第46話 ビールと枝豆
人が多すぎてちょと委縮するけど、俺には頼もしいシルバ&ノワルというボディガードがいる。その安心感から、団体行動でも思ったより気が楽だった。
本来なら主人であるディエゴを守らないといけないんだろうけど。その当人がかなり強いので、必要ないみたい。
俺はエンゲージメントしているとはいえ、保護の対象であり最弱だからね。
未だに何で俺が召喚獣扱いなのか判んないんだけど、出来ることをやればいいかと食事の支度をすることにした。
「チェリはこれ」
目にとてもいい。ブルーベリーを使ったデザートを渡す。(主食は別にある)
弓使いであるチェリッシュには、視力アップのために、アントシアニンが豊富なブルーベリーを使った食べ物を摂取して貰いたい。(でもちょっとビルベリーに似ていて、果肉の紫色がとても濃い)
この世界のブルーベリーは、ちょっと大振りなんだよね。【ぶどうの樹】のコテージ周辺に植えていたのを、丁度収穫時期だったのもあって、分けて貰ったのが大量にあるし。(しかしぶどうの樹はなかった)
「今度はなぁに?あ、マフィンだ!美味しそう!!」
同じ味だと飽きるので、毎回違ったデザートを用意する。本来ならばジャムで良いだろう。だがそこはちょっと拘りたい。
【ぶどうの樹】の奥さんに教わったお菓子のレシピによって、一時的に菓子作りに嵌ってしまったのもあるけど。暇な時に大量に様々な種類を作ってあるので、当分は安泰だ。(すでに菓子作りには飽きているので、その後はジャムだけになりそう)
「テオはこれ」
筋肉を作るのは、良質のたんぱく質である。
ひょろっとしているテオには、もっと強くなってもらわなければならない。俺を守るために。
「これって、鶏の照り焼きっすよね?!俺、これ好きなんすよ!スッゲェ美味くって!全然あきないんすよね~、あざっす!」
外国人に受けの良い照り焼きである。ただし、これは俺の錬金術によって生み出される(定期お特便で仕入れる)醤油が必須なので、門外不出のレシピである。
有難く食すが良い。そしてその後は、暇を持て余したディエゴとの共同研究により作り出された、クソ不味いプロテインが待っているが。
「アマンダおねーさんには、これ」
美容と健康に必要な、ビタミンCとコラーゲンを多く含んだ食事を取り出す。いつまでも若く美しくあれと願い、心を込めて作りました。(その方が機嫌が良いからでもある)
「まぁ、綺麗で美味しそうね!いつもありがとう」
カットフルーツの盛り合わせを、瓶詰にして見た目も美しく拘った。
そこにコラーゲン豊富な食材も付ける。鳥皮をパリパリに焼いて、新鮮なサラダに振りかけただけなんだけどね。見た目的には良いんじゃないかな?
栄養面に関しては、専門じゃないから割と適当なんだけど。概ね間違っていなければいいや精神で進めている。
こういった食べ物関連の栄養や成分が判る鑑定眼鏡とかないのかなぁ?
これは実験であるからして。
暇だったからってのもあるけど。メニューを考える際に、この世界の食材も、俺の世界と同じ栄養があるかどうかの実験をすることにした。
何が効果があるのか調べたいなと思って始めた、個別に考えた別メニュー実験だ。
今のところその効果が現れているのか、チェリッシュは視力が良くなったようで、矢の的中率がアップしているらしいし、テオは成長期でもあって引き締まった筋肉が出来て腹筋が割れ始めている。その内ギガンのようにバキバキになるが良い。
アマンダ姉さんは、益々その美貌に磨きがかかっているのか、光り輝いている―――という賛辞が、メンバー以外からあったそうだ。良かったね!
まぁ、毎日見てるとそこまで変化に気付かないもんだし。チェリッシュは若いからね。年齢と共に衰える肌艶の心配なんかまったくしていないから、アマンダ姉さんの悩みは判るまい。
「で?俺たちのは何だ?」
「そういえば、あの熟してないマメを収穫していたが、どうするつもりなんだ?」
野郎二人は、特に栄養面を気にしなくてもいいようなので、俺の気の向くままに、この世界にもある食材(たまに俺の持っている食材も使う)で罪深い実験に付き合って貰っている。
「これはねー。えだまめ」
私有地でもない街道から外れたところに、わっさわっさと何故か繁っていたのだ。
ノワルから面白いものが生えていると知らされて、シルバと共に駆けつけて発見したのがこの枝豆である。(ノワルにはご褒美にジャーキーをあげた)
大豆が完熟する前の若い状態を収穫し、枝豆として食すのが日本人の中では当たり前なのだが。意外にも最近まで諸外国では若い状態で食べられてはいなかった。
この世界も同じく、熟していない豆を収穫している俺を怪訝そうに見ていた。
スプリガンのメンバーは、また何かやってるな~ていう目で見てたけど。
「ゆでる。うまい」
「リオンがそう言うなら、そうなんだろうな?」
「茹でるだけか?」
「しおでゆでるだけ」
「う、うん……?」
ふっふっふ。驚くがいい。フランス人が知ってしまった、そしてイギリス人から賞賛された、この枝豆のシンプルながらも驚くべき美味さを!!
でもこの世界の枝豆がそこまで美味しいかは、実験しなきゃ判らないんだけどね。
なので早速、この二人には俺の実験台になって貰おう。
「できたー」
「本当に、塩で茹でただけなんだな……」
「これが、枝豆か?皮付きのまま食べるのか?」
調理方法に凝っているとかもなく、塩を加えたお湯で茹でられただけでしかない枝豆を、怪訝そうに見る二人。まぁね。皮のまま鍋にぶち込んでるから、奇妙に見えるのだろうことは、口にされなくとも判る。
一応、周りに見られないように三人で車座になっているので、何をしているかは判らないだろう。シルバやノワルも同じように、その巨体で俺たちを他人の目から隠してくれている。お礼にジャーキーをあげよう。
でも実際は、他の冒険者や商人さんも、テントの設営や食事の準備で他人を気にしてなんかいない。だが念には念を押しておく。
見られたくない理由は他にあるけれど。
「よいざまし、あるよー」
「ということは、出るのか? 出すのか?」
「ビールか。見られないよう、気を付けろ」
「こえにだしちゃ、だめ」
「わかった」
「了解した」
そうして取り出す、賞味期限のヤバイ(時間停止状態なので、最早心配する必要はないけど)ご贈答ビールを、こっそりタンブラーとゴブレットに入れて渡す。
俺は麦茶だけどね。夏はやっぱりビールもいいけど、冷たい麦茶だと思うのだ。
アルコールで頭がおかしくなるから、極力飲まないようにしているだけだが。
でもたまに飲みたくなるんだよなー。どうしよっかなー。う~ん。
さっき見た悪夢が思い起こされ、やっぱ止めることにした。
アイツのことは忘れよう。
「こうして、たべる」
俺の世界の枝豆に比べると、少しだけ大きいけど。見た目はまんま枝豆である。
手本のように、皮である鞘からぷちっと緑の豆を押し出して、パクッと一口。
「うまっ」
若い豆の甘みと、ちょっぴりの塩が良い塩梅となって、口の中に広がる。
間違いない。コレ、まんま枝豆だ。しかも甘みが強く、それをほんのわずかな塩味が更に盛り立てていた。
「そうやって食うんだな?」
「皮は食べずに、中身だけか」
「うん」
「よし、俺たちも食うか」
「そうだな」
そうして。俺の食べ方を見よう見まねして、ディエゴとギガンは枝豆をパクリと一口。
「!!」
「!?」
「おいしい?」
「うっ……う、うまい……。何だこれは?」
「えだまめ」
「ソイの完熟前だが、全然、味が違うな……」
「だよね」
英語で枝豆は【green soybeans】と呼ばれているけど、まんま緑の大豆って意味でしかない。以前は全く食されていなかったけど、枝豆の美味しい食べ方を知ってしまったのか、最近じゃスーパーに出回るようになったんだとか。
この世界でもそうなるといいねー。別に広めるつもりは毛ほどもないけど。
「じっけんは、せいこうかな?」
「成功だ」
「むしろ大成功じゃねぇか?」
「じゃぁ、おねーさんたちにもあげてくるー」
「そうした方が良いな」
「また怒られると困るからな……ったく。面倒な連中だぜ」
怒られるのはギガンとディエゴだけどね。
以前こそこそと俺の罪深い真夜中の実験に付き合ってくれていた二人が、夜中に抜けだしているのをアマンダ姉さんに見咎められて怒られたことがある。
怒られた理由は、子供の俺を夜中まで起こしているといった理由だったけど。
自主的に起きている俺としては、それは申し訳ないと思って、その言い訳として、料理の実験に付き合って貰っているという説明をした。
言い訳としての錬金術はとても便利である。
よって安心して食べられることが判ったら、他のメンバーにも提供するということにして許されたのである。
だって俺は家精霊らしいから。美味しいモノには目がないと思われているので、料理の研究自体に制限はされていないのだ。
まぁ、実際はその半分も提供してないんだけどね。
成功か失敗かは、俺たち共犯者の集いメンバーの判定で決めてるし。
希少な食材や、二度と手に入らないだろう物は提供できないので。
ただし、こそこそしてても見逃されるようになったのは良いことである。
「おねーさーん、せいこうしたから、たべてー」
そうして俺は、枝豆を他のメンバーに提供するべく持って行った。
ただしビールは無しである。これだけはちょっと拙いので、二人にも口止めしているし、エールだと言い逃れていた。
まぁ、護衛中だから、一杯だけなんだけど。
今回の枝豆は、他のメンバーにも良い栄養になると思うんだよね。
大豆はタンパク質が豊富だけど、枝豆はそれよりちょっと劣る。でもその分美容や健康に良い葉酸も多く含んでいて、ビタミンCもあるから(この世界ではどうか判らないけど)丁度いいと思われ。
全員に同じ物を食べて貰うこともあるけど、違う料理を提供することで、夫々の体質に見合った必要な栄養素があると言っておけば、罪深い共犯者の集いの良い目晦ましになるんだよねぇ。うはははは。




