第159話 素晴らしい魔物
サヘールの砂漠地帯には様々な魔物が潜んでいて、中でもサボテンの魔物は頻繁に現れる。そして戦闘訓練中であるカーバンクルの邪魔になるサボテンの魔物を、今までボスたちバホメールが狩り続けてくれていた。
「ボスありがとー」
そうして渡されたサボテンの魔物を前に、どう料理しようか考え中だ。
料理をすることしかやることがなくなった俺は、シルバとノワルとボスにお願いして、様々な魔物を狩ってきてもらった。
中でもボスの好物であるサボテンの魔物はかなり使えそうである。見た目はウチワサボテンみたいなんだよね。
大きさ的には俺の身長よりある魔物で、棘のある茎は団扇ぐらいあった。
この茎の部分がどうやら食べられそうである。なのでまずは鑑定をして貰おう。
『大量に含まれている水分に鉄や亜鉛、カルシウムなども含んでおりますので、適量であれば食べても問題はないでしょう』
との鑑定結果が出たので、安心して料理に使うことにしよう。
だが何故かこのサボテンの魔物は、バホメールの好物であるが人間は食べていないようだった。
『恐らく魔物ではないサボテンの水分や果肉が苦く、食用に適していないからではないでしょうか?』
同じサボテンだから、人間は食べられないと思ったのかな?
俺の世界では食用のサボテンはあるし、昔から食べられているんだけどな。
空豆をバホメールが食べてなかったのと同じで、食べてみたことがなかっただけって感じだろう。
案外この世界の人間は、食べられる物を先入観で食べなかったりしているよね。
それと変な食べ方をしていることもある。しかも美味しさの追求が手緩い。
何故そこで止めた!? もっとあるだろう他に! ってなことが多いんだよ。
『マスターの世界でも、そこまで食に拘るのはマスターと同じ種族ぐらいではないですか?』
うん? なんか引っ掛かる言い方だな。だが、些細なことなのでスルーしよう。
確かに日本人が食いしん坊なのは否定しない。他にも食べ物があるのに、毒がある食材でも何とかして食べようとする根性は他の人種では見られないしね。
他国も食への拘りがあるのだろうが、日本人はそれ以上に食べ物に対する拘りが凄いというか、執念ともいえる食文化があった。
生肉や生魚は危険だから食べないようにしている国は多いけど、日本人はどうやれば生で食べれるかという方向に走る。食べないという選択肢はない。
生物を食べるのは野蛮だというが、寧ろ生で食べられるということはそれだけ衛生的であり文明が発達している証拠だ。(そして生まれる衛生観念)
とにかく様々な食材を美味しく頂きたいからこそ、あらゆる努力を惜しまないのが日本人なのである。
「まずは、ステーキ」
定番である。焼けば何でも食えるの法則に従い、サボテンの魔物をステーキにして食べてみることにした。
サボテンの茎(葉状茎)や果実が可食部位なので、棘の部分を削って味付けはシンプルに軽く塩をまぶして、ホットサンドメーカーに挟んで焼いてみた。
がしかし、フタをパカリと開けたところ。
「とけた……」
失敗である。加熱すると溶けるという結果が出た。
『加熱することで融解するようですね。これは予想外です』
ドロッとした緑色の液体になったんだけど。何だろうコレ?
いや待て。この液体はどこかで見た気がする。
『成分を鑑定したところ、活力剤となっていますね。園芸用に作られている液体肥料と同じ成分のようです。人が食しても特に害はなさそうですが、やはり植物用の肥料と考えた方がよろしいかと思います』
なんということでしょう。加熱することで溶けてしまったサボテンの魔物が、なんと液体肥料になってしまったらしい。
土に挿すだけで草花が活き活きするとかいう、園芸に使われる液体肥料と似たような成分に変化したとSiryiの鑑定で判明した。
どうりで見たことがあると思ったよ。
『塩を少量加えたことで、このようになったのではと推察いたします』
加熱しただけじゃダメだってことかな?
調理しようと塩を少量加えたことで、溶けたサボテンが液体肥料に変化したということなのだろう。これにコショウを加えたらどうなったのかな?
試しに塩と胡椒をまぶして再び過熱してみたところ、普通にサボテンのステーキが出来た。
ホイル焼きにもしてみたが、塩以外の調味料を加えると形を保っている。
「いみがわからない……」
とりあえずできたサボテンステーキやホイル焼きを食べたらエンドウ豆みたいな味がした。
これはこれで美味しいんだよね。甘みのあるグリーンピースって感じだ。
ボスに食べさせたらとても喜んでいたので、生で食べるより更に美味しくなったようで食いつきが良い。もしかして豆類が好きなのかな? 空豆の花も食べてたし、豆の部分も好みの味かもしれない。
いやでもこれ、塩だけ加えて加熱すると液体肥料になるんだよな?
たまたまかも知れないので、もう一度試しに塩だけ加えて加熱したらやはり液体になって肥料と化した。
さらに今度は金のほ〇にしを振りかければ、形を保ったままステーキになった。
そうして実験を何度か繰り返し、醤油をかけたりバターをかけたりしてサボテンを加熱したが、塩以外の調味料だと全部ステーキになったのである。(出来上がったステーキはボスやノワルとシルバと一緒に食べた)
焼くだけではなく煮たり油で揚げてみたりもした。
ただし煮るとエグくなる。食べられないことはないけれど、美味しくはない。
揚げてみたらそのまま油の中で溶けた。失敗である。
味付けをせずに調理したらどうだろうか? うむ。苦いアロエだこれは。
『肌の保湿や日焼け止め、そして美白効果もあり、更には火傷の治療効果がありますね。食べるより肌に直接塗った方が効果があります』
まんまアロエの効果だね。いやそれ以上の効果か。これはこれで成功かな?
素焼きにすればアロエのようになると。食べるより塗るのか。なるほど理解。
サボテンとアロエは似て非なる植物なんだけどな。まぁ、植物系の魔物だからそういうもんだろう。
食べられる魔物であることには違いないので、サラダ風に細く千切りにして食べてみたところ、俺の嫌いな納豆のような食感とパクチーみたいな香りが鼻を突いてきてダメだった。(好きな人もいるかもしれんが俺的には無理)
どうやらこのサボテンの魔物を美味しく食べるには焼くのが正解であるらしい。
そして塩を加えて焼くと何故か液体肥料になり、素焼きにすると薬のような効果があるという結果となった。
どういう原理か全然わからんが、普通の植物ではなく魔物だからね。こういうこともあるのかもしれないね。ということで納得するしかないだろう。
「まぁ、いっか」
『そうですね。痩せた土に栄養を与える肥料が出来たと思えばよろしいかと』
「だよねー」
『調理すれば美味しく頂けますし』
「それなー」
『肌の保湿や日焼け止め、そして美白効果もあり、火傷の治療薬にもなりますね』
「べんりだねー」
砂漠地帯にこの液体肥料を振りまくとどうなるか判んないけど。
サボテンの魔物はやたらと出てくるし、砂漠の害獣みたいなものだ。
でもこれが土地を肥えさせる栄養になるのなら、今までバホメールぐらいしか食べなかった魔物だけど、今後はかなり有用な存在になるのではなかろうか?
食べてよし、撒いてよし、塗ってよしという、素晴らしい魔物である。
「でんかー、ちょっといい~?」
ディエゴと仲良く(現実逃避中)ゴーレム作りに精を出しているアラバマ殿下へ、新たな発見をしたと報告をしに行くべく俺はテントから出た。
「塩をかけて焼いて食おうなどと、貴様はどういう思考をしておるのだ?」
サボテンの魔物を調理していたと言えば、呆れたように溜息を吐かれた。
その割にはサボテンのバター醤油ステーキを食べている。
他にも色々試したけど、その味付けが一番美味しいよね。
味は甘みのあるエンドウ豆そのままだし、そこにベーコンと温泉卵を加え、更にパンチェッタを振りかけて食べたらもっと美味しくなると思う。
まるでサイ〇リアの青豆の温サラダのように、病みつきになりそうな味だ。
子供の頃はグリンピースが嫌いだったけど、サイ〇リアで青豆の温サラダを騙されたと思って食べてみろと勧められて食べてみたら凄く美味しかったんだよな。安くて美味いとか最高だよね。
このサボテンの魔物は、シンプルに塩味だけにしたら液体肥料になっちゃうけど。
「しかし美味いな。何故今まで食べようと思わなかったのだろうか?」
「魔物だからですかね?」
「バホメールに退治させていたのもあるしな……」
そして倒したサボテンの魔物は、バホメールが美味しく頂くだけである。
調理をしようと考えることすらなかったようだ。
「調理をすれば食べられるし、液体肥料とかいうのにもなるのだな?」
「そうみたい」
「素焼きにすれば肌の改善効果や火傷の治療薬にもなるのか……」
「らしいよ」
試してないけど、Siryiの鑑定では成分的にそうなっている。
「まだ実験が必要な段階ですが、液体肥料は痩せた土に撒けば効果はあるかと」
「試す価値はあるということか……」
そうして暫く考えた後に、アラバマ殿下は砂漠化しかけている農耕地があるということで、そこで実験をしようと提案してきた。
「この国は魔晶石の輸出で豊かになっているとはいえ、食料の多くを輸入に頼っているのも、農耕地の砂漠化が進んでいるからなのだ」
過酷な環境でも育つ食物を栽培してはいても、農耕地の減少が問題なのだそうだ。
不足しがちな水は魔晶石によってどうにかなっても、土壌肥沃度の低下は止めることが出来ない。乾燥した砂漠地帯で起こる問題は様々だ。
「第一王子派は他国に攻め入って、肥沃な土地を奪えば問題は解決するなどとたわけたことを抜かしておるがな」
「ああ、それで魔動船を売るのを反対しているのですか」
「シエラを排除して、竜騎士隊を乗っ取る計画を企てておるのだろう。だがそうしたところでナベリウスの問題があるというのに、浅慮で短絡的すぎる」
アマル様は魔動船を他国に売ることで輸送コストを下げたいと考えていて、シエラ様はその為にナベリウスを手に入れて壁をなくしたい。でもそうすることで他国から攻められやすくなるのを危惧した第一王子派は反対しているのだろう。何故なら自分たちが攻め入りたいからだ。
魔動船の製造を独占して、竜騎士隊を掌握することで戦力の増強を図っているということだろうか? アラバマ殿下の言う通り、浅慮で短絡的だね。
「ナベリウスの件はいずれ考えねばならんとはいえ、戦争にでもなれば食糧不足の問題が発生する。魔晶石がなくてはならないエネルギー源とはいえ、所詮石であって食えるものではないからな」
しかも魔晶石は痩せて砂漠化していく土地を回復させるほどの力はない。
「それに魔晶石も、いつまでも採掘できる資源ではない。この国が魔晶石の輸出に頼っている状態ではその問題は解決せんのだ。それに戦争をして困るのは国民であることも忘れておる」
だからアラバマ殿下は農業を重要視している。食べられない石に魅力を感じないのはそのせいのようだ。
とはいえ、食料自給率の向上を目指していても、瘦せた土地を回復させる方法がなくて困っていたらしい。バホメールを休耕地に放ち、糞尿を肥料にして土壌の回復をしているが追いついていない状況だった。
サボテンの魔物を食べているバホメールの糞尿だから、そこそこ栄養のある肥料になってはいるのだろうけど。俺の予想では液体肥料の方がソレを上回る効果がありそうなんだよね。
当然殿下もそう思ったらしく。
「だがこの液体肥料がこれらの問題を解決してくれるのであれば、アホな連中の鼻を明かしてやれるだろう」
まずは食料不足問題の解決を先に終わらせてやろうと、農業を重要視するアラバマ殿下はサボテンステーキを食べながらニヤリと笑った。
尚、液体肥料を発見した俺へのご褒美に、アラバマ殿下はアマンダ姉さんに叱られることに内心怯えていた俺たちを擁護してくれると約束してくれた。
偶然発見しただけではあるけど、秘密任務を遂行していたのと、他の敵対勢力から狙われるのを阻止すべく、保護してくれていたという理由を付け加えてくれたのだ。
もちろんそんなことは全くなくて、好き勝手に遊んでいただけである。
それにディエゴと一緒になって現実逃避のようにゴーレム研究をしていた殿下は、俺たちが何故実験や研究に没頭するのか理解したのだそうだ。
そうだよね。気になったらついやっちゃうんだ。探求心や好奇心ってそういうものだし。楽しくて時が経つのも忘れちゃうんだよ。
人はそれを現実逃避というけれど。いずれ何かの役に立つと思えば無駄ではない。
こうして無事アラバマ殿下をやらかし仲間に引き入れることに成功した俺たちは、砂漠化しかけている農耕地の回復のために更なる研究と実験に没頭するのであった。




