討伐でぇーす!!」


 次の瞬間、ギルドの空気がピタッと凍りついた。俺の心にも、冷たい風がスーッと吹き抜ける。


 ……レッドドラゴン、だと?


 何かと思えば、またスケールだけ無駄にデカいの持ってきたな。


 っていうか、待て待て。


 レッドドラゴンって、炎ブレス一発で街ひとつ消し飛ばしちゃう強敵だろ!? これまでいろんなボスと戦ってきたが、さすがにこれは次元が違う。


 お姉さんはニッコリ。


 俺も……ニッコリ。


 どう見ても、引きつった俺の笑顔とは、種類が違う。


「この街から北東へ30キロ離れたところに“銀葉の湖”という場所があります。そこに、レッドドラゴンが出現したのです。エリクさんには、その討伐をお願いしたいんです」


 お姉さんは、地図で場所を示しながら、こちらの動揺など、ガン無視で話を進めてくる。


 だが、ちょっと待って欲しい。


 出現しただけで、いきなり討伐ってどうなんだ? せめて追い払うとか、交渉するとか、平和的ルートは検討しないのか?


 まあ、レッドドラゴン相手に話が通じるかは知らんけど。


「たしかに、性急に思われるかもしれません。ですが、被害が出る前に討伐するのが最善と判断されました」


 お姉さんは、ぐいぐいと距離を詰めてくる。完全に契約取るまで逃がさない気満々だ。


 それにしても、俺の不安は他にもあった。


 原作では、レッドドラゴンには魔法耐性があったはず。よりによって魔法使いの俺に、この依頼が回ってくる時点で、もうおかしい……。


「魔法耐性があることは存じています。ですが、それでもエリクさんにお願いしたいのです。エリクさんなら必ず成し遂げてくださいます!」


 まったく、無茶振りにもほどがある。


 ダンジョン挑戦の時は、帰還が遅れた俺を心配して抱きしめてくれたのに、今日はどうしてこうなんだ……?


 ──どうやら、お姉さんは何か隠しているようだ。


 この人が嘘をつけない性格ってことは、見ていればすぐにわかる。


 そんな怪しいお姉さんを、俺はじっとりとした目で見つめた。……沈黙すること、3秒、5秒、7秒……。お姉さんの額にうっすら汗が浮かんだ。


「あ、あのう……、エリクさんが言いたいことはわかっています……。私も、ちゃんとエリクさんの事情を理解しています……」


 ──なら何で、この話を俺に?


「実はこのクエストには“条件”がありまして……。ちょっと、そのまま、お待ちください……」


 お姉さんはそう言うと、そそくさとバックヤードに駆け込んだ。


 そして、間もなく戻ってきたお姉さんは、奥から大きくて重そうな荷物を、ずりずりと引きずってきた。


「レ、レッドドラゴンの討伐には……、これを、使ってもらいたくて……ッ!」


 お姉さんは息荒く、どすんとテーブルに乗せると、箱の蓋をガバッと開けて見せた。


 中には銀色に鈍く光る、巨大な刃が収まっている。


「……大剣?」


「はい。これは高名な鍛治職人が、十数年の歳月をかけ作り上げた、“竜殺しの大剣”です。アダマンタイト製で、ドラゴンの魔力を乱すとされ、その攻撃力は鱗すらも断ち切るとか」


 ──竜殺し……、つまり、ドラゴンスレイヤーか。


 大剣は途方もないデカさで、明らかに俺の身長の倍はありそうだ。12歳の小さな体で、まともに扱えるとは思えない。


「実は……”竜殺し”とは仮の名でして。その……まだ、ドラゴンを倒した実績はなくて……」


 お姉さんは気まずそうに肩をすくめる。


 ──なるほど、話が見えてきた。


 つまりこれを俺に使わせて、レッドドラゴンを討伐し、名実ともに“竜殺し”の称号を作らせる魂胆だな。


「それなら、俺じゃなくて、他に適任がいるのでは。魔法使いの俺じゃなく、剣士とか……」


「そうしたいのは山々ですが、ご存知の通り、このギルドは慢性的な冒険者不足でして……。それに、騎士団にドラゴンのことが知られると、この大剣を使う前に討伐されかねないんです……」


 ──なるほど、だから焦ってたのか。


「今、このクエストを頼めるのはエリクさんしかいないんです! それにエリクさん仕事が早いですし! だから、どうか……この貧乏ギルドを救ってくださいっ!」


 ──いや、そんな涙目でお願いされても、正直困る。


 相手は魔法耐性持ちのレッドドラゴン。


 魔法使いの俺とは、相性が最悪だ。


 しかも条件は、この巨大な大剣を使うこと……。


 筋力皆無の俺にとって、持ち上げるだけでも拷問レベル。たぶん振り回す前に、腰が砕ける。


 俺が返答を渋っていると、お姉さんは肩を落とし、しゅん……と本音をこぼした。


「……私だって、本当は無理なんて言いたくないんですよ……。ここだけの話、この依頼を推しているのは、他ならぬ当ギルドのオーナーでして……」


 もじもじと視線を泳がせるお姉さん。


「オーナーは、この大剣をギルドの客寄せの目玉にしたいらしくて。レッドドラゴン討伐と竜殺しの大剣──これで冒険者を呼び込んで、経営の安定化を図るつもりなんです……」


 ──なるほど、そういうことか。


 それなら、そうと先に言ってくれればいいのに。


 オーナーの命令じゃあ、お姉さんも大変だな。


 思えば、お姉さんにはこれまで何かと世話になってきたし、Sランク依頼の報酬も悪くない。それにレッドドラゴンを倒せば、レベルも一気に上がる。


 ギルドの経営が絡むとなれば、さすがに無下にはできない。


 俺はしばし天秤にかけたあと、依頼を受けることにした。


「──わかった。やるよ」


「えっ! あっ、ありがとうございます! ありがとうございます、エリクさん!!」


 お姉さんはその場でがばっと床に伏せ、両手をついて深々と頭を下げた。


 その姿は、何とも美しい土下寝だった。


 ──って、ちょっと、お姉さん何してるの!?


 ここ、ギルドのロビーだぞ!? いくらうれしくても、さすがにヤバいだろ……。


 俺は土下寝お姉さんにドン引きしながらも、竜殺しの大剣を手に取った。


 案の定、めちゃめちゃ重くて、簡単には持ち上がらない。


 しょうがないので《マナ・コントロール》で浮かせることに。


 ──いや〜、魔法使いで本当によかった……。


 すると、お姉さんは床に土下寝したまま口を開いた。


「あ、あのう……、それともう一つ条件が……」


 ──うわっ、ずるぅ!


 後出しで条件出すのかよ!


「レッドドラゴンを討伐できた際には、その首を持って帰ってきてもらいたいのです」


「首……?」


「はい。オーナーたっての希望で、ドラゴンの首を使ったハンティングトロフィーを、ギルドに飾りたいと申しております」


 ──はあ……。


 何だか、注文が多いな……。


 けど、まあいいや。


 ドラゴンの首くらい、マナで浮かせれば、大した手間じゃないだろう。


「わかったよ」


「ありがとうございますぅーー!!」


 土下寝のまま、額を擦りつけるお姉さん。


 何だか、流れで依頼を受けてしまった気するが……。


 ちと面倒なクエストだが、報酬はSランク。レッドドラゴンを倒せば、レベルも一気に7にアップできるはず。


 ──さて、この難題をどう攻略しようか。


 ふわりと浮かぶ“竜殺しの大剣”を見つめながら、俺は頭を捻る。


 すると、ある作戦がひらめいた。


「……これだ!」


 俺は思わずニヤリとする。


 この方法は、むしろ魔法使いだからこそ可能な攻略法だ。しかも、成功すれば俺の新たな必殺技になる可能性まで秘めている。


 頭の中では、すでにレッドドラゴン討伐のイメージが、映画のように展開していた。


 一気に勝機が見えた!


 俺は大剣を掲げ、気合を込める。


「よっしゃ! さっそく、レッドドラゴン退治と行こうか!」


 俺はその勢いのまま、スキル《風駆けの祝福》を発動すると、颯爽とギルドを飛び出し現場へ向かった。

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