第14話 原作ルート、まさかの回避!?
光をまとった《進化の石》は、まるで生き物のように脈打ち、呼吸するかのように明滅していた。指先にまでビリビリ伝わる魔力の波動──これが、スキルを強化できる伝説のレアアイテム。
俺は息を呑み、そっと手をかざした。瞬間、空気がピリッと震える。
目の前に、淡い光のパネルがスッと浮かび上がった。
1.新しいスキルを授かる(ランダム)。
2.所持しているスキルをひとつレベルアップする。
3.所持しているスキルをすべて捨てて、代わりにレアスキルを授かる。
──おおっ、出た! 原作とまったく同じ選択肢だ!
選択を誤ってはならない……。俺は腕を組み、パネルとにらめっこしながら、しばし考え込む。
まず1.の、ランダムに新スキルをひとつ、だが……。レベル1のスキルをもらっても、実戦で使えるかは怪しい気がする……。ぶっちゃけ、ゴミが出る可能性すらある。
2.なら、持っているスキルを強化できる。自動的に《CT短縮》が対象で、最大値レベル5が手に入る。……これは、俺にとって手堅い選択。
そして3.だが……。これは、あまりにもリスキーすぎる選択だ。今持っている《自動回復》と《CT短縮》を捨てたら、俺はただの“働き者奴隷”に逆戻り。
それを補って余りあるレアスキルが手に入るのか? ……いや、それはないに等しいだろう。残念ながら、今の俺は運が4しかない……。
──よし、ここは2だ。
堅実に行く。それが今の俺にはいちばん確実な道だ。
俺は迷いを断ち切り、決定する。
次の瞬間、《進化の石》が光が弾けるように強まった。その輝きが矢のような速度で一直線に、俺の体へと流れ込む。
──キタキタキタキタァァァーーッ!!
まるで地の底から、力がみなぎってくるようだった。体の芯が燃えるようで、全身が爆発しそうなほど熱い。
脳内でドンッと花火が打ち上がったかと思うと、視界が一瞬、真っ白に染まる。
そして、ゆっくり視界が晴れていくと、目の前にステータス画面がスッと浮かび上がった。
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【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】奴隷
【Lv】5
【EXP】4007/12000
【HP】60/60
【MP】31/31
【攻撃力】10 【防御力】16
【敏捷】110 【魔力】28
【運】4
【スキル】自動回復Lv5
CT短縮Lv5
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
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《CT短縮》が、レベル5到達! これで《自動回復》に並んでどちらも最大値だ。
つまり、実質クールタイムはゼロ同然。
まさに《マナ・バレット》の超・高速連写が、今、俺の手の中にある。
ヤバい、撃ちたい! 撃ちまくりたい……!
早く進化した《マナ・バレット》を、確かめたくてたまらなかった。想像するだけで胸の奥からワクワクがあふれ出し、ニヤけ顔が戻らない。
完全にひとりで盛り上がっていると、──その時、
背後で“何か”が、そっと気配を揺らした。
「小僧、ここで何をしている!」
古代遺跡の天井が崩れ落ちるんじゃないか、ってくらいの怒鳴り声だった。
慌てて振り返ると、そこに立っていたのは、あの性悪執事。
──なっ、何でセルヴァがここに!? 確か、ゲネスと一緒に前線基地へ向かったはず……。
「ゲネス様の感はよく当たる。貴様を監視しておいて正解だったようだ」
冷たい声が、古代遺跡の石壁にカツンと反響する。
俺はその言葉にハッとした。
Xから忠告されていたのを思い出した。ゲネスが俺に目を光らせているから気をつけろ、っていう話。
まさか本当に、監視されていたとは……。気持ち悪いことしやがって。ストーカーかよ、こいつは!
──まあ、バレてしまった以上は、仕方がねぇ。
“いい子ちゃん”演技は、ここで終了だ。
俺はいつもの甲斐甲斐しい態度をやめ、セルヴァを真っ直ぐ睨みつける。
「ふん、やっとお前の本性を見せたな。私の見立てどおり、貴様はもっと早く始末した方がよかった」
セルヴァは吐き捨てるように言うと、ため息混じりに戦闘態勢に入った。どうやら、ここで決着をつけるつもりらしい。
ならば、俺も全力で行かせてもらう。
散々鞭で引っ叩かれた恨み、ここで倍返ししてやろう。
「奴隷風情が、私に勝てる気か?」
「ふんっ! そんなイヤミとも、今日で卒業だな。二度とその口をきけないようにしてやる!」
俺は腕を前に突き出し、魔法を発動した。
「マナ・マシンガン!」
──ズドッドッドッドッドッドッ!!
弾幕シューティング、スタートだ! 無数のマナの弾が空気を裂き、セルヴァめがけて飛んでいく。
だが、着弾の瞬間──、
「ダークウォール!」
──カンッ、カンッ、カンッ、カンッ!!
黒い防壁が瞬時に展開し、《マナ・マシンガン》を弾き返す。
「ふんっ。どんな魔法かと思えば、この程度か」
セルヴァは余裕を見せる。
だが俺は止まらない。
マナ・マシンガンは、まだまだ絶賛連射中だ!
──ズドッドッドッドッドッドッ!!
──カンッ、カンッ、カンッ、カンッ!!
「なるほど……、《自動回復》というやつか。魔力量だけは、底なしというわけだな。では、これはどうだ!」
セルヴァは不敵な笑みを作った。そして、冷たい声で詠唱する。
「カース・ド・ペイン!」
──出たぁ! 呪い魔法だ! それも闇属性!
なるほど。お前ほど“闇”が似合う人間もいないよな。その黒スーツに、まさにピッタリじゃねえか。
黒い瘴気がまとわりつき、体に鈍い痛みが走る。
──だが、まったく問題なし!
《自動回復Lv5》と《CT短縮Lv5》のチートタッグをナメるなよ。
バチッとHPが削られても、はい、全回復! 痛みを感じるヒマもなく、一瞬で満タンまで回復する。
俺は笑い声を上げながら、マナ・マシンガンをぶっ放し続けた。
「き、効かぬだと……!?」
セルヴァの顔色がみるみる青ざめていく。口元が引きつり、目が少し揺れているのがわかった。
ようやく奴も気づいたらしい。
──俺と奴の間に横たわる、絶望的な戦力差に。
「き、貴様、どうやってそんな力を……!?」
「ふふっ……、これは、“奴隷生活”の賜物さ。お前に散々こき使われたおかげで身につけた、最強のスキルだ!」
セルヴァが悔し紛れに魔法を乱発する。
だが俺は、そのすべてを無効化する。
「こ、この忌々しい小僧め……!」
苛立ちを隠せないセルヴァを見て、俺は勝利を確信した。
「さあ、終わりにしようぜ、セルヴァ。これまで散々やってくれたお礼に、俺の“進化”を見せてやる!」
俺はリミッターを解除し、ありったけの魔力を叩き込む。
「これが俺の新技、《マナ・ガトリング》だ!!」
──キュウィーン……、ズバッバッバッバッバッバッバッバーーッ!!
圧倒的な物量で、セルヴァを叩き潰すように攻撃する。
怒涛の弾幕に、奴の防壁が悲鳴のような軋みを上げた。
「なっ、何だ……この攻撃は……!? この量、この速度……どうなってるんだ……!?」
──ズバッバッバッバッバッバッバッバーーッ!!
「くっ、くそうっ……、こんな、はずではぁぁぁ……ッ!!」
──ドッッッカァァァァァン!!
轟音とともに防壁が粉々に砕け散り、セルヴァの体が壁に叩きつけられる。そのまま床にずり落ちると、ピクリとも動かなくなった。
完全に、戦闘不能だ。
「──勝負あり、っと!」
実にあっけない勝利だった。
レベルでは俺を上回る相手だったが、やはり、勝敗を決めたのはやはりスキル構成だ。原作知識と【時短・効率化】を最大限活かせたのが、勝因だろう。
俺がセルヴァのもとに近づくと、まだ息があるのがわかった。白目を剥いて、情けない顔で気絶している。
さすがに、人間を殺すのは俺の趣味じゃない。だからそのまま、寝かせておくことにする。
──さて、これからどうするか……。
もう、屋敷には戻れない。
あの薄暗い物置小屋に、留まる理由もなくなった。
せっかく使用人たちと打ち解けてきたのに、会えないと思うと少し寂しい。でも、仕方がない。これも、俺の選んだ道なのだ。
Xとも、これでお別れだ。
俺はセルヴァの所持品を物色する。
ポケットから財布を取り出すと、中には金貨と銀貨がぎっしり詰まっていた。
ざっと見たところ、約5万ゴールドはありそうだ。これは戦利品として、ありがたく頂戴する。
──さあ、新しい土地へ旅立つか。
突然の決断だが、これも運命だったのだろう。
辺境地アクシアを抜け、西の地へ向かうとしよう。
──つまり、これで原作ルート回避ってことで。
俺の“火炙りの刑エンド”という未来は、今、この瞬間に塗り替えられた。ここからが、本当の冒険のはじまりだ。
俺は古代遺跡を飛び出し、西へと駆ける。
自由を求めて、ただひたすらに──
本当に風になった気分で、俺は新しいステージの幕を開いた。




