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第18話 騎士団長と話してみた

 ──翌日。


 俺はいつものように、親方のもとで土木工事に励んでいた。


 今日は防壁の修理作業だ。仕事はもう慣れたもので、必殺《マナ・コントロール》で重い石材を軽々と運ぶ。


 そんな俺に、親方が小声で耳打ちしてきた。


「おい、エリク。お前……、何かやらかしたのか?」


 ……やらかす?


 思わず首をひねる俺。


 昨日はダンジョン探索でミノタウロスをやっつけただけだ。そのあとは久しぶりに飯を食って寝た、ただそれだけ。特に不審な点はないはず。


 まったく心当たりがない俺に、親方は顎で何かを指し示した。


「……ほら、あれだよ、あれ」


 振り返ると、馬に跨った武装騎士の姿が目に入った。


 堂々と馬上に構えているのは、昨日ダンジョンで出会った女騎士団長、クラウディアだった。


「騎士団がじきじきにお出ましとは……、お前、何やったんだよ?」


 親方は俺の肩をつつきながら、目を白黒させる。周りの作業仲間たちも、道具を持ったまま口をぽかんと開けて俺を見ていた。


 だが、色めき立つ周りとは対照的に、クラウディアはにっこりと口元をほころばせる。


 俺は作業仲間の好奇の視線を浴びながら、さっと作業を抜け出し、クラウディアのもとへ向かった。


「やあ、エリク君。肉体労働とは感心だな」


 白い歯をのぞかせ、爽やかに微笑むクラウディア。


 俺はカクッと首を突き出して、「うっす」と軽く返事をした。


「昨日も伝えたと思うが、君には聞きたいことがたくさんあるんだ。騎士団庁舎まで来てもらいたい」


 ……ああ、そのことか、と俺はようやく思い出す。


 クラウディアの口調は柔らかいが、その背後に漂う“騎士団長”のオーラは、俺に有無を言わせない。


 仕方なく、俺はクラウディアに手を引かれ、彼女の前にちょこんと跨った。馬の蹄が鳴り、俺たちはそのまま現場をあとにした。



 * * *



 騎士団庁舎は、街の中心部にそびえていた。


 塔の上には王国旗をたなびき、街のどこからでも目立つ建物だった。俺はその中の一角にある部屋へと案内された。


 そしてまさかの、俺とクラウディアのふたりきり。テーブルを挟んで、クラウディアと向かい合う。


 羨望の眼差しを向けるクラウディアは、まるで新種の生き物を観察しているみたいだ。


 ……俺は、そんなに珍しいのか?


 しばらく見つめ続けたあと、ようやくクラウディアが口を開いた。


「実は、エリク君のことを、少し調べさせてもらったんだ。どういう人物なのかを知りたくてね……。君はひと月ほど前に、この街に来たんだろう? 街では“よく働く冒険者”だと評判らしいね」


 どうやら、すでに俺の身辺調査は済んでいるようだ。


 恐るべし、騎士団の情報収集能力。


 クラウディアが俺に向ける興味の裏には、騎士団としての職務もちゃんとあるのだろう。


 その目の奥には、俺という存在を見極めようとする、確かな意志が宿っている。


「そんなに構えなくてもいい。別に君を疑っているわけじゃないんだ。ただ、エリク君がここに来るまでの経緯を知りたくてね。何か、事情があるのだろう?」


 ──事情……。


 そりゃあ、あるにはある。


 だが、それを簡単に口にできるほど、俺の身は安全じゃない。すべてを話したら、俺の立場が危うくなる恐れもある。


 今はまだ、クラウディアが信用できる相手かどうかもわからない。


 俺が黙り込んでいると、クラウディア意外な言葉を口にした。


「──実は今、辺境地アクシアに“黒い噂”が立っている。私も裏を取ろうと動いているところな。北方領イレーネの政情不安の件でね」


 イレーネと聞いて、俺はハッとする。


 北方領イレーネは、原作ではいずれゲネスの支配下に落ちる設定になっている。政情不安に乗じたゲネスの策謀だ。


 そしてそれを足がかりに、西方領オレオスに武装蜂起する。


 すべて、これから3年以内に起こる出来事だ。


「ダークベルクを名乗る君に、ぜひ聞きたいことがある。アクシアで、何か不穏な動きはなかったか……? 知っていることがあるなら教えてほしい」


 イレーネの政情不安に、アクシアが関与していると疑っているわけか。


 なるほど……、騎士団はそこまで情報を掴んでいたのか。


 しかも、ここまで腹を割って話してくるということは、クラウディアはもう、俺をただの冒険者とは見ていない。


“ダークベルク家に繋がる存在”だと、勘づいているのだろう。


 考えてみれば、これはチャンスかもしれない。


 もし、オレオスを味方にすることができれば、ゲネスの武装蜂起を回避することができるかもしれない。


 俺は“火あぶりエンド”こそ回避したが、ゲネスは依然として辺境伯の座にいる。


 魔物と戦い、武功を上げるさなかでも、その裏で何かを企んでいるのは間違いない。


 このまま放っておけば、いずれオレオスにも戦火が及ぶだろう。


 そうなれば、この街はどうなる……?


 ──やはり俺には、ゲネスを討ち倒さなきゃならない宿命がある。


 だからこそ、今、話すべきなのかもしれない。


 俺は悩んだ末に、クラウディアに打ち明けた。




 俺が先代辺境伯フィリップの息子、エリクであること。


 ゲネスの策略により奴隷にされたこと。


 必死に生き延び、魔法を使えるようになったこと。


 バカ息子を襲撃したことや、モンスターを狩り、ひたすらレベル上げしてきたこと。


 風の精霊シルフから祝福を受けたこと。


 執事のセルヴァを討ち倒し、オレオスに逃げ込んできたこと。


 ──つまり、すべてだ。


 その間、クラウディアは信じられないといった表情になったり、微妙に眉をひそめたり、身を乗り出して色めき立ったり。


 彼女はコロコロと表情を変えながら、真剣に耳を傾ける。


 俺がついうっかり「転生者」だと口にした時は、さすがに「は?」みたいな顔をされたけど。


 それでも俺は、包み隠さず話した。


 ゲネスの悪巧みも全部。


「……いや、これは……何と言えばいいのか。あまりにも信じがたいほど壮絶で、そして……波乱に満ちている……」


 ──まあ、そりゃそうだよな。


 そんなリアクションになるのも無理はない。


 だがクラウディアは、俺の話を必死に飲み込もうとしていた。


 そして、しばし沈黙したのち、そっと口を開いた。


「ありがとう、話してくれてうれしいよ。ただ一点、君が本物のエリク・ダークベルクかどうか、確たる証拠がないのも事実……。だが、君の話は信用に値すると、判断したよ」


 ──おお、マジか!


 信じてくれるのか!


 赤裸々に話したせいで、逆に嘘くさいって拒絶されるんじゃないかと、不安だったが。


「君がどれほどの思いを抱えてここまで来たのか……それを知れたことを、私は心からうれしく思う。そして、あの魔法習得の理由や、君が持つ特別なスキルのことも。それが、何よりの証拠と言っていいだろう……」


 ──クラウディア、お前は本当に、話のわかるヤツだな。


「もし、エリク君の言う通り、ゲネスが策謀を練っているとすれば、我々にも脅威となる。その線を追っていけば、イレーネの政情不安とも、繋がりが見えてくるかもしれない」


 クラウディアは立ち上がると、まっすぐ俺に歩み寄った。


「エリク君、私たちに、力を貸してくれないか」


 彼女が握手を求めてきた。


 ピンと張った手のひらから、熱いものが伝わってくる。


 ……何この展開。


 まるで映画のワンシーンじゃん。


 だが、俺もゲネスに好き勝手させておきたくなかった。奴に一泡吹かせないと気が済まない。


 それに、ちょうどオレオスの街も気に入ってきたところだ。


 俺は立ち上がり、クラウディアの差し出した手を握った。


 共に、ゲネスの策略を止め、未来を変えるために──その決意を確かめる、固い握手。


「よろしく、クラウディア」


「こちらこそ。よろしく、エリク君」


 ──こうして、俺とクラウディアの協力関係は、静かにはじまった。



 * * *



 それから、数日後のこと。


 街の大通りをぶらぶら歩いていると、背後から慌てた声が飛んできた。


「エリクさん! ちょっと待ってください、エリクさん!」


 振り向くと、声をかけてきたのはギルドのお姉さんだった。息を切らせて、こっちに駆け寄って来る。


「はぁっ、はぁっ……よかった、やっと見つけました……。ずっと探してたんですよ……」


 額に汗を光らせ、肩で息を整えている。


 そんなに急いで、いったい何事?


「実は、エリクさんに“特別クエスト”があるんです!」


 特別クエスト、だと……!?


 ──なんて甘美な響きだ!


「とってもお得な依頼ですよ。もし成功したら、Sランク冒険者になれるチャンスです!」


 にっこり笑うお姉さん。


 Dランクの俺が、間をすっとばしていきなりSランクに……!?


 あまりにもオイシすぎて、逆に怪しい気もする……。


 だが、夢のSランクが目の前にぶら下がっているのだ!


「──お姉さん、その話、詳しく!」


「はい!」


 お姉さんのキラキラした営業スマイルが、太陽よりまぶしかった。

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