表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/32

第17話 オレオス騎士団、現る

「私はオレオス領騎士団、団長。クラウディア・ハイスだ」


 中央に立つ彼女は、ひときわ威厳を放っていた。澄み切った声が辺りに響くと、ざわついていた空気がすっと静まり返る。


 キラッキラの鎧に身を包み、凛として立つその姿は、まさに“威光”そのもの。


 ぽかんとする俺をよそに、クラウディアは淡々と続ける。


「我々は、君の捜索依頼を受けてここに来た。ギルドから君が帰還していないと連絡があったのだ。期限を過ぎても戻らないのでね」


 ──捜索依頼? 期限?


 その言葉に、俺はハッとした。


 ……そういえば、ダンジョン挑戦には制限時間があるんだった。期限内に帰還して、ギルドに報告しなきゃいけないっていう大事なルール……。


 俺はそのことを──


 きれいさっぱり忘れていた!!


 ヤッベェー、これは大失敗だ……。これは絶対怒られるやつ。ギルドのお姉さん、絶対ブチ切れてるよな。


 完全にやらかした俺は、不安になってクラウディアに尋ねる。


「……俺がダンジョンに入ってから、何日経った?」


「今日で7日目だ」


「はっ!? 7日だって!? もうそんなに経ってるの!?」


 体感では2日くらいのつもりだったのに、まさか丸一週間とは!


 ダンジョンは地下深く、陽の光なんて一切届かない。昼も夜もわからない場所にずっといたせいで、俺の時間感覚はぐちゃぐちゃにバグっていたらしい。


「……まさかとは思うが、君は飲まず食わずでモンスター狩りを続けていたのか?」


「……まあ、そんな感じだけど」


 何でもないことのように答える俺に、怪訝な表情のクラウディア。


 でも、それは本当のことだ。


 喉が渇いた時に湧き水をすすったくらいで、まともに食事なんてしていない。


 それでも《自動回復》のおかげで、腹は減らなかった。


 ……いや、正確には、モンスター狩りに夢中になり過ぎて、食べること自体すっかり忘れていた、って感じだ。


 まあ、理由がどうあれ、ヤバいことには変わりはないが……。


「……我々はここに来るまで、モンスターに一度も遭遇しなかったのだが、まさか、君が全部倒したのか?」


 ──はっきりとしたことは言えないが、まあ、……たぶん、そう。 


 俺が小さく頷くと、クラウディアは目を丸くした。


「……まったく、驚かされる。私は君という人間に興味が湧いたよ。この件は後日、詳しく聞かせてもらう。だが今は、街に戻るのが先決だ。我々とともに帰還してほしい。いいね?」


 口調は穏やかだが、その奥に拒否を許さない威圧感があった。


 俺が逆らう理由はない。ちょうどレベルも6に上がったところだし、クエストの目的も達成済み。


 ここはおとなしく、役人の指示に従っておくのが正解だろう。


 ようやく話がまとまり、張りつめていた場の空気も少し和らいだ。


 俺は3人の騎士に囲まれ、ダンジョンの出口へと足を向ける。


 ──その時だ。


 まるで俺たちの油断を狙いすましたかのように、突然、ダンジョン全体が大きく揺れた。地の底から、不気味な震動が押し寄せる。


 ──ゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!!


「なっ……、何だこれはっ!?」


 壁がぐらりと歪み、天井から岩片がパラパラと雨のように降り注ぐ。


 クラウディアが即座に反応し、剣を構えた。


 すると、俺たちのすぐ近く、広間になっていたその中央あたりから、地中を引き裂くようにして巨大な黒い影が姿を現した。


 ……いやいや、何だこのド派手な登場は!?


「──魔物の襲撃か! 全員、警戒しろ! これは……大物だぞ!」


 クラウディアの声が響き渡り、一瞬で空気が張り詰める。


 その直感は、間違いなく的中していた。


 いや、それ以上か。


 地面を踏み砕きながら現れたのは──このダンジョンのボス、超大型のミノタウロスだった。


 ──ウォオオオオオォォォーーッ!!


 大地を揺るがすような咆哮が、ダンジョンの奥まで響き渡る。


 巨大な牛の頭には、鋭く伸びた2本のツノ。隆起した筋肉が鎧のように盛り上がり、握りしめた両刃斧がギラリと光を反射する。


斧を振りかぶるたび、「ビュオォンッ!」と空気が裂ける音がした。


 天井すれすれまである巨体は、人間なんて簡単に踏みつぶせるだろう。


 ──デカい、デカ過ぎるだろ……、マジで。


 その荒ぶる姿は、まさに“凶暴さ”そのものだった。


「エリク君、危ないから下がっていろ! ここは我々に任せるんだ!」


 その直後、巨斧が床を叩き割り、石片が弾丸のように飛び散った。衝撃波が足元を揺らす。


 騎士たちは紙一重でかわしながら、陣形を組んで応戦する。


 だが、どう見てもあのボスモンスター相手に勝てそうになかった。


 それでも、クラウディアたちは、俺を守るために必死に剣を振るい続ける。


 目の前で繰り広げられる戦闘は、まさに命懸け。


 一瞬たりとも気を抜けない。


 だが、こんな状況にも関わらず、不謹慎ながら、俺はあることをひらめいた。


 ──これ……、《バーサークモード》を試せるんじゃね?


 さっき手に入れたばかりの新スキル──《狂戦士の咆哮》。


 今こそ、その出番かもしれない。


 雑魚キャラ相手では発動しなかったけど、ミノタウロス相手なら、ワンチャンある……かもしれない。


 発動条件はHPを20%以下まで減らすこと。


 うまくコントロールできればいいが、失敗すれば……普通に死ぬ。

 

 ──だがしかし! こんなチャンス、二度と来ない!


 クラウディアには悪いが、俺の冒険心が止まらない。


 ──ここは、俺の好きにさせてもらう!


「俺は、狂戦士になりたぁぁぁーーいッ!!」


 気の狂ったの叫びと共に、俺は戦闘の真っ只中に飛び込んだ。


「何をしている! 下がれと言っただろう!」


 クラウディアの制止を振り切り、俺は巨大ミノタウロスの前に立ちはだかる。


 ──さあ、撃ってこい! さあ、早く! さあ!!


 完全に頭おかしい俺。


 だが──この狂気こそ、俺の力になるはずだ!


 ミノタウロスの視線が俺をとらえた。


 そして次の瞬間、振り上げた巨大な斧が、まるで大地ごと押し潰すかのように、俺に目がけ振り下ろされる。


 ──ズドーーンッ!!


 衝撃と共に、全身が眩い光に包まれ、体中に力が溢れ出した。


 ──キタキタキタキタァァァーーッ!!


 スキル《狂戦士の咆哮》、発動ッ!!


 まるで別人になったみたいだ。


 血が騒ぎ、全ステータスが跳ね上がる。


“狂戦士モード”完全体──最強すぎて笑えてくる。


 その効果は、たったの5秒。


 だが、それで十分だ。


 俺はすぐさま魔法をぶっ放す!


「いくぜ! これがバーサークモード、《マナ・キャノン》だーーッ!!」


 ──ズガァァァァァァァァァンーーッ!!


 轟音を響かせ、巨大な光の球が放たれた。


 それがミノタウロスの体にぶち当たると、一瞬にして貫いた。


 衝撃で怪物は宙を舞い、激しく壁に叩きつけられる。


 ──やっべ! これ、気持ちいいッ!!


 HPをミリ残したスキル発動。思えば危ない橋を渡ったが、もはや、そんなこと、どうでもよかった。


 全身を駆け巡る高揚感が、これが“正解”だと、叩きつけてくる。


《マナ・キャノン》──これは、ボスを一発で葬れる、本物の火力だった。


 あっけに取られる騎士団を尻目に、恍惚の表情の俺。


 半ば白目を剥き、頬も引きつっていて──自分でも分かる。これは、間違いなくアウトな顔だ。


 騎士団たちはドン引きしていたが、それでも、今回のダンジョン攻略は大収穫すぎた。


 もう、大、大、大満足すぎて、俺のテンションは爆上がりしていた!!



 * * *



 それからほどなく、俺は騎士団たちとともにギルドへ帰還した。建物の前には、多くの人だかりができていた。


 ギルドの職員や親方、そして仕事仲間や、この街の住人まで。 みんなの表情は硬く、張りつめている。


 ……まあ、怒るのも当然だよな。


 ダンジョン挑戦の期限を守らなかったのは、完全に俺の落ち度だ。


 憂鬱さを抱えつつ、お説教を覚悟する。


 ──が、次に起こったのは予想外の展開だった。


 駆け寄ってきたギルドのお姉さんが、ためらいもなく俺を抱きしめた。


「よかった……。無事に帰って来てくれて……」


 柔らかく、そして驚くほど温かい腕に包まれ、俺は一瞬、言葉を失う。


 ──え、ちょ、マジで!?


 まさか、ギルドのお姉さんから、こんな熱い抱擁を受けるとは……。


「本当に、心配していたんですよ……」


 ねぎらいの言葉に、安堵と温かさが、じんわりと染みこんでくる。


 いつの間にか、人だかりが俺を囲むように輪になっていた。どうやら街の人たちも、俺の帰りを待っていてくれたようだ。


「稼ぎ頭に死なれちゃ、困っちまうからな……」


 鼻をすすりながら、親方が呟く。


 ──別に、心配なんていらないのに……。


 こっちは、余裕でダンジョン攻略したんだが。俺としては、ちょっとしたレベル上げくらいの感覚なんだが。


 ──まあ、それでも悪い気はしないけど……。


 どうやら俺は、知らないうちに、この街の一員になっていたようだ。


 奴隷上がりの俺にも、帰りを心待にしてくれる人がいたなんて。


 久しぶりに、人の温かさを肌で感じた。


 自然と胸の奥が熱くなる。


 ……これが、安心ってやつか。


 そんな気持ちを噛みしめがら、俺の初クエストは、無事、終わりを迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ