第143話 わっしょいわっしょい
みんなで楽しくピザパーティをした後は、お土産を貰って解散――――ではなく、アラバマ殿下をわっしょいわっしょいすることになった。
殿下は「心にもないことを言うな!」とお怒りになるところが、にゃんリンガルのせいで、従業員のみなさんが本音でわっしょいわっしょいしていることに気付いて顔を真っ赤にしていた。
怒りで赤くなっているのではなく、照れて真っ赤になってて可愛いね~。うひひ。
このタイミングでのにゃんリンガルの使い方は間違ってないぞ。自爆してるけど。
「おおお、俺様は、ボスや他のバホメールたちの様子を見てくる!」
恥ずか死ねるとしたら、こんな時かもしれない。
アラバマ殿下は慌てて従業員さんたちの賛辞から逃れるべく、適当な理由を付けてこの場から立ち去った。
「あのように仕事熱心であらせられるのに、誤解されているのが悔しいです」
「我々が仕事にありつけているのも、アラバマ殿下のお陰であるというのに」
「いや全く。この工場も、以前はとても粗末なものでしたが、アラバマ殿下が管理するようになって、このように快適になったのですよ」
「ほうほう」
「殿下のボスがバホメールの群れを纏めて下さってますからな」
「以前より品質管理もできるようになりまして、新しいチーズ作りも出来るようになりましたわよね」
「ふんふん」
「たくさん勉強されておるんでしょうなぁ。このブラウンチーズも、ホエイを捨てるには勿体ないと、アラバマ殿下が試行錯誤して、作るようになったのですよ」
「すごくおいしいよねー」
俺がヤギのホエイ(乳清)で作るプロテインはクソ不味いけど。
でもバホメールのホエイで作るとしたら、美味しくなるかもしれない。ココア味にする野望も捨てていないが。より美味しくなると思えばいいのだ。
そう言えば乳製品を加工する企業で、チョコレートも作ってたよな。美味しい乳製品を作っているイコール、美味しいチョコ製品も作っているという話を聞いたような気がするし。丁度良いから、後でアラバマ殿下にお願いしてみようかな?
空豆は煮ても焼いても硬いけど、粉状にすれば何とかなりそうだし。ソイプロテインにできないか研究してみよう。
ホエイプロテインはトレーニングのサポートとして、ソイプロテインは美容と健康のサポートとして、サヘールの新たな主力商品になるかもしれない。
「しかしながら、このように丁寧に作っているチーズとはいえ、諸外国で売るには高すぎるそうで。交易をされているアマル殿下と意見が合わないようでしてねぇ」
「もっと安価にしなければならないと申されましても、設備にも費用が掛かっておりますし、年々バホメールのテイマーも減っておりますしのう……」
「アラバマ殿下のボスのお陰で、群れを統率できておるだけですからな」
「ご兄弟との不仲と言う噂も、こういったすれ違いのせいなのでしょうねぇ」
「ああ、そういうことか……」
「あ~ね」
なんか読めて来たぞ。
アラバマ殿下が要注意人物にされているのがどうもおかしいなと思っていたけど、そういうことがあったからかと俺もディエゴもお互い理解してしまった。
両殿下とも国のために仕事をしているだけなのだろうけれど。
しかしアラバマ殿下はここで働く従業員さんや、今後仕事とするであろう未来の若者の為にも、安価で取引させる訳にはいかないんだ。
でも一方のアマル様にしてみれば、バホメールの絨毯に比べて乳製品は主力とするには弱いため、安価でなければ取引できないと思い込んでいる。何せこういった乳製品は、他の国でも手軽に作れるからね。
価値観の違いなのか、セールスの仕方やアプローチの悪さなのか。上手くかみ合ってないようだ。
「アラバマ殿下は、ああは申しておりましても、バホメールのテイマーとして誇りをもっていらっしゃいますからのう」
「飛竜のテイマーにはなれないと、陰で色々言われておりますがね」
「ご本人が何とも思っておられなくとも、周りが劣等感を抱くよう仕向けているようでございます」
「特にアラバマ殿下の侍従や臣下が酷いようで……」
「そうだな……」
「あ~ね」
こっちはこっちで、シエラ様と不仲になるような噂が流れている訳ね。
同じ王族とはいえ同腹ではないので、兄弟姉弟仲良くさせないように仕向けられているのかもしれない。
「全く、どうにかならないものでしょうかねぇ」
「ん?」
なんでみんな俺の方を見てるのかな?
別に何も企んではないよ?
「あのように素直になられているアラバマ殿下は初めてでして」
「どのような魔法をかけられたのでしょうかのう?」
「ほんに、あのように楽しそうな殿下を見るのは久しぶりですわねぇ」
ニコニコ笑っている従業員さんたちが、妙な圧をかけてくるんだが。俺にお願いされても何も出来ないぞ。
美味しいチーズや乳製品を使った商品サンプルをここで作らせてくれとは思っているけれど。兄弟や姉弟の仲を取り持ったりはできないからね?
ああでも、こんなに丁寧に作られている美味しい乳製品を安価で取引させるのは反対だけどさ。
「まぁ、価値が判っているという点では、リオンが適任だと思うがな」
「どういうこと?」
「今までと同じで、美味しい物を作ればいいだけだろう」
「うん?」
戸惑っていると、ぽんぽんと頭を撫でられる。ディエゴの言う通り、確かに美味しい物を作る予定ではあるけど。
「その内どうにかなるだろう」
「そう?」
「多分な」
「ふ~ん?」
面倒なコトは嫌いなので、俺は俺の道を征くだけだよ? そう念波で送れば、それはそれでいいとディエゴは頷いた。
厄介事に首を突っ込んで、藪からヘビが飛び出すなんて嫌だからね。
もし俺が正義に燃える主人公であれば、どうにかして兄弟仲を取り持つために奮闘するのかもしれないけれども。そういうのって大体余計にこじれるパターンだが。
戦うことを避け、逃げ道を極めている俺には無理な話だ。
誤解し合っていると言っても、意見の相違だから本人同士で話し合ってほしい。
中途半端に両者の事情を知ってはいても、所詮は部外者だからね。
兄弟のいない俺には特に苦手な分野なので。あ、いや、一応ディエゴとは兄弟設定だったっけ。それはともかくとして。
「取りあえず、商品サンプルを作ることからだな」
「そうだね」
「ドワーフへの手土産に、何かここで作りたいものがあるか?」
「うん」
「じゃぁ、それから始めるとしよう」
「うん」
お邪魔でなければここでチョコレートを作らせてほしいと、バホメールのミルクを使いたいことをアラバマ殿下に伝えよう。
照れて逃げてしまったが、お仕事熱心だからお願いすれば快諾してくれるよね?
先程までアラバマ殿下やアマル様たちの兄弟関係について話していたことで思い出したのだが。兄弟と言う設定である俺とディエゴだが、実の兄弟ではない。
そりゃそう言う設定だから当然だろうと思うが、話に食い違いが起こったりするので、祖父同士が兄弟で俺とディエゴは実際にははとこ設定である。
なんせ俺の爺さんとディエゴの爺さんで性格も設定も違うから、実の兄弟だと不具合が生じるからなんだよね。
まぁ、俺のうっかりイージーミスが連発するからだけど。
親戚ってことにしとけば、幼少期のお互い知らない話が出た際、突っ込まれた時に大変便利な言い訳になるからである。
「実の兄弟ではないのに、貴様らは仲が良いのだな……」
アラバマ殿下が「貴様らは実の兄弟だから仲が良いのか?」って言うものだから、そう言う設定だったなぁと改めて思い出したのもある。
先程恥ずか死ねるほどわっしょわっしょいされたせいなのか、にゃんリンガルを使うことなく俺たちと会話をしながら、アラバマ殿下は溜息を吐いた。
「魔法使いとアルケミストなのになぁ……」
いやそれ関係ある? 確かに片やアグレッシブあたおか集団で、片や引き籠り研究バカ集団だけれども。そう考えると仲違いとはいかないまでも、相容れない存在のような気がしないでもないが。
「趣味や目的が一致しているからかと」
「趣味や目的か……。目指す方向は同じでも、意見が食い違っておる俺様とは大違いだな」
例の交易関係の、乳製品の価格設定とかの話かな?
従業員さんにほんのり伝えられたけれど、アラバマ殿下から詳しく話をされてないのですっとぼけておこう。
「何とかバホメールのテイマーの地位を向上させたいのだが、なかなか難しくてな」
「そうなの?」
「こうして製品を作っておるが、外から安価な品物が流れてくるせいで、上手くいかないのだ」
「おいしいのにねー」
「そうなのだ。質を落とさぬためには、安価にしてはならんのだ。しかも、自国で作れなくなればどうなるか、判っとらん連中が多い。ナベリウスも盾であるが壁であると、今回のことでよく判ったであろうのにな」
「そうだよね」
今回の危機を一番実感したのって、実はアラバマ殿下ではないだろうか?
本人がそう仕向けた訳ではないのに、誤解されてるから要注意人物に仕立て上げられているってところだろうね。
俺は美味しくなぁ~れ、美味しくなぁ~れと唱えつつ、バホメールのミルクとチョコを混ぜながら相槌を打っていた。
うむ。やはりここはチョコレートで革命を起こすべきではなかろうか?
バホメールのミルクの価値をより高めるのに一役買うためにも!
俺の欲望のためにも! 美味しいは正義と知らしめよう!
付属としてアラバマ殿下の悩みも解消されたらいいな~。
そういやアマル様も大量のカカオを仕入れてたっけ。後で相談しに行こう。
そして、お互いの誤解もチョコのように溶けると良いのにと思った。
これは一刻も早く、ドワーフにチョコを製造する便利な魔道具を作成してもらわなければならないな。
だから俺はひたすらチョコレートを美味しく作るべく、ディエゴを馬車馬のようにこき使うのであった。




