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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第七章 蛇の女王
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ヴァルネリア

 いくつも連なる山々のふもとに、赤くさびた大地が広がっている。


 見渡す限りの荒れた平原がそこに横たわっていた。

 ところどころに群生ぐんせいしている草木以外は、こうりょうとした砂地が面積の大半をおおい尽くしている。

 その草木も、息吹く力が得られていないかのようにどこか貧相で頼りない。夏のさなかだと言うのに、その風景は晩秋を思わせるわびしさがある。否、弱々しさと言うべきだろうか。


 ヴァルネリア教国──百年前、魔王リュネシスが残忍ざんにんどうな悪魔狩りに終止符を打つべく、世界をべる十二人の王の内、六人の王と法王を雷の魔力によって惨殺ざんさつした歴史の転換期となる大惨劇の後、様々な変遷へんせんを遂げ、今に至る謎多き国家である。


 そこはアルゴスの北方国境より、さらに山岳地帯を分け入り進んだ北に位置する。

 広さは南北に二百、東西に百五十キロほど──。


 広大なアルゴスやルスタリアと比べれば、取るに足りない小国と思われるが、その実態は闇の魔女王の住まう世界最凶王国であるヘルヘイムを後ろ盾に持つ、恐るべき狂信国家であった。


 もとは三百年もの昔、この地でを競い合っていたいくつかの独立部族が、ひとりの勇猛な王──ケートー王と呼ばれる──によって統治され、ヴァルネリア王国として誕生したという成立過程があった。

 そのため力を持つ初代王ケートーが逝去せいきょすると、後の政権は常に、あまたいる王位継承者たちによって争われ続けてきたのだ。


 ヴァルネリアの首都は建国当時に、ケートー王の生誕地であるイスカリオーテに定められた。


 そのイスカリオーテ王城の密室では、日々政権者たちの陰謀いんぼうぼうりゃくが巡らされ、暗殺される王族たちは跡を絶たず、王位は恐ろしいほど頻繁ひんぱんに次の世代へと継承されていった。


 そこに百二十年前、絶対王として君臨したのが、狂王の名で知られるバルガンであったのだ。


 残忍でこうに長けたバルガン王は、自らの権威を確固たるものにすべく、邪魔となる者を徹底的に排除した。己の血に連なる者だけを政権のちゅうすうに据え、それ以外の者、あるいは意にそわぬ者はすべて処刑したのである。


 ヴァルネリア国内を、血で血を洗うしゅくせいの嵐が吹き荒れた。


 狂王バルガンの下、国内の政党も軍も完全な統制下に置かれ、ちりほどの反逆も許さぬ絶対君主制が定められた。


 さらには初代王ケートーの末裔まつえいたる王女を力ずくでめとることにより、おのれの支配力を高め、二百年もの権力闘争に終止符を打ったのである。


 こうしてヴァルネリアには、二十年に及ぶ強固な独裁政権が確立されたのだ。


 だが百年前、魔王リュネシスが目覚めたとき──邪悪な魔女王の下、バルガンは国家を上げて、悪魔狩りの愚行に走っていた。

 多くの人々を悪魔狩りの大義のもとに虐殺し、終わることのない無道な行いを繰り返していたのである。

 おそらくは生来せいらいの荒々しい気質が、長年の横暴によって、この男をさらに歯止めの効かない歪んだ人間性へと変えていたのであろう。


 その非人道的所業に、魔王の厳罰が下される。


 バルガン王は大衆の目前で、天地を揺るがすほどのこうしょうとともに、突如として空を割って落ちてきたはげしい雷に焼きつくされた。


 王の体は瞬時に真っ黒に炭化した。


 その(むくろ)は煙を(くすぶ)らせながらしばし形を保っていたが、ゆるい風が吹くと虚しく砕け散り灰となって広がっていった。あとに残ったものは何もなかった。


 それは、見るものすべてに強烈な印象を与える凄惨せいさんな光景だった。


 王とともに悪行に走っていた者たちは、次は自分が裁きの雷に焼かれるであろうことを思い震え上がった。

 真の覇者である魔王の逆鱗に触れた者は、断罪の稲妻であのように骨も残さず消滅させられるのだ。


 けしてあらがえぬ未知の恐怖に、国家のいしずえが一瞬にして崩れ去った。


 これにより、バルガン王政は廃止された。

 二十年に及んだバルガン一族一党制は支配力を失い、潜在的に存在していた反対勢力──つまり国民そのものに解体されることとなり、以後、国家の主権は国民に選出された複数の代表者に──すなわち議会に委ねられた。


 そのようにして、拙速せっそくにだが国民の意を反映する政治体制が設けられ、王国は単にヴァルネリアという呼称に変えられる。


 だが、その平和も長くは続かなかった。


 呪われた宿命のヴァルネリアは、その後ゆっくりと時をかけ、現在の狂信国家へと変貌へんぼうしていったのである。




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