第150話 そして輝く
も~もたろさん、ももたろさ~ん、お腰に着けたキビ団子~一つ私に下さいな~という歌が思わず頭の中に流れた。
鬼退治について来るならあげると言う交換条件もヤバいけど、キビ団子一個でお供になるのもヤバイなと子供心に思ったものだ。
労働条件の厳しさが、そんな昔からあったなんて世知辛いね。
そんなことはともかくとして。
「そぉいっ!」
当初考えていた予定とは違う感じになっちゃったけど、俺はゴリラの幽霊を退散させるべく悪霊払いのパワーストーンを放り投げた。
オニキスは悪霊払いの石として悪縁を断ち、邪気を払って悪いエネルギーから守ってくれると言われている――――のだが。その効果が現れたのか、投げたオニキスが白いゴリラの幽霊へと吸い込まれたことで、ぼんやりしていた姿が形を成した。
「突然どうしたっ?!」
背後に向かって石を放り投げる俺に驚いて、みんなが振り返る。
そして目線の先に突如現れた白いゴリラ。というかキングなコング。
「――――ゴーレム?!」
「あ、みえるようになった?」
トンネルのような通路に、みっちりとその巨体が詰まっているのがやっとみんなに見えるようになったようだ。
「戦闘態勢を取れっ!」
慌ててディエゴがシルバとノワルに指示を飛ばす。
いざ戦闘へ! という状況になり、俺は邪魔にならないように退散しようとしたのだけれど。
「――――え?」
わぁお。身体がいきなり浮いて驚いた。じゃなくて、ゴリラに鷲摑みにされた。
なんという素早さ。流石のシルバも、そしてノワルも全く反応できなかった。
「り、リオン!?」
「ワォンッ!!」
「ギャウッ!」
みんなが驚いて常にない声を上げる。ノワルやシルバの大声ってあんまり聞かないから逆に新鮮だ。なんてことを考えている余裕は実はない。でも俺はみんなを安心させるように手を振ってみた。
「手を振っている場合か!?」
「ガウッ!!」
「ジャーキークレッ!」
みんなのツッコミが嬉しいような、嬉しくないような。そしてノワルは気が動転しているのか、俺にジャーキーを要求してきた。
人間は死の直前になると走馬灯が駆け巡るというけれど、あれって記憶の中から死を免れる方法がないか、必死に検索してるとかだったかな?
うむ。思い起こせばこの世界に迷い込んで、色々なことがあった。
ええっと、色々なことがあったと思うんだけど、実際はよく思い出せないや。殆ど遊んでるだけだったような気がするし。
『マスター、余裕ですね……』
いやいや余裕はないよ?
ただなんかこのコングが、俺にもっと石をくれって語り掛けてくるのが煩くて、思考が定まらないんだよね。
「ちょっとまって~」
攻撃を仕掛けるべきか否か悩んでいるディエゴに声をかける。
俺がまるで人質のようになっているせいで、身動きが取れなくなっているから仕方がない。ディエゴたちの攻撃によって、俺が傷付かないか迷ってたもんね。
「あげるからおろしてー」
コングに攻撃の意思はなく、単純に石を欲しがっているだけだ。
なので俺は、交渉すべくペチペチと掴んでいる手を叩いた。
コングはしばらく悩んだようだが、俺が拝むように手を合わせているのを見て、素直に降ろしてくれた。
「リオン、無事かっ!?」
「うん、だいじょーぶ」
単純に石が欲しいだけみたいだからと、駆け寄ってくるみんなに念波で説明した。
「カーバンクルなのか?」
「そうみたい」
まさかの巨大ゴリラというか、キングなコングである。
姿形が一定していないというが、まさかこんな姿だったとは思わなかった。
それはみんなも思っていたらしく、額にある赤い石を見て何となくコレがカーバンクルの正体であると納得してくれた。
「意外と、大人しいな……」
「ソウダネ」
今は大人しいだけで、俺から渡される石が尽きれば攻撃するかもしれない。
荒ぶってはいないけれど、気持ちを落ち着かせたり浄化させる石ってあったかな?
オニキスは邪気を払うし、それで今は落ち着いているのだろうし。もっと効果のありそうなパワーストーンを渡さなければ。
「ガーネットでいいかな?」
額の石に似ているし、気持ちを落ち着けるヒーリング効果もあったよね?
なのでコイツをあげよう。
「はいどーぞ」
取り出したガーネットが、コングの額の紅い石に吸い込まれていく。
ネガティブな感情を払って、強い浄化力があるとされるガーネットだ。コイツでお前のそのやたらと鉱石類に執着している感情を落ち着かせるがよい。
因みに愛情を深めたり、感情のコントロールを助けてくれる効果もあるよ。
スピリチュアルな成長も促進してくれるだろうので、人様に迷惑をかけるようなことを仕出かさないように祈りを込めておいた。
「なんだ……?」
「あれ?」
額にガーネットが吸い込まれたと思った途端、コングが赤金色に輝きだした。
「まぶしっ」
「くっ!」
強烈に光り輝くコングのせいで、思わず目がぁ~目がぁ~っとなった。
うわぁ~目がしょぼしょぼする。
邪気払いのオニキスの時には姿を現すだけだったのに、ガーネットを吸い込んだらそして輝くウルトラなライトになるなんて聞いてないよ!
だがやがて輝きが徐々に消えて行き、やっと目を開けられるようになった。
「……リオン、お前、何をしたんだ?」
「なにもしてないよー」
「では、アレは……なんだ?」
「うん?」
ディエゴが指さす方を見れば、そこには小さな白い子ザルが居た。
あれ? コングはどこ行った?
「カーバンクル……ではないのか?」
「う~ん?」
よく見れば額に赤い石がある。カーバンクルなのかな?
しかもコングじゃなくて子ザルだね。色は白いまま、三千里の旅のお供をしていた子ザルサイズになっていた。
うん。こっちの方が可愛いな。
「仲間になりたそうに見ているぞ」
「いやいや、むりむり」
っていうか、そういうのが判るの?
俺にはちっともわからないんだが。
「カーバンクルは、召喚獣の契約が出来るみたいなのだが……」
「へぇ?」
俺は召喚士でもなければテイマーでもないから判んないや。
ディエゴには伝わる何かがあるのだろうけれど。
「エンゲージしておくか?」
「なんで?」
「このまま付いて来そうだからな」
「え~……」
「面倒を起こさないよう、契約しておく必要がある」
「そういうもん?」
仲間になりたそうにしているというのは本当らしい。でもコイツ、シルバやノワルに比べて役に立たなさそうなのだが。
白い子ザルだったら可愛いかもとは思ったが、飼いたいと思っていたのは子供の頃のことで今はそんな気はない。世話が大変そうだからだ。
「せきにんとれる?」
「……ペット扱いなのか」
エサはきっと鉱石類だろうし、そんなお金のかかりそうなペットはいらないよ。
そんなことを思っていると、カーバンクルが額から何か妙な石を取り出し始めた。
「……おい、ヒヒイロカネを差し出してきたぞ」
「えー」
「あれは、ミスリルのようだが?」
「へー」
赤く光る額から、せっせとヒヒイロカネやミスリルらしきモノを取り出している。あの額の石って、収納庫みたいなものなのかな?
ガーネットもあの額に吸い込まれていたし、一時的に保管する器官なのかもしれないね。
「どうする?」
「すきにしていいよー」
召喚士でもなければテイマーでもない俺とは契約出来ないしね。
勝手についてこられても迷惑だけど、ちゃんとディエゴと契約を交わして従魔になるなら考えないでもない。面倒を見るのはディエゴなわけだし。
それにカーバンクルのエサは鉱石類ではなく、ただの趣味で集めて額に収納しているだけらしい。それを取り出して差し出してくるということは、鉱石類への執着が薄れているということだろうか?
「じゃぁ、とりあえず、契約しておくか……」
やれやれと言った風を装いつつ。
なんかワクワクしているのが丸判りですよお兄ちゃん。
珍獣(幻獣かもしれないが)であるカーバンクルと契約することを、実は楽しんでいるな?
あれ? もしかして俺も、ディエゴにとっては珍獣の部類とかじゃないよね?




