第15話 冒険者ギルドへ──初仕事受けてみた
──朝日が、やけにまぶしい……。
ああ……、今日も俺は、生きている。
異郷の地で迎えるはじめての朝だった。いつもより空が澄んで見えるのは、きっと気のせいじゃない。
火炙りエンドを回避した俺が、新たなステージでやり直す人生。
ここからが、俺の“第二の人生”のスタートだ。
辺境地アクシアから抜け出し、一晩かけて西方領オレオスへたどり着いた。
街に足を踏み入れた瞬間、俺は思わず立ち止まる。
アクシアとはまったくの別世界。
通りを行き交う人も、雰囲気もやけにのんびりしている。
たぶんゲネスみたいにな、イヤ〜な領主がいないせいだろう。
街の性格も、人々の表情も、空の色さえ違って見えた。俺には、このオレオスが小さな楽園のように思えた。
──よし、まずは冒険者ギルドだ。
冒険者として生きていくためには、冒険者登録が必要だ。
“奴隷ライフ”とは違い、もう経験値ばかり追いかけてはいられない。何をするにも、まず金だ。
「よし!」っと気合い十分で、ギルド扉を押し開ける。
──だが、その瞬間、俺は固まった。
「……あれ? ここ、ギルド……だよな?」
中に広がっていたのは、想像していた“冒険者の世界”とはまったくの別物だった。
マッチョな戦士や、凄腕剣士がひしめいている──そんな光景を期待していたが、実際に列を作っているのは、おっちゃんや、おばちゃん。さらには、野菜カゴを抱えた商人まで。
どう見ても、日曜市の受付カウンターです。本当にありがとうございました。
あまりの場違い感にムズムズしつつ、俺は申請書類を受け取り、コツコツと必要事項を記入した。
そして無言で、一般人の列に紛れ込む。
受付にいたのは、若いお姉さんだった。
パッと花が咲くような笑顔で見つめてくる。
──よし、出だしは好印象!
……と思ったのも束の間。
申請書類に目を通した受付のお姉さんが、「どっ……」と声を詰まらせてた。
原因はわかっている。
前職の欄に、正直に“奴隷”って書いたからだ。
別に隠す理由もないし、むしろ誠実アピールになると思ったんだが……。
「大変な思いをされてきたんですね……」
お姉さんに、切なそうな顔で気遣われてしまった。
いや、その……、けっこうエンジョイしていたんですよ、奴隷ライフ。
辛く悲しいことばかりじゃなくて、むしろ経験値とかスキルとか、実り多かったというか……。
だからそんな、そんな哀れむような目で見ないでくれ。
俺は気まずさを誤魔化すように登録料を払い、出来立てほやほやの冒険者カードを受け取った。
──そこには『Dランク』の文字が刻まれていた。
……ん〜、なんとも言えない気分だった。俺の実力なら、せめて『S』とは言わずとも、『A』くらいは書かれていてもいいはずだが……。
でもまあ、ここでの実績がないのだから仕方ない。地道にコツコツとやっていくしかないだろう。
とにかく、クエストをやりまくって、経験値とゴールドをガッツリ稼いでやろう!
だが、意気込む俺に、受付の姉さんは困った顔で眉を下げた。
「大変申し上げにくいのですが、現在、冒険者様にご紹介できるクエストがございません……」
……は? どういうこと?
詳しく聞くと、辺境地アクシアのモンスター討伐隊のおかげで、最近ではオレオス周辺の魔物出現数まで激減しているという。
その影響で、ギルドの仕事もガタ落ち。ベテラン冒険者たちは「稼ぎにならん」と軒並み他所へ移ってしまったそうだ。
……どおりで冒険者の姿が見当たらないわけだ。
いきなり出鼻を挫かれてしまった。依頼がすぐに舞い込むなんて、そんな甘い世界じゃなかった。
……まったく、ゲネスの奴め。せっかく異郷の地に来たってのに、どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ。
さらに、ムカつくのは、ゲネスの評判がやたら高いことだ。
受付のお姉さんなんて、ニコニコしながら「ゲネス様は武勇に優れたお方ですから〜」とか言い出すし。
いや、違うから! ここの人たちは、あいつがどれだけトンデモナイ悪党かってことを、知らないんだよ。
そこで俺は、受付のお姉さんに、軽くゲネスの悪行を吹き込んでおいた。
まあ、それはさておき、このままクエストゼロでは非常に困る。とにかく何でもいいから、ひとつでもクエストを、と俺は訴える。
すると、受付のお姉さんが、申し訳なさそうに、そっと一枚の依頼書を差し出してきた。
「冒険者クエストはありませんが、一般のご依頼はございます……。たとえば、こちらの橋の建設工事など……」
……それって、もう完全に職人仕事じゃん。
モンスターなんて出てこない、ただの肉体労働じゃん。
依頼内容は、老朽化した橋の架け替え作業。要は、その建築作業の労働者を募集しているだけだ。
……俺の初クエストが、まさかの労働者とは。
思わず天を仰いだが、暇を持て余すよりは全然マシか。選択肢がそれしかないのなら、仕方がない。
こうして俺は、その依頼を受けることにした。
──早速、現場へ急行。
そこには、かっぷくのいい親方が立っていた。
「おおっ、頼もしいやつが来たもんだ。あんた冒険者だろ? こんな仕事引受けていいのかい? あまり金にはならねえぜ」
奴隷生活を送ってきた俺にとって、どんな仕事でもやりがいはある。俺はもちろん快諾し、そのまま作業に取りかかった。
とはいえ、道具を持って、汗水流して働くつもりは毛頭ない。
だって俺には、魔法があるのだ。《マナ・コントロール》で物を自由に操れるのだ。
重い土砂や木材も、俺の魔法でふわりと宙に浮かべる。軽く手を動かすだけで、資材は勝手に運ばれ、並べられ、所定の位置にストンと収まっていく。
作業効率は文字通り桁違い。他の職人たちは、目を丸くする。
気づけば、半日も経たないうちに、立派な橋が完成していた。
「まったく、あんた、やってくれるぜ!」
親方は手を叩いて大喜び。
なるほど、奴隷生活で鍛えた“時短”感覚が、ここでも役に立つらしい。まあ、冒険者としての華々しい活躍とは程遠いが、初日としては十分すぎる成果だ。
その日以来、俺は親方のもとに居候することになった。
暖かい食事と寝床まで用意され、気づけば“冒険”とは真逆の安定生活。他の仕事仲間もいい人たちばかりで、俺はこの環境をすっかり気に入っていた。
現場が休みの日には、手持ち無沙汰になるのも嫌で、別の依頼を受けて小銭を稼いだ。
とある染め物職人からの依頼は、虹色の葉をもつ植物の採取だった。それは光に当たると色が変化する、最高級の染料の材料らしい。
俺はスキル《風駆けの祝福》を使って、山奥の滝までひとっ飛び。難なくお目当ての植物をゲットした。
さらに、配達の仕事も請け負った。こんなのは、俺にとってはおちゃのこさいさい。
【敏捷】100以上の俺は、秒で仕事を終わらせる。配達作業はマジで俺のスキルにばっちりハマるのだ。
それから得意の清掃業務も引き受けた。奴隷仕事で培ったノウハウをフル活用し、あっという間に作業完了。塵ひとつ残さず、ピッカピカだ。
──やっぱ、スピードが命。
これが俺流の仕事術だ。
「いやあ、エリクには助けられたわ! 次もよろしくね!」
「またエリクに頼むぜ。器用だし、仕事が早えからよ」
1日に2つ、3つと依頼をこなしているうちに、いつの間にか、向こうから仕事が舞い込むようになっていた。意外にも引っ張りだこで、逆に困るくらい。
普段の3倍は稼いで、気づけばちょっとした小金持ちに。ステータスを確認すると、着実に経験値も増えていた。
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【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】冒険者(Dランク魔法使い)
【Lv】5
【EXP】4034/12000
【HP】60/60
【MP】31/31
【攻撃力】10 【防御力】16
【敏捷】110 【魔力】28
【運】4
【スキル】自動回復Lv5
CT短縮Lv5
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
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ヤバい、俺、もしかして冒険者より“労働者”の方が向いてるんじゃ……?
それも満更でもなかった。便利屋エリクとしての毎日に、内心めちゃくちゃ満足していた。奴隷ではなく、普通の生活を送れることに。
そんな充実感に浸るうちに、月日は流れ、あっという間にひと月が経過した。すっかり職人仕事が板についてきた頃だった。
突然、ギルドのお姉さんから吉報が届いた。
「ダンジョン探索のご依頼があります!」
──やった!
ついに、俺にも冒険者クエストが舞い込んできた!
「日頃のエリク様のご活躍には、ギルド職員一同、感謝しております。こんな真面目に働く冒険者は珍しくて……。ほとんどの場合、途中で投げ出したりして、上手くいかないんですよ」
へえ、そうなのか。俺って珍しいタイプだったのか。
便利屋をやっているうちに、冒険者としての株も上がったようだ。
「ですので、このクエストはギルドから日頃の感謝を込めて、エリク様だけに特別斡旋させていただきました!」
おおっ、マジか!
真面目にコツコツやってきて、本当によかった。
お姉さんはニッコリ。俺はニンマリ。
ついに、俺のダンジョン初挑戦がやってくる。これでようやく、俺の冒険者人生がスタートだ。
俺は依頼を快諾した。
──冒険者エリク、本格始動します!
やっぱり、冒険はこうでなくっちゃな!




