第158話 戦闘訓練中
召喚士やテイマーは、魔力属性によって従魔に出来る魔獣が決まる。
バホメール、そしてカーバンクルも同じ土属性で、カーバンクルがゴーレムを召喚する事が出来るのも土属性だからなんだろうね。
「飛竜は風属性だからな。俺様にはテイムできぬのだ」
アラバマ殿下に、カーバンクルの多頭飼いができるだけの実力があるのなら、飛竜だってテイムできるのではないだろうか? という俺の質問に対し、苦笑気味にそう答えられた。
サヘールでは飛竜をテイムできれば竜騎士になれる。だから土より風の属性持ちの方が重宝されるのだそうだ。
俺にしてみれば土や水の方がサヘールの民には重要視すべき属性のような気がするんだけどね。
いや、その他の属性も全て重要だよな。どの属性が優秀とか不遇とかはなく、全てが生活に必要な属性だ。
サヘールでは飛竜が移動手段として有用であり、初代王がナベリウスを使役していた為に竜騎士が花形職なだけだろう。
その点を考えると、全属性持ちのディエゴは一人で完結してるよね。(完結はしているけど完璧ではない)
「初代の影響もあり、王族は代々風属性が王に選ばれる慣例でな。土属性はせいぜい畑でも耕していろという扱いだ」
「うう~ん……」
寧ろ安定している土属性の方が王様向きなんだけどな。アラバマ殿下を見ていると、どっしりしていて安心感があるし。(体形的なものではない)
人間は空を飛べないだけに、空を飛ぶ生き物に憧れる傾向にある。でも休める地上がなければ空が飛べても意味はないと思うんだけどね。結局生きとし生ける者は全て土に還るのだから。
「そのせいもあり、俺様が不満を抱えて反逆を企てていると思われているのだろうが、とんだ見当違いだな」
そんな力も支持者もいないのに、どういうことだとアラバマ殿下は不貞腐れたように鼻を鳴らした。
でも今やアラバマ殿下は超強力な従者や護衛を手に入れてしまっただけに、その誤解がどうなるか判らない状況である。
結局あれから、数匹のカーバンクルが仲間にして欲しそうに周りをうろちょろする攻撃に堪え切れず、従魔契約をしてしまったアラバマ殿下だった。
ざっと数えて十匹は居るかな? もしかしたら今後はもっと増えるかもしれない。
たまにちょろちょろ見かけるんだよね。消えたり現れたりするカーバンクルっぽいフェネックが……。
そのお陰で新たな従者を探す必要が無くなったのは良いけれど。幻獣とはいえ思考が獣であるので、人の世界を学ばせる必要があった。
リーダーであるムスタファを筆頭に現在訓練中であるカーバンクルだが、まずは戦闘能力を向上させるべく実戦経験を積んでいるところである。
問題はその訓練の指揮官がブランカってところなんだよな~。
「魔法使いの従魔だが、アレは規格外すぎんか?」
「そうだね……」
目の前ではブランカの作成したゴーレム一体に、カーバンクル部隊のゴーレム複数で悪戦苦闘中である。
辛うじてムスタファのゴーレムが良い線を行っているぐらいかな?
知能の高いムスタファの作成したゴーレムが、脳筋ブランカの作成したゴーレムに技を仕掛けるも、威力が足りないのかパンチ一発で粉々にされてしまった。
「力業だな」
「そうだね……」
俺たちは人気のない砂漠まで移動し、ブランカがムスタファ率いるカーバンクル部隊にゴーレムの召喚の仕方を指導している。
何せ全てのカーバンクルが強いゴーレムを召喚できるわけではない。
召喚と言うか、作成になるのかな?
ダンジョンの場合は召喚になるけど、そうではない場所だと自ら作成する。
カーバンクルにも能力差があるので、召喚したり作成できるゴーレムも様々だ。
ブランカは規格外というか、ボスだったこともあって強いゴーレムを召喚できる。ヒヒイロカネやミスリルをドロップするゴーレムの召喚が出来るのも、今のところブランカぐらいであった。
「砂で出来たゴーレムですら、あのように強いとはな……」
「そうだね……」
岩石や鉄で出来たゴーレムですら、コングになったブランカのパンチ一発で粉々に砕かれてしまう。当然作り出したゴーレムであってもその威力は比べるべくもない。もうあの子マジでヤバイんですけど。
主人であるディエゴが全属性持ちで規格外の魔力を持っているから制御できているようなモノなのだ。
「ブランカ。もう少し頭を使え。仲間内では強いかもしれんが、もっと強い魔物が相手ではそのような力業では対処できなくなるぞ」
「キキッ! キュウ~?」
はい! と良い子の返事でディエゴに応えるも、どうしたら良いの? と小首をかしげている。ブランカは脳筋(フィジカルお化け)だからね。判んないよね。
そしてディエゴもある意味脳筋(本能的に強い)なので、自分が出来るコト(混合魔法)だからと言って他の者が出来るコト(単一魔法)ではないので、指導者に向いていなかった。
ディエゴって無意識に魔法を掛け合わせるんだよね。属性が単一だと出来ない技が多すぎるんだよ!
「言っとくが、俺様は指導できんぞ」
ムスタファとその部下たちが、一斉にアラバマ殿下に振り向く。しかしそれに対し、殿下は思い切り首を振った。
こう見えてアラバマ殿下は平和主義なのだ。
土属性の魔法も農業に役立てることにしか使われていないので、戦闘に応用することがなかったらしい。(出来ない訳ではないが、物凄い魔力を消費する)
しかも土属性だからという理由で、騎士の訓練もさせて貰えなかったそうだ。
因みにわがままボディで筋力がなさそうなのだが、アラバマ殿下は力士のような所謂アンコ型で上半身の筋肉量が凄い。分厚い脂肪に覆われていて、筋肉のキレがないだけなんだよね。
脂肪を消費させるためのカロリー制限をしておらず、オーバーカロリーの摂取をしながら農業に精を出しているからこのような体型になったのだと推測される。
この世界の魔力って、筋肉がないと放出できないからさもありなん。
「うむ」
しょうがない。ここは俺の出番かな?
戦闘能力は低いけど、人間の体の仕組みやどこを責められれば弱いかは、最弱だからこそ理解している。
殿下を護衛するのなら、魔物ではなくまずは人間相手だろう。人型に擬態しているのなら、今後も対人戦は必須であるからして。格闘技的な知識があるのは、この中では俺だけなのだ。
「ついでだから、でんかにもおしえるねー」
「何をだ……?」
「アイキドー」
「なんだそれは??」
襲われた時の対処法であり、逃げる手段でもある。
だがそれだけではなく、精神も鍛えられるし、使い方によってはかなり威力のある攻撃にもなるんだよ。
関節を外しながら投げ飛ばしたり、受け身が取れないぐらい垂直に落したりと危険な技が幾つもある。俺自身は非力だから、倒すので精一杯だけどね。
ムスタファは主人である殿下同様賢いので、直ぐに理解してくれるだろう。
キョトンとしているみんなを前に立ち上がると、暴漢役にディエゴを呼んだ。
察しの良いディエゴは、無表情ながらも蒼褪めた。
ごめんねお兄ちゃん。
尊い犠牲になってくれるかな?
◆
砂の中から現れる無数のサンドヒューマン。それらが一斉に襲い掛かってくる。
それを見たムスタファが、部下に命じて号令をかけた。
「よし、行けっ!」
「「「はっ!」」」
目の前では砂の中から現れた人型のゴーレムが、人型になったカーバンクル部隊に容赦なく斃されていた。
人型の砂ゴーレムもバラエティに富んでいて、見たことのある姿形をしている。
アレは懐かしのGGGさんたちではなかろうか?
砂のクセに骨の折れる音とかするんですけど、細かい演出がこれまたエグイね。
「ズルイ……」
「こちらの方が訓練向きだろう?」
「そうだけどー」
予定ではディエゴを相手に俺がバッタバッタと技を仕掛ける予定だったのに。
「ただの砂だが、俺の知識で限りなく人間の体の仕組みを組み込めるからな」
「そうだけどー」
「誰も怪我をしないから良いのではないか? 元は砂であるし、ここは砂漠だ。材料は無限にあると言ってもよかろう?」
「そうだけどー」
アラバマ殿下までディエゴに加担している。
まぁ、自分に掛けられた技を痛感したらそうなるか。
二人とも賢いから直ぐに合気道の技の掛け方を覚えちゃったしな。
賢いから覚えたのもあるんだろうけど、早く覚えないといつまでもその痛みから逃れることが出来ないから必死だったのだろう。
これが本当の意味で、才能と努力の有効な使い方なんだろうけどね。
咄嗟にその技を繰り出せる訳ではないが、理解だけは完璧な二人だった。
くっそ。これだから頭の良い奴は、ちょっと教えただけで何でもできちゃうから嫌いなんだよ。もう少し苦労しろと言いたい。
ムスタファなんて、コングになったブランカの捻りのない攻撃をいとも簡単にいなしている。避け方や力の流し方さえ理解すれば、後は法則に従って技をかければ良いからなぁ。とはいえ頭で理解しても身体が付いて行かなきゃ意味はないんだけど、ムスタファはその点においては天才だった。
ムスタファってブランカに次ぐ実力の持ち主であると同時に、勇者で賢そうだったもんな。よって気合の入り方が違う。合気道なだけに。
賢くて強くなれと願ったけれど、ここまで賢く強くなるとは思わなかった。
単純でパワータイプ(脳筋)なブランカにとって、相手の力を利用して倒す合気道は相性が良くないのかもしれないけれど。(因みにブランカには合気道の精神は理解されなかった)ムスタファは合気道向きの才能があった。
元々臆病で逃げることに長けていたのもあるのだろう。流石の回避力である。
回避した後に攻撃を仕掛ける方法を学べばどうなるかという、理想のような進化を遂げていた。
カーバンクルの中でも異質なブランカは、攻撃力も高く回避するという考えがないせいもあり、ムスタファの口元に笑みが浮かんでいるのを見て、益々腹を立ててなりふり構わず攻撃を仕掛けて簡単に転がされてるもん。
流石ムスタファ。女の子相手にも容赦しない。そして鳴り響く地響き。
勝てると思えば元ボスであろうがお構いなしである。ブランカは煽り耐性ゼロだから挑発に簡単に乗せられていた。
こちらではディエゴの作り出したサンドヒューマン相手に人型カーバンクル部隊が攻撃を仕掛け、あちらではキングなコングと化したブランカ相手に、巨大化したムスタファが合気道の技を仕掛けて倒している。
なんだこの怪獣映画みたいな状況は。滅茶苦茶予想外なんですけど!
何故このようなことになったのか。
それはディエゴの「自分が痛い思いをしたくない」という、 自身が尊い犠牲になることを畏れその賢い頭をフル回転させたことから始まった。
折しもカーバンクルを従魔にしたことで、なんとディエゴはゴーレムを作る能力を手に入れたのである。なんだよそのチート能力。
「仕組みさえ解れば簡単だ」
「へぇ……」
「アラバマ殿下も、仕組みさえ解ればゴーレムを作り出せると思われます」
「そうなのか?」
「はい。カーバンクルの能力の一部ですので、主にもその術式が理解できますから」
「なるほどな。ならばやってみるか。農業に役立ちそうだしな」
あ~あ。アラバマ殿下がディエゴに毒されちゃってるよ。
いや本当は、二人とも俺にバッタバッタと倒されたことで自尊心が傷付いたのかもしれない。
そして傷付いたプライドを回復させるべく、人間でありながらゴーレムを作り出す新たな魔術を開発することにしたようだ。
とはいえカーバンクルを従魔にしないと、その魔術は発動しないらしいけどね。
いいよいいよ。
それなら俺は、子供の頃に遊んだ超合金でも取り出して、巨大ロボットになれとでも願ってやろうかな?
『マスター。それは洒落にならないので、お止めください』
「えー」
『流石に誤魔化せなくなりそうです』
「……たしかに」
Siryiに止められたので、俺はその案は取り消すことにした。
仕方がないので、訓練で疲れたみんなを労わるために何か料理でも作ろう。
この間アルミホイルの開発に成功したし、ホイル焼き料理でも作ろうかな~。
アルミホイルはサヘールならではの土(鉄礬土)によって安価で作り出すことが出来るし、何よりもチョコを包むのに最適なのである。
今まで瓶に詰めていたバターやチーズも、安価なアルミで包むことができるしね。
これなら少しでもコストを抑えられると、アラバマ殿下も呆れるのではなく感心して、そのうち商品として販売する運びになっていた。
現在魔道具職人のドワーフさんたちが、様々なアルミホイル製造の為の魔道具を鋭意作成中だ。
「ふたりともてつだってー」
背後ではドシンとか、ズシンとか、物騒な音がしているけれど。砂嵐のような砂塵はノワルの風魔法によってガードされ、熱砂によって上昇している気温はシルバの闇魔法によって俺の周りは快適な温度に保たれている。
二人ともブランカのせいで影が薄くなりがちだけど、さり気ない気遣いとその優秀さは忘れてないからね。
こうして。
戦闘訓練と新たな魔術の開発に没頭し始めた彼らをよそに、暇を持て余している俺とシルバ&ノワルは、待機場所であるテントへ向かってご飯の準備をすることにしたのであった。




