第12話 エンゲージメント(冒険者視点)
シルバの陰に隠れてじっとしているリオンを見て、逃げ出す様子もないことにディエゴはホッとすると同時に心配になった。
なぜ自分が、子供の扱いなど出来そうにもないのに、不向きな役目を背負わされているのだろうか?と。
確かに己の従魔に懐いているとはいえ、ブラウニーを説得してここから連れ出すなどというミッションを熟せる気がしなかった。
どうするべきかと悩んでいると、リオンがふとこちらに気付き顔を向け、潤んだ瞳で見つめられて思わずたじろぐ。
「……腹でも痛いのか?」
情けないことに、そんな言葉しか出て来ない。
ディエゴに怯えている訳ではないようだが、何がそんなに悲しいのか判らなかった。
「シルバ……?」
どうしたんだと、まるで保護するようにリオンを抱え込んでいる従魔に声をかける。だが彼の従魔はフンと鼻息を一つ吐くと、リオンを宥めるように尻尾で包み込んだ。
「随分と、仲良くなった……のか?」
じっとこちらを見つめる己の従魔が、明確に何かを伝えようとしていた。
人の言葉を話せるわけではないが、従魔契約の関係上精神的なつながりがある為、簡単な意思の疎通は出来る。だからシルバの訴えかける眼差しと態度で、早くこの子供を保護しろと言っているのが判った。
そうしてはぁと深く溜息を吐くと、ディエゴは髪をかきあげた。
「気に入ったんだな?」
尋ねれば、シルバはこくりと一つ頷いた。
だが本当のところは、少し違っていたのだけれど。
もし従魔が人間のように言葉を話せたのなら。「美味い飯を作る人材を見つけたから確保しろ」と、自分の主に訴えたかもしれない。実際にそのつもりでリオンを抱え込んでいるのだが、若干のニュアンスの違いはあるにしろ、概ね合っているので訂正はしなかった。
「……くるか?」
手を差し伸べてディエゴが問い掛ける。それに小首を傾げながら、リオンは何とかこちらの言葉を理解しようとしているようだ。まだ子供で、人と関わってこなかった為に、言葉を理解できないのだろう。
だから急かすことなく、警戒させないように、ディエゴは口元に笑みを浮かべた。
そうして。根気強く待っていると、何度かディエゴの手と顔へ視線を行き来させ、やがてリオンはおずおずと手を差し伸べた。
「――――っ!?」
『うわっ!静電気?!』
互いの掌が触れた瞬間、パンと弾けるような光が互いの掌に走る。
リオンは慌てて手を放し、一方でディエゴは呆然と己の手を見つめた。
「まさか……っ、エンゲージメントした、のか?」
ディエゴの左手の薬指に『アニバーサリーリング』が浮かび上がる。聖なる誓いの証であり、召喚士が、魔物使い(テイマー)と決定的に違う、契約時に現れる聖痕だった。




