第12話 古代遺跡でレベル上げ
──自由。
この言葉の意味を、俺はぐっと噛み締めた。
何ものにも縛られない、思うままにできる、自由を──
ゲネスは屋敷を離れ、魔物討伐の前線基地へ向かった。あの性悪執事もゲネスに帯同して、ここにはいない。
そして、バカ息子は……、午前中のうちに軽く〆て、気持ちよく眠ってもらった。
──うむ、計画どおり。
今の俺は“完全な自由”を手にしていた。これは、三日間限定のご褒美タイム。
奴隷に落ちた身の俺にとっては、宝石よりも価値のある自由時間だった。
(エリク様、予想通り警備は手薄になっています。ですが、どうか油断なさらぬよう。ゲネスが何か仕掛けている可能性もございます)
「わかってるよ、X。心配はいらない」
Xから報告を受けていた。
どうやら、ゲネスが俺のレベルアップに気づいているようだと。
体はエリクでも、中身はまったくの別人だ。
Xもそこに違和感は覚えているようだが、俺が転生者だなんて説明したところで理解できるはずもない。
だから俺は、あくまで少年エリクとして生きていくだけだ。
もし、ゲネスが何かを企んでいるのなら、俺はむしろ、楽しみに待っておくことにする。
向こうがその気なら、俺はいつでも相手にしてやるつもりだ。あいつの顔面に《マナ・マシンガン》を叩き込む準備は、とっくにできている。
とにかく、今はレベルアップが最優先だ。ここで強くならなきゃ、何もはじまらない。
今日から3日間──ついに、俺の待ちに待ったクエスト挑戦がはじまる! 森のモンスター練習場とは訳が違う、本物の戦闘。本物の経験値だ!
稼ぎっぷりは、きっと段違いにいいはず。
このチャンスに、一気にドカンとレベルを上げておきたいところだ。
……ん? クエストっていうなら冒険者登録はしたのかって? そんな面倒くさいことしていない。だから報酬はいくら頑張ってもゼロのまま。……だが、それでまったく問題ない。
だって俺が欲しいのは金じゃない、“経験値”なのだ!
──さあ、出でよ、俺のステータス!
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【名前】エリク・ダークベルク
【種族】人間(転生者)
【年齢】12
【職業】奴隷
【Lv】4
【EXP】1054/4000
【HP】40/40
【MP】22/22
【攻撃力】8 【防御力】12
【敏捷】100 【魔力】19
【運】3
【スキル】自動回復Lv4
CT短縮Lv3
【魔法】無属性魔法マナバレット
【属性】風駆けの祝福
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……これが、今の俺の実力。
【レベル】は、たったの4。【職業】は、しがない奴隷だ、……って言いたいところだが、侮るなかれ。
《自動回復》と《CT短縮》のコンボで、《マナ・バレット》は高速連射可能になっている。そう、もはや《マナ・バレット》は《マナ・マシンガン》へと強化されているのだ。
さらに、風の精霊シルフの祝福で、【敏捷】は100。これで俺の動きは風そのもの。敵は一瞬で翻弄されて終わりだな。
基本攻撃力は低くても、スキルがそれを余裕でカバーしていた。この最小構成でこそ、【効果的】なレベル上げができる。
これが俺流、レベル上げの極意。
ここまでは準備運動みたいなもの──そして、ここからが本番だ。
この三日間で稼ぎたい経験値は、約3000! レベル5に上げるには、この数字を叩き出す必要がある。
以前の俺なら鼻血モノの数字だが、今の俺なら決して無理な目標じゃない。
何故なら、Xが俺にピッタリの、安全かつ効率的な狩場を探してくれていたからだ。
──その名も『月光の回廊』
数千年前、古代文明の人々が神聖な儀式と防衛のために築いたとされる古代遺跡だ。今では魔物の巣窟と化し、近隣の住民たちを怯えさせているという。
しかも、そこを牛耳っているボスは、かなりの大物モンスターだとか……。
挑む価値は十二分にある。
モンスターの出現数も期待できるし、経験値の伸びも、ドカンと跳ね上がる予感がする。
俺は迷うことなく、Xの提案に乗った。
(ここから西へ約40キロの地点に、その古代遺跡があります。山間に広がるその一帯は、かつて鉱山として栄えていたのですが、今は魔物が棲みつき、人の出入りはありません)
40キロといえば、フルマラソン並の距離だ。だが、そんなことは俺にとっては問題外!
なにせ俺には、《風駆けの祝福》があるのだ。このスキルを使えば、普通の人間なら半日かかる道のりも、ほぼ一瞬で駆け抜けられる。
(それと、エリク様にお渡ししたいものがございます)
そう言うと、Xは俺の頭の中にマップを仕込んでくれた。
意識を向けるだけで、古代遺跡までのルートをビシッと表示してくれる。山あり谷ありの難所だらけだけど、これで迷う理由はなくなった。
装備はいつもどおりでいく。ショートソードに、ズタ袋で作った即席マスク。正直マスクはつけなくてもいいのだが、なんとなく秘密行動っぽく見えるから、雰囲気でこれを装備する。
準備は万端整った。
俺は立ち上がり、深く息を吸い込んだ。
ここからが『最速レベルアップ計画』の最終ステージだ。
──さあ、行くぞ、俺!
「経験値よ、まとめてかかってこいってんだ!!」
ガコッと物置小屋の閂が外れ、バンッと扉が自動ドアのように開いた。俺は勢いよく飛び出して、屋敷の塀をひょいっと乗り越える。
そして、そのまま薄暗い夜の街中を突っ切った。
──スキル《風駆けの祝福》全開で!
「うおぉおおおおおーーーっ!!」
雄叫びとともに、俺は風と一体化した。
その速度たるや、もはや誰の目にも映らないレベルだ。まさか“奴隷”が走っているなんて考えもしないだろう。
脳内マップを頼りに、西へ西へと突き進む。街の明かりがビュンと後ろへ流れ、建物の影がババババッと追い抜かれていく。
盛大に土煙を上げながら、俺はバカみたいに速くひたすら走った。
そして……、
──はい、到着。
あっけなく古代遺跡に着いちゃった。
やはり【敏捷】100は桁違いだ。
「ここが『月光の回廊』か……」
目の前にそびえる建築物は、想像以上に巨大だった。辺りはしんと静まり返り、虫の声すらしなかった。
石造の外壁は月明かりを浴びて、ぼんやり青白く光っている。どこを見ても古びていたけど、どことなく、かつての威厳を残していた。
中へ足を踏み入れると、視界は一気に闇に沈んだ。
俺は《マナ・コントロール》で小さな光の球を作り、灯りがわりに浮かべた。
照らし出されたのは、高い天井、崩れかけた石柱、ところどころに残る古代文字や魔法陣。過去の文明の痕跡が、ここがただの廃墟ではないことを物語っていた。
土埃と湿った空気が漂う中、ゆっくりと奥へ進んでいった。
すると、突然、暗闇に赤い目がチカッと瞬いた。
──モンスターか!?
しかも、その瞬きは一つではなく、無数に光を放っている。
──コボルトの群れだな!
犬の頭をした、二足歩行の人型モンスター。単体の攻撃力は低いが、群れをなして襲ってくる厄介な相手だ。
手に小さな刀を持ち、武装も万全。スライムやワームとは比べものにならない、格上の敵だ。
「グルルルルゥ……」
カツ、カツ、と爪が石畳を叩く音が響く。その数、ざっと10体。
コボルトたちは唸り声を上げながら、じりじりと間合いを詰めてきた。やがて俺を中心に、円を描くように包囲を完成させる。
だが、これが俺の思惑どおりってやつだ。
モンスターの数が多ければ多いほど、経験値もザクザク手に入る。集団を相手にできるなら、こっちとしては願ったり叶ったり。
しかも、向こうからわざわざやって来てくれるのだ。そんな親切なモンスターたちへのお礼に、たっぷり稼がせてもらうとしよう。
──よーし! 全員まとめて経験値、回収だ!
俺は戦闘態勢に入る。
「いくぜ! マナ・マシンガン!!」




