第16話 潜入、ダンジョン探索!
──ダンジョンは森の奥深くにあった。
草木が鬱蒼と茂る場所で、入口はひっそりと口を開けている。
かつて太古の神を信仰する邪教徒たちが、秘密裏に儀式を行っていたという場所だ。ダンジョンの奥には生贄用の祭壇があるらしい……。
入口からは、不穏な空気がもわもわと溢れ出している。
──怪しさ満点。
だが、それがいい。
むしろ、これくらい怪しくないと、“冒険”って感じがしないだろう。モンスターがワンサカいてこそ、張り合いがあるってものだ。
ギルドのお姉さん情報によると、このダンジョンはしばらく放置されていたのだが、最近になって探窟家が新ルートを発見したことで、状況が一変したという。
以前に、討伐隊が中に入り、モンスターを一掃したらしいのだが、その新ルートから、またモンスターが湧きはじめたそうだ。
で、今回のクエストは、
──ダンジョン新ルートの探索と、モンスター討伐。
しかも、依頼を受けているのは俺ひとり。
つまり、独占状態なのだ!
いやあ、これはもう、レベル上げのために用意されたステージとしか思えない。せっかくだから、このチャンスでレベル6に昇格しておきたい。
というわけで、現状、俺のステータスはこんな感じ。
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【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】冒険者(Dランク魔法使い)
【Lv】5
【EXP】4301/12000
【HP】60/60
【MP】31/31
【攻撃力】10 【防御力】16
【敏捷】110 【魔力】28
【運】4
【スキル】自動回復Lv5
CT短縮Lv5
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
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……うん。改めて見ると、【敏捷】だけ数字がおかしい。他の能力は、まだまだ発展途上って感じだな。
で、問題の必要経験値だが……、
レベル6になるには、あと8000ポイント以上稼がなきゃならない。
……8000。
急にインフレが来たな、おい。
このレベルになると、必要経験値も跳ね上がるらしい。
とはいえ、今回もしっかり稼いでレベルアップさせてもらう。なんてったって、このダンジョンは、俺だけの狩場なのだ。
新ルートまでは、ギルドのお姉さんが用意してくれた地図を使う。
そこには『がんばってねっ♡』と添えられた手書き文字に、ゆるいイラストまで付いていた。
……お姉さん、これは反則だぞ。
こんなの見せられたら、やる気しか出ないじゃん。
──よ〜し、テンション、上がってきたぞ!
既知ルートだろうが新ルートだろうが、どこでだって俺の狩場に変わりはない。サクっと討伐して、経験値をがっぽりいただくとしよう!
俺は《マナ・コントロール》で作った光球を灯りがわりに、ダンジョンの暗闇へ飛び込んだ。
「よっしゃあぁ! 経験値、もらいに行くぞぉーー! うおぉおおおおーーッ!!」
奇声を上げながら走る俺。
自分でもヤバイやつだと思うけど、これでテンションが上がらないやつは冒険者じゃない!
だって俺は、誇り高き“経験値ハンター”なのだから!
──すると、ほどなくモンスター発見!
「おっ、ポイズン・スパイダーだ。マナ・バレット!!」
──ズドォンッ!!
「ギュイィィーッ!!」
「よし、次っ! ガーゴイル発見! マナ・マシンガン!!」
──ズドッドッドッドッドッドッ!
「グゲェェェーーッ!!」
「はい次っ! スライムの家族だ! マナ・ガトリング!!」
──キュウィーン……、ズバッバッバッバッバッバッバッバッッ!!
──ビシャッ!!
「……っっはぁぁ、気持ちいいぃぃぃ!!!」
俺はハイテンションでモンスターを狩りまくった。目につくもの、すべてに攻撃を加える。
この時の俺は、モンスターの目から見れば──まさに“鬼神”。
やがてモンスターたちは、俺の覇気にビビり、寄り付かなくなっていく。
──だが、俺は逃がさない。
隠れるモンスターたちを見つけ出し、容赦なく討伐した。戦意喪失したやつらも、有無を言わせず経験値に。
逃げ出そうものなら、《風駆けの祝福》で回り込み、正面からぶっ放す!
──そう、俺に“情け”なんてものは存在しない。
だって、俺にとってはモンスター = 経験値の塊。
もはや数字にしか見えないんだから。
「出てこい経験値ぃぃぃ!! 俺の糧になれぇぇぇ!! ヒヒヒィーーッ!!」
奇声を上げながら、ダンジョンの中を縦横無尽に駆け回る。
もはや、どっちがモンスターなのか、自分でもわからない。
それでも俺は止まらない。
時間の感覚なんて、とっくに吹き飛んでいた。
寝る間も惜しみ、狂ったように、ひたすらに狩り続ける。
──いったい、どれだけの時間がたったのだろう。
その時だった。
突然、視界の前にステータス画面が、ピコンッと立ち上がった。
───────────────
【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】冒険者(Dランク魔法使い)
【Lv】6
【EXP】12002/24000
【HP】85/85
【MP】42/42
【攻撃力】12 【防御力】20
【敏捷】125 【魔力】39
【運】5
【スキル】自動回復Lv5
CT短縮Lv5
狂戦士の咆哮
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
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「レベル6キタァァァァァーーッ!!」
しかも、新スキル《狂戦士の咆哮》までゲットだとぉ!?
そういえば、原作にもあったな。
たしかこのスキル、ダメージを喰らった時に自動発動して、5秒間だけ全ステータス値が10倍になるというトンデモ性能。
……つまり、俺の魔力は一瞬で390に!
ただし発動条件は、HPが20%まで減った時に一度だけ。
果たしてこれは、使えるのだろうか……。
何だかネタスキルの匂いがプンプンする。
狂ったようにモンスター狩りしてたら、“狂戦士”のスキルを授かるって……。
──冷静に考えると、けっこう恥ずかしい。
俺、魔法使いなんだけどな……。
とにかく、ものは試しだ。俺は、近くでブルブル震えていたゴブリンに声をかけた。
「なあ、ちょっと……。俺に攻撃してみてくれないか?」
自分でも、頭おかしいお願いだってのはわかってる。ゴブリンも「は?」って顔して固まっている。
だが、ダメージを受けないことには、はじまらない。
怯えるゴブリンは、混乱しながらも恐怖心から、俺の命令に従った。
剣を構えると、俺の肩口めがけて、勢いよく振り下ろした。
──ズシャッ!
が、俺には何の変化もなし。
──ん?
──スキル、発動してない!?
──あれ? 何でだろう……。
ケロッとする俺の姿を見て、ゴブリンは悲鳴を上げて逃げ出した。
……まあいいや。あいつは後でちゃんと討伐しよう。
どうやら、雑魚キャラ程度の攻撃では、HPを20%まで減らすことはできないようだ。
それ以前に、《自動回復》と《CT短縮》のせいで、一瞬で全快してしまう。
つまり──このスキルを発動させるには、もっと強力な一撃が必要ってこと。
だが、不用意に食らえば、死ぬ可能性も大……。
ゲームなら“緊急発動スキル”で便利だけど、現実だと、かなりリスキーな選択になる。
普通に考えて、瀕死前提ってどうなんだ……?
そもそも、そんな戦闘、避けるに決まってる。
──んー、難しい……。
だが、ちょっと試してみたい気持ちもある。
バーサーカーモードになれば、もっとド派手な魔法をぶっ放せるはずだ。
うわ、めっちゃロマンあるじゃん。
10倍となると、《マナ・バレット》の威力も10倍。大きさも10倍。どデカい光の球が、高速で飛んでいくのだ。
──死ぬ気でやれば、いけるのか……?
“安全を取るべきか”、“ロマンを取るべきか”。俺の頭の中では、天使と悪魔が白熱のバトルを繰り広げていた。
……くぅ、こんなに悩ましいスキルは初めてだ。
ひとり、脳内会議が白熱していると、突然、
「──おい、そこの君!」
いきなり、後ろから声が飛んできた。
──ダンジョンに人がいる!?
慌てて振り返ると、そこには全身を鎧で固めた騎士が3人。その先頭に立つのは、超・美人な女騎士だった。
「君が、エリク・ダークベルクだな」
何故か、俺の名前を知っていた。
──っていうか、どうしてこんな場所に騎士団が……!?
驚く俺の顔に、鋭い視線が突き刺さる。
いったい、俺に何の用だ……!?




