第170話 稀有な存在
自分で勧めておいて効果が出る度に毎度ビックリするんだけど、パワーストーンと称して渡した石の効果は異常である。
「わかる! わかるぞ! そなたの気持ちが、わらわに伝わっておるぞ!」
「ピュイピュイピュイー!」
「そなたも以前よりもはっきりと、わらわの言葉が判るのだな!」
「ピュイーッ!」
なんかそんな気がする「かもしれない」程度の軽い気持ちで渡した『ブルームーンストーン』の効果は抜群だった。
でもこれ、シエラ王女様の思い込みや信じる力が強かったからではなかろうか?
「とりあえず、他の者で試してみるしかないな」
「そうだね」
検証数は多いに越したことはない。たまたまシエラ王女様とラールの絆が強かったからかもしれないし。
誰もがその効果の恩恵や実感が伴う訳じゃないかもしれないのだ。
「だが本当に気持ちが通じ合っておるのか?」
「たぶん……?」
「確かに、会話は成立してるな」
「だよね」
戻って来たにゃんリンガルの表示をディエゴと一緒に見たところ、ラールの鳴き声が翻訳されて、王女様がそれに的確に返しているのが判った。
適当に返事をしている訳じゃないみたいだね。
ということは、確実にブルームーンストーンの『思いを伝える』効果はあると実証されたとみていいのかな?
「だがブルームーンストーンとやらは、簡単に手に入る物ではなかろう? 俺様もあまり見たことのない石であることだけは判るぞ」
「俺も鉱物に詳しくはないが、ありふれた石ではないってことか?」
「う~ん、どうだろう?」
ダイヤモンドみたいにありふれていないのは確かだね。
それにここまで綺麗なブルームーンストーンとなると、中々お目にかからない気がするんだよな。
俺も偶然ここで発見して拾っただけで、よく考えてみれば他の鉱石のようにそこらで拾えるものではなかった気がする。
「カーバンクルに探させてみるか?」
「おねがいできる?」
「シエラを見れば、効果のほどが判るしな。カシムに対抗するには必要であろう」
「だよねー」
王女様陣営に行き渡るぐらいあれば良いんだけれど。そんなことを考えていると、ずっと黙っていたムスタファが口を開いた。
「あの、この石でしたら、研究所の地下を掘っている際にいくつか見かけましたが」
「え?」
「他の場所ではあまり見かけない石だと思っておりましたが、研究所の下を掘れば採掘可能かと思われます」
なんと。秘密基地の地下にブルームーンストーンがあるらしい。
そういや俺がブルームーンストーンを偶然拾った場所って、秘密基地を作っている時だった。そうかあそこの岩山の下に埋まってたのか。
というかカーバンクルは地下室も作ってたのかな? そっちの方が驚きである。
アラバマ研究所はどこまで行こうとしているのだろうか……。
「私も幾つか持っておりますし、検証されるのであればお渡し出来ます」
「流石だムスタファ、でかしたぞ!」
「お褒め頂き光栄でございます」
「早速シエラに高値で売りつけてやろう!」
「そうですね!」
「リオン、貴様も先程のムーンストーンは確り売るのだぞ!」
「へ?」
「希少性の高い鉱石ですので、無料で差し上げてはなりませんよ!」
「う、うん……?」
「あの女は、一度甘い顔をすると付け上がるからな」
「あ……はい」
アラバマ殿下とムスタファからは、タダではやらない強い意志を感じた。
俺はタダであげた気になってたんだけどね。
でもよくよく考えてみれば、確かにそういう線引きって必要だよな……。
俺やディエゴも殿下に協力しながら、契約もちゃんとさせられたし、ライセンス料も受け取らされている。
必要と思えば部下には与えるべきは惜しみなく与え、取引として貰うべきところでは確り貰うのがアラバマ殿下のスタンスなのだ。
正に実業家の鏡だよなぁ。こういう人がトップだと安心できるね。
殿下が確り手綱を握ってくれているからこそ、ちょっとネジの外れている魔道具職人のドワーフさんもお仕事ができる訳で。
「頼りになる存在だな……」
「そうだね……」
俺たちのような研究&実験バカは採算度外視でやらかすだけに、アラバマ殿下みたいな見識のあるモノの価値の判る上司はとっても必要な存在なのだ。
やり過ぎにはちゃんと注意してくれるしね。
なので心の中で拝んでおこう。ありがたやありがたや~。
「たまにこ奴が俺様を見て手を合わせておるのだが、どういう意味があるのだ?」
「感謝しているようですが、どうなんでしょうね?」
「……(マグカップの顔に似ているからでは? とは言えんな)」
◆
ということで、いくつか手に入れたブルームーンストーンを、候補生以外の竜騎士さんにも渡すことにした。
魔道具レベルのお値段設定にしたけど、第一王子に負けたくないシエラ王女様は言値で支払ってくれたよ! 太っ腹だね!
それによりシエラ王女様側の竜騎士は全員、自分の従魔と話ができるようになったのだが、ブルームーンストーンを持っていないと会話はできないことが判明した。
中でも驚いたのは、熱心に飛竜のお世話をしていた候補生の中から、どの飛竜とも会話可能な者が存在したことである。
ということで、その稀有な存在である人に会わせてもらうことにした。
「この者が、全ての飛竜と会話の出来る稀有な存在じゃ」
「ラクシュと申します」
紹介されたのは女性で、元は農家の娘さんだったそうだ。
物静かな感じで、細面の菩薩様のようである。
なんかこう、アラバマ殿下と並べて拝みたくなるような感じだな。
「ラクシュのような優れた者がおったことにわらわも驚いておるぞ! 候補生の中でも一番の古株じゃからかのう?」
「ふむ。全ての飛竜と会話が可能であるのに、何故毎回選ばれぬのだろうな?」
「……ワタクシは庶民ですので、仕方ありません」
でも庶民候補生の多いシエラ王女様の竜騎士隊だから、それだけが理由じゃないよね? もっと他に何か原因があると思うんだけれど。
それに竜騎士隊に所属している全ての飛竜と会話が可能な割には、そんなに嬉しそうじゃないんだよね。どこか怯えているようにも見えるし、表情が暗かった。
これは絶対何かあるぞ。
「それに、今回が最後ですから……。今回の感応で飛竜に選ばれなければ、実家へ戻ることになっております」
「成人して随分経つからのう。それもまた仕方のないことじゃ」
竜騎士となるべく候補生として幼い頃から働いてきた彼女だったが、後輩の候補生が増えたのもあって、今年を最後に候補生から外れることになっていた。
貴族と違って庶民は候補生になったからと言って、必ずしも竜騎士になれるとは限らない。一定の年齢に達すると、従魔を得られなければ実家に戻らされるそうだ。
実家から援助のない庶民の多くがそう言った理由で脱落していくのである。
彼女もそんな候補生の一人だった。
毎年行われる飛竜との感応とはいえ、卵の数は候補生に比べて多くはない。
与えられる機会は平等ではなく、常に貴族側に有利なものとなっていた。
それに伴い、庶民候補生の中で残った少ない仔竜との感応は争奪戦である。彼女のように控え目なタイプだと、自ら前に出ることはなかったのだろう。
だからなんだろうなぁ。気付きたくなくても気付いちゃうことってあるよね。
「やろうどもしゅーごー」
俺はディエゴとアラバマ殿下、そしてムスタファを呼んで円陣を組んだ。
「なんじゃ、わらわは除け者か?」
「うん」
「男同士の内緒話だ。シエラはそこで待っておれ」
察しの良いアラバマ殿下は、シエラ王女様をシッシと払い除けるような仕草をして距離を取るように指示した。
それにムッとするも、大人しく言う事を聞いているシエラ王女様である。お兄ちゃんの言う事を聞けて偉いねー。
そうして俺たちはシルバとノワルにガードしててねとお願いして、コソコソ話し合うことにした。
「……やはり貴様も気になったか」
「うん」
「秀でた能力がありながら、毎年感応出来ないのはおかしいからな」
「何事かあるのでしょうね」
おそらくラクシュさんは、候補生の間で苛めに遭っているのだろう。またはそれに近い扱いを受けていると見て間違いない。
殆どの飛竜と会話が可能というのは、熱心に語り掛け丁寧に世話をしている証でもあるが、それだけ他の候補生から世話を押し付けられているということでもある。
察しの良いムスタファや、勘の良いディエゴとアラバマ殿下も、多くを語らずとも俺が呼びつけた理由を読み取ってくれていた。
「シエラ側も一枚岩ではないからであろう」
「そうなんだ」
「貴族も似たようなものだ。階級が上の者が、下を良いように使うことはよくある。庶民の間でも同じことが起こっておるとみて間違いない」
「取り繕ってはいるが、美容品の配給も公平ではなさそうだからな」
「使わせて貰えていないのでしょう」
「だよね」
他の候補生はピカピカな肌になっていたけれど、ラクシュさんの手は荒れていた。
それに何処か疲れたようにやつれているんだよね。
「そこに気付かぬからシエラはダメなのだ」
「みすみす才能を埋もれさせているようだしな」
「全てに目が行き届かぬのは仕方がないとはいえ、今回は完全に職務怠慢だな」
シエラ王女様は竜騎士隊の隊長だけど、候補生の面倒まで見るのは難しいもんね。
だがしかし。今回は候補生全員に飛竜と感応させると意気込んでいたのだから、もう少し周りを見るべきだったかもしれない。仲間外れにされている人がいると思ってなかったのかもしれないけれど。
「どうする?」
「シエラに事情を話してどうにかさせるというのも一つの手ではあるが、単純なだけに下手なことを仕出かしそうで怖いぞ?」
「彼女自身それを望んでいないかもしれないしな……」
「むずかしいねー」
女性だから女性に任せたいところだが、シエラ王女様ってこの手の場の空気を読むと言った繊細さに欠けてそうだからね。「この者を虐めておる者よ出て来い!」とか言って、余計に事態を大きくしそうだ。
多分それはラクシュさんにとって居心地が悪くなるだけで、解決策ではない。
「では、こちらで面倒を見るというのはどうでしょうか?」
ムスタファが手を挙げて提案した。
それはラクシュさんに適当な理由を付けて、アラバマ研究所へ出向させるというものだった。
そして誰憚ることなく、心身共に完璧な状態に仕上げさせようというものである。
「今回が最後ということですし、出来れば彼女にも平等の機会を与えてあげたくはないですか? これは私の勘ですが、女王の卵はラクシュさんのような方が感応しそうな気がします。いえ、そうでなくてはなりません」
そうムスタファは言い切った。
従魔であるムスタファの勘であるだけに、何か妙な説得力があるね。
「なるほど。こちらに置いておくより、数日であれば俺様の研究所に連れてくる方が良いかもしれん」
「アマンダやチェリッシュに協力して貰えば、より磨かれることになるだろうしな」
「あの二人は美容に関しては、かなりの拘りがあるようだしな……」
「……うん」
ということでみんなの意見が一致して、ラクシュさんをアラバマ研究所にご招待することに決めた。
表向きの理由は、ラクシュさんに協力してもらい、ムーンストーンの効果を更に研究するためである。(既に効果は抜群なので調べるまでもないんだけどね)
そこでアマンダ姉さんやチェリッシュにお願いして、来たるべき孵化の儀式までにラクシュさんをピカピカにして貰おう。




