『神器』 第1回
遺跡が崩壊した。
五月中旬、三年前に風代大学裏手の山中に突如として出現し、街の人々の生活を一変させてしまった──少なくともそう信じられていた──”神”坐す所は跡形もなく消え去ってしまった。あたかも、何者かによる証拠隠滅のように。
鉛丹色の夕陽の光線に、土煙が黒々と映えて燃えているようだった。
地響きを上げ、山崩れを呑み込むかの如く内側に陥没していくそれを、僕は山頂付近に開けた平から見下ろしていた。遺跡を出るぎりぎりまで僕たちを追い駆けて来た地下水が渦を巻き、大地に飲み下されて行った。
あと三、四十秒遅ければ、僕たちはあの渦の中に巻き込まれていた。
助かったのだ、という安堵と、同時に体の奥底から突き上げてくる大きな情動──人智を超越した何かを目の当たりにした震え。膝が笑い、へたり込みそうになる足を、僕は体を屈めて両手で握り込む事によって何とか立たせ続けていた。息が荒く、動悸が止まらないのは恐らく走りすぎた為ではない。
その感情は、畏怖に近かった。それを自覚し、僕は自らに言い聞かせる。
踊らされるな、と。
「俺のせいかよ……?」
僕と一緒に脱出してきた若い男──といっても、先月大学二年生になったばかりの僕よりは年上だ──が、こちらは完全に土の上に膝と両手を突いて呟いた。
「俺のせいで、皆……皆……!」
「嵐山さん……」
生死の分からないディレクターやカメラマンたちの名前を譫言のように呟き続けるタレント、嵐山紅葉の傍らに僕は跪く。
額から汗が流れ落ちる感覚があり、自然に手の甲で拭ってから、それが血である事に気付いた。脱出の際、天井から降って来た岩石の欠片が眉間を浅く切ったのだ。
「怪我しているじゃないか、学生君。すぐに119番するから──」
「あ、待って下さい。それならこっちの方が手っ取り早いです。それに僕の事よりも、まずレスキューを呼ばないと」
僕は、携帯電話ではない別の端末を取り出す。HME、僕が生まれて間もない頃から風代市で行われている社会実験の一環として導入され、市内の殆どの人々が使用している小型通信装置。
その画面を点けた時、それを開いたままスリープ状態にしていたアルバムの画像が目に入った。
一時間程前に撮影したばかりの、地下迷宮の奥で発見された岩面彫刻。
それは文字のようであり、当然未知のもので読めるはずもなかったが、先輩の言っていた通り見れば見る程プログラムコードのようだった。
体が震え始める。嵐山紅葉が心配そうに声を掛けてくるが、その言葉も僕の耳には届かなかった。
(世界はプログラミングで動く……運命という、神の舞台進行で)
新興宗教紛いのあの団体のスローガンが脳裏を掠めた時、夏至にはまだ一ヶ月以上ある太陽が奥多摩山域の向こう側に見えなくなった。
* * *
翌々日──午前八時三十分。
一限目の講義を取っていないにも拘わらず、僕は早くに学生アパートの自室を出て登校した。早い時間ではあるが、恐らく先輩は既に部室に居るだろうと思い訪ねると、案の定彼は僕を待っていた。
「おはよう。……そしてご愁傷様、慈郎君。災難だったね」
部活動・サークルが成立する規定人数に達していないデータサイエンス部が、普段使用されない空き教室だからとして勝手に占拠している日当たりのいい部屋。閉じていないブラインドは遮光の役目を果たさず、窓の向こうに見える街並みに細くストライプ模様を刻んでいる。
中心部に近いここからは、市の中央に鎮座する巨大コンピュータ「テラス」がはっきりと見える。不時着した宇宙船の如く無骨に佇むそれを、一人の男子学生が古い刑事ドラマの真似をして人差し指で下げたブラインドの隙間から眺めていた。
僕と同じ情報工学科の三年生、君嶋至輝先輩。先端から半ば程までを金色に染めた、俗に言う「プリン頭」のおかっぱがトレードマークである。
「おはようございます。酷い目に遭いましたよ、全く」
先輩の口車に乗った結果、という意図を込めて言うと、彼は肩を竦めた。
「大した怪我はしなかったんだろう? それとも、昨日丸一日警察やら消防やらに説明しなきゃならなかった事が?」
「それもですけど、僕は死ぬところだったんですよ」
実際に死人が出ているし、と僕は内心で付け足す。
一昨日、件の崩壊した遺跡には全国放送のテレビ局がロケにやって来ていた。三年前に遺跡が発見された時も大騒ぎになり、多くの人々が現地を訪れたが、最近になって調査隊により奥深くで新発見があり同様の動きが再燃し始めている。
風代市の治安が乱れ始め、一年、二年と経過するうちに、人々は巷に流布している陰謀論も”神”騒動も発端が遺跡であった事などすっかり忘れ去ったかのようだった。テラスによるハイパースマート型社会の都市構想試験が開始されてから十余年、一度も狂いを見せた事のない電子機器が今になって不調を訴え始めた事も、それが時にあらゆる機器の性能を過信していた人々を致命的な事故に巻き込む事も、おかしな新興宗教団体が勃興して青少年の間に悪徳商法が横行している事も、一切は”神”のせい。”神”は今テラスに居て、叩き出すか和解するか、或いはテラスをシャットダウンするかしない限り平穏は戻らない──。
と、いうのは一部の者たちが勝手に騒いでいるだけの事であり、その騒ぎを馬鹿馬鹿しいと苦い気持ちを抱えている人々もまた、事の発端や”神”云々という事について遺跡の存在を切り離して考えるようになっていた。否、最早騒ぎの最中に居る多くの人々は、事の発端など振り返る事すらしなくなっている。
観光名所として一般開放される事となった遺跡について、先月の新発見を受けて考古学の専門家は再びの閉鎖を主張した。一般人の立ち入りにより、貴重な研究サンプルが台なしにされてしまう可能性を憂慮しての措置だ。しかし、一度観光資源としての性格を持ってしまった場所を閉鎖するには、諸々の検討やら関係各所との交渉やら、僕たちでは想像がつかないような手間が掛かるらしい。
そうこうしているうちに、市外からは是非とも”新発見”を逸早く独自調査してスクープの種にしようというマスコミが多く集まって来た。学術的な”新発見”は日々世界中でされているが、今回は場所が場所だ。
東京郊外、日本の近い将来を担う社会実験の舞台である風代。国内で唯一の限りなく完成形に近い近未来都市にして、昨年統計上の指数治安が過去最悪の数値を算出してしまった都市。そして、超常現象としか思われない遺跡の出現というニュースで近年騒がれたばかりの場所。
福寿テレビのバラエティ番組「バズリーチ」で、レギュラー出演者である嵐山紅葉を始め考古学と情報工学の専門家を含む多くの人員がロケを行う事は、一応ネットで告知されてはいたらしい。僕も君嶋先輩もそれを知らなかった──先輩がどうだったのかは実際のところよく分からないが、少なくとも僕には教えてくれなかった──だけで、この事について僕が彼らに恨み言を言う訳には行かない。
嵐山紅葉と共に、というより腰砕けになる彼を僕が半ば引っ張るようにして崩壊する遺跡を脱出した後、僕は警察の事情聴取に対して事の顛末を飽きる程喋らされた。僕以外に唯一脱出出来た彼が、レスキュー隊の到着と共に精神的なダメージで倒れてしまったのだから仕方のない事ではあった。とはいえ彼からすれば、顔馴染みの者たちが目の前で生き埋めとなったのだから無理もないだろう。
「──で、もううんざりする程人に説明した慈郎君だけど、申し訳ないが俺にもちゃんと一から聞かせてくれないかな?」
君嶋先輩は窓辺から教卓の椅子に座り直すと、机上のノートPCをくるりと回転させて僕の方に向けた。僕が入って来るまで読んでいたらしいニュースサイトの『陸自 警備ドローン「パラポネラ」運用開始』というウィンドウを閉じ、機械学習アプリの画面が見えるようにする。
「君が頑張っている間、俺もだらだらしていた訳じゃない。昨日やっと、解析用のプラットフォームが完成したんだ。Goggleでサポートされている言語は八割方登録済み、語彙数はそれぞれの言語で平均六十万。最新版PaLM──LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)──のAPIを自腹で買った」
「買ったんですか、結局……?」
「やるからには本気でやるよ、俺も? 君の”本気”は本物だと見たから」
「それじゃあ、代金は僕が払います。先輩がお祖父様に会わせてくれないから、僕はこうして自分で調査するしかない。先輩は、僕の諦めが悪いからそれに付き合ってくれているだけでしょう」
「いやいや、だから俺は”本気”と言ったんだよ。いずれにせよ君は、その予測が正しいのかを確かめる為に俺の祖父ちゃん、香宗我部剛典博士に会わなければならない。最初から博士に会って、そうなのかと問い詰めれば彼も吐くかもしれない。けれど、吐かないかもしれない。何より解答だけをぽんと手渡されて、慈郎君は満足かい? 俺はそれじゃあ納得行かない」
「先輩は」
僕は、一年間の付き合いの中で彼のこういった態度を腹立たしいとは思わなくなっていた。慣れというより、諦念に近い。
「知的探求者ですか? それとも、倒さなきゃ先に進めないロードブロックのつもりで居るんですか?」
「どっちもかなあ。君も、俺に対しては一人二役だと思った方がいい。祖父ちゃんへの道を阻む攻略対象と、困った時に頼るべき先輩と。俺自身、祖父ちゃんが知っている事を同じように知っている訳じゃない。慈郎君と同じ事を知りたくて、こっちから君の調査に協力しているってところもある。いけ好かない神曲ゼミナールの連中から、大義名分を奪ってやりたい気持ちも」
そういえば、と先輩は付け加えた。
「君が巻き込まれた事故の件で、また神曲ゼミナールが騒ぎ出すよ」
「神曲ゼミナールの中身を知らない人が、言わないで下さい」
「元がどうなのかは知らないけど、今どんなものなのかは嫌でも分かるよ。霊感商法で健全な若者たちからぼろ儲けをしている奴らだろう」
間違っていると言えないところが悔しい。だが、そもそも僕は彼らの肩を持つつもりもなかったのだ、と思い直して首を振った。
「ともかく、先輩が僕の”本気”をお祖父様に見せたいというなら、先輩はあくまで協力者という事にします。必要経費は僕が払う」
「ストイックだね。まあ、そこまで払いたいなら俺も甘えさせて貰おうか」
「それじゃあ、早速──」
僕はHMEを取り出すと、撮影したペトログリフの画像を君嶋先輩に見せた。
「先輩に勧められた通り、僕は一昨日裏山の遺跡を訪れ、地下迷宮に入りました。先輩が用意して下さった地図のお陰で、迷う事もなく件の場所まで行き着く事が出来ました。そして、この写真を撮った」
「ふむ……本当に文字みたいだ。単位ごとに並んでいるが、インデントがやたら多い。最初と最後は開始位置が同じで、上下から二番目の行も、文字単位から見て同数のインデントが挿入されている。その他の場所も……空いた分に対応する箇所が必ず下に続くように規則性を持っているな。確かにプログラムコードみたいだ」
初めて見たというように肯いている先輩に、僕は少々呆れる。
「先輩、見た事あるんですよね?」
「ないよ。ネットニュースの画像も、一部しか写されていなかったし」
「えっ? それじゃ、僕に渡してくれた地図は……?」
「そこまで行った事はあるんだ。地図作りが目的でね、それより先は懐中電灯の電池が持たないように思って行かなかった。けど、その時こんなものはなかった」
背筋に、冷たいものが走ったような気がした。
「じゃあどうして、”新発見”があった場所がそこだと分かったんですか?」
「壁のタイルの並び方だよ」
先輩は自分のHMEを取り出し、同じく撮影した画像を見せてきた。
「慈郎君の撮った写真と見比べれば分かる。ここの壁だけ、石材が長手積みで統一されているんだ。他の壁は、長手と小口を交互に積む『オランダ積み』だった」
次の画像に移ると、確かに積まれている長方形の横の辺の長さが一段ごとに異なっているのが分かった。
「こんなのよく気が付きましたね、先輩……」
「枡目みたいにも見えるだろう? 長手で統一されているから、横長の長方形の枡に同じ大きさで五文字分入るのが分かる。きりがいい、というか、数えやすいよね。ここの壁だけメッセージボードを意図しているみたいだ」
「メッセージ? 誰から、誰に対して?」
「慈郎君、あんまり先入観を持つと良くない。薄々予想はつくと思うけれどね。まず、君の報告を聴く事が先だ」
先輩は、話を軌道修正するかのように画像を閉じる。僕は説明を再開した。
「先月ここで見つかった、神曲ゼミナールの言う”神のプログラムコード”の所まで行った僕は、こうして写真を撮りました……そうしていると、『バズリーチ』の人たちが入って来たんです。カメラを向けられて、専門家の方ですか、と聞かれたので、地元の大学生である事を伝えました。幾つか質問をされて、この場面を番組で使ってもいいか、みたいな確認があって、特に撮影の邪魔だと怒られるような事もなく」
「いいって言ったの?」
「まあ、駄目っていう理由もないですし。こういう時に変に断って、何か疚しい事でもあるんじゃないか、とか邪推されても困りますしね。で、専門家の人の講釈を聴いたりしながら出る機会を窺っていると、あのタレントの人──嵐山紅葉が、奥の方にぶらぶらと歩き出したんです。その時は休憩時間で、カメラは止められていました。一般人の先輩でも入れるような深度です、多くの人が訪れるそこで一年もの間”新発見”が見つからなかった事はおかしいと彼は考え、入り込んだ誰かが悪戯書きをしたんだろう、と言っていました」
「意外だなあ。俺も『バズリーチ』は時々観るけど、あの人、どんな謎でも子供みたいにはしゃいで取り掛かるのに」
「そういうキャラ作りだったようですね。僕もちょっとがっかりでしたけど、何に興味を持つかは人それぞれですから。で、あんまり先に行くと迷子になりますよ、ってディレクターの人が忠告したんですけど、嵐山紅葉は印を付けながら歩けば大丈夫だと言って、タイルに石で『×』を刻みました。その瞬間、地鳴りがして壁が崩れ始めた。テレビ局の人たちが巻き込まれる中、僕はまだ間に合うと判断した彼を引っ張って元来た道を引き返しました。地図を持っている僕なら、迷わずに脱出出来ると思ったから。そうしている間に崩落はどんどん激しくなって、地下水が押し寄せて来ました」
段々武勇伝を話しているようで極まりが悪くなってきたが、本当の事だった。何故その時僕が自分一人で助かろうとせず、嵐山紅葉を引き摺って走ったのかとは警察にも尋ねられたが、僕としては当然の事をしただけという気分だ。まだ助けられる人が居るのに、何故見殺しにする事が出来ようか。
逃げる間、彼はずっと独りごちていた。
「何で仕事で来ただけの自分がこんな目に遭わないといけないんだ、って……皆がコンピュータの反逆だの”神”だのって、映画みたいな事を言っている街ですよ。外の人たちから見たら、しょうもないの一言に尽きるんでしょう。神のプログラムがどうこうって神曲ゼミナールが騒ぐから、便乗した誰かが書いた悪戯が本気にされて学者まで駆り出される事になった──そう思って乗り気でなかった彼だから、そういう事を言ったんだと思います。
けど、僕からすれば遊びでやっているんじゃないんですよ、先輩もご存知の通り。だから、あんまりうるさく言うものだから僕はつい言ってしまいました。嵐山さんが神殿に傷をつけたから、”神”が怒ったんじゃないですか、って。それが、あの人には予想以上にショックだったみたいでした」
僕が話し終えると、先輩は「改めてご苦労様」と言った。大体ニュースで聞いた事と相違ない、というように、驚きも興味を惹かれる箇所もなかった様子だった。
「仕方ないでしょう」僕は言い訳がましく付け加える。「警察に話した事以外に、隠している事なんかないんですから」
「いや、本人から聴けたのは大きいよ。……そうか、神様が怒ったか」
「つい言ってしまっただけです。けどまあ僕も、山の上の方からあんなに大きな建造物が沈んでいくのを見た時には、ちょっと人智を超えた何かの意思、みたいなものを感じざるを得ませんでしたが」
「その、嵐山さんは?」
「ショックで倒れて、今は入院中です。一週間も経たないうちに迎えが来て、東京に帰る事になるんでしょうけど」
「まあ、そりゃそうなるわな。慈郎君としては、手応えはどうだった?」
「……本当に、あの場所に何かが居たのかは分かりません。ただ錯誤遺物めいた何かを見て、事故に遭った。それだけです」
「いいんだよ、それで。オーパーツか、蓋し絶妙な表現だ。良かろう、俺たちでこいつを翻訳して、神のプログラムコードとやらの謎を解き明かしてやる。それが、謎解きの真っ最中に犠牲になった人たちへの供養にもなる」
先輩に促され、僕は彼のHMEに画像を送信した。壁の全面が漏れなく撮られている事を確認すると、彼は「確かに」と肯いた。
「解析には数日掛かりそうだ。サンプル全てを読み込ませて、同種の記号をAIに覚えさせるだけでも明日まで丸一日使う事になるだろう。慈郎君はその間、大船に乗ったつもりで悠々と構えていてくれ。俺は二年の時よりは暇だから、殆ど付きっきりで作業する事が出来る」
「宜しくお願いします。それと、今度先輩の作った解析用プラットフォーム、使い方を教えて下さい」
「ああ、勿論。しかし、君も大概忙しい青年だね」
先輩はノートPCの画面を自分の方に向け直すと、背凭れに寄り掛かって後頭部で両手を組んだ。
「授業にバイトに探偵の真似事、それに”就職活動”も。そういえばだけど、その”就職活動”の方は捗っているかい?」
「まあ、ぼちぼち。ウェブ連載の方は、今新作のプロットを練っているところです」
僕は頭を掻きながら答える。君嶋先輩は、僕が将来の目標としてプロの小説家を掲げ始めてから僕の創作活動の事を”就職活動”と呼ぶ。最初は自分で言った事ではあるが、こうしていつまでも続けられるとやや揶われている感が否めない。
「そうか。頑張れ、楽しみにしているよ」
「ありがとうございます。……それじゃあ、また」
「うむ。続報を刮目して待て」
先輩はしかつめらしい口調で言う。
僕は軽く会釈すると、データサイエンス部の部室を後にした。廊下に出ると、突き当たりの窓から風薫るという枕詞の相応しい五月の風が山の匂いを運んで来た。
本日より新連載『神器』をスタートします。今年上半期のメフィスト賞に応募し、受賞は逃しましたが自分の中では自信のある作品です。集英社ライトノベル大賞に応募した『闇の涯』よりは一般文芸に近いですが、娯楽小説には違いありません。
私としては初となるディストピア小説です。コンセプトモチーフとなった作品は、山田正紀さんの小説『神狩り』とテレビアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』で、遺跡で発見された未知の言語の翻訳、「神」と呼ばれる存在との戦い、主人公が情報工学専門といった要素は前者の、監視社会、都市に巨大コンピュータがある、登場人物にやたらと引用癖があるといったところは後者の影響です。
メフィスト賞は応募の際に自分が最も影響を受けた小説と応募作品のキャッチコピーを書かねばならず、私にとってそのうち一作は伊坂幸太郎さん(の『砂漠』)に違いないので、主人公の「葛西慈郎」という名前はあからさまに狙ったものとなりました。伊坂さん自身のペンネームも、彼が最も影響を受けた五人の作家のうち二人、赤川次郎さんと西村京太郎さんの名前が字画的に「完璧」だったという事に由来するそうです(「僕を作った五人の作家、十冊の本」(新潮文庫『3652 ─伊坂幸太郎エッセイ集─』収録)より)。
因みにキャッチコピーは「神の目を欺け」。最初は街中にある「神と和解せよ」の某教看板になぞらえて「神と敵対せよ」にしようと思ったのですが、敬虔な信者の方に嫌な目で見られるかもしれないと考えそれはやめました。その後「抗え」系にしようと思いましたが、それも貴志祐介さんの『新世界より』がアニメ化された時のキャッチコピー「偽りの神に抗え」とまんま同じになりそうだったので却下。何故「目を欺け」なのかは物語が進むに連れて判明しますが、監視社会ものと最初に言っているので別に注釈する程の事ではありません。
本作の連載は一ヶ月程続きます。明日以降もどうぞ宜しくお願いします。