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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第七章 蛇の女王
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厳命する魔女王

 底知れぬ闇があった。


 絶望と混沌をはらみながら、すべてを飲み込もうとする闇の底の闇──それを巧みに表現する言いようはない。

 ただ、地上の災の根源は、遠い古よりここに存在する者に起因している。

 それは、神がこの世界を創造し最初に光をもたらした刻から、相反する影として生み出された闇であった。


「ご報告いたします。」


 仄暗い空間の中で、かしこまった声が響いた。


「メドゥーサ様が、アカーシャに倒されました」


「何?」


 女の声が発せられた。


 低い、北海の嵐のような声音であった。

 とても女性のものとは思えぬ、低くおぞましい響きだったが、その主はまぎれもなく女である。


 それは不可思議にきらめく黄金の玉座に座す、とてつもなく大柄の女だった。


 夜の闇よりなおくらい長髪と、対象的に輝くばかりの白い肌。無限の魔力を秘めた双眸は禍々しい光を放ち、この世の女の原型とも言える理想的ラインを描く唇は、毒々しい紫で飾られている。


 魔女王ラドーシャだった。


 神話の時代より生き、世界のすべての災厄を生み出したとも言われる闇の支配者である。


 女王がいるのは巨大な城の中だった。

 人の身ではけして行き着くことの叶わぬ遥か極北の地──異次元の断層に遮られた、なかば異界とも言える場所にそれはある。魔女王ラドーシャの住まう大宮殿〝伏魔殿(パンデモニウム)〟が……。


 階上を占める女王の間は、たっぷりとした天鵞絨の幕で遮光されているが、視界は意外なまでに開けていた。ところどころに巨大なトーチがそびえ立ち、その上で人の魂を糧に焚かれた大火が燃え上がり、邪悪な光焔(こうえん)で辺りを照らしあげているために。


 魔女王は、抑揚のない声で問いかけた。


「それは、まことか?」


「は……おそれながら」


 微妙な間が空いた。


 かしこまっていた者は女王から、目を背けたくなるような極北の殺気が瞬時に噴き上がったのを感じて、頭を下げながら歯を食いしばって耐えていた。

 だが、それも刹那のことだった。


「ふーむ……メドゥーサでは、危ういかもとは思っていたが……」


 即座に平常心を取り戻したラドーシャは、虚空を見上げながら呟いた。そのくらい中空では、女王を護るようにして禍々しい闇の霊たちが飛び交い主の命令を待っていた。


「だがそうか……有史以来、一度も欠けたことのなかった六魔導の一角が、ついに欠けたという訳か。ふふふ……大したものではないかアカーシャ……そしてリュネシスめ……戦いとは、こうでなくてはつまらぬ……ククククク……」


 魔女王は顔を下に向け、さも楽しそうに肩を震わせて笑っていた。


 しかし、次の瞬間──女王の美貌が、悪魔も卒倒する険相に変わる。彼女は勢いよく腰を上げ、周囲を圧するように闇の中で巨躯を浮き彫りとさせた。その姿はまさに、超古代の神話より語り伝えられ、神々すらも恐れさせる魔女たちの王と呼ぶにふさわしい威厳であった。


 その魔女王ラドーシャが、配下たちに勅命を下す。


「六魔導たちに伝えよ!今後の敗北は一切認めぬ。許さぬ。六魔導の名に恥じぬよう死力を尽くし、リュネシスたちを倒すのだ!」


 ラドーシャは鷹揚に、魔界の王笏を握る右の腕を薙いだ。


「そして必ずや〝白き子羊〟を見つけ出し、速やかに滅殺せよ!いかなる言い訳も聞かぬ!許さぬ!!」


「おおせつかりました」


 闇にうごめく影たちが怯えながらも応え、女王を守護すべき幾名かだけを残すと、そこかしこに飛び散っていった。


 後に残ったラドーシャは、去っていった配下の者たちを睨むように見送ってからゆっくりと玉座に腰を下ろす。

 魔女王の手に握られた王笏の先端に絡みついている真っ赤な蛇の像が、主の想念に反応したかのように、わずかに身を蠢かしたかに見えた。


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