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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第七章 蛇の女王
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誓い

「ふ……」


 大災害のような戦いの後だったが、魔女王は何事もなかったかの如く真紫の唇を歪めて(わら)った。


 だが、ふたりの闘争の激しさを物語るように、彼女のドレスのネックの部分がわずかに焼け焦げ、よれた生地からブスブスと煙が上がっている。


「アカーシャめ……」


 魔女王は、(おぞ)ましいうめき声を()らし、白い頬に手を当てた。そこからは血が流れ、火傷(やけど)を伴うかすり傷が生じていた。


 しかし、彼女が頬をそっと()でると、傷は跡形もなく消えてしまった。




 伏魔殿から遠く離れた、コキュートスを囲む山岳地帯。


 白い雪が降り積もる極寒(ごっかん)の山頂──(みょう)(ひょう)(さん)(みゃく)と呼ばれる長大な(がん)(かい)の頂上で、傷ついた魔少女が片腕を押さえうずくまっていた。


「くっ……」


 アカーシャの左腕の(ひじ)から上は、なかば凍りつき深い傷まで負っている。

 高い魔法防御力を誇る彼女の黒衣を引き裂いて、大きな傷口からは、どろりと血が流れていた。


 その向き出しとなった肉体は、ラドーシャの暗黒の力ですでに壊死(えし)が始まり、不死身のはずの魔少女の体細胞を(よう)(しゃ)なく分解していたのだ。


「……危なかった。あと、数センチでも母の射程距離内に捕らわれていれば……」


 アカーシャの額に、冷たい汗が一筋流れた。


 先ほど放った呪文攻撃は、魔女王の魔法射程距離を十分に()(きわ)めた上での、宣戦布告としての一撃だった。

 それは同時にラドーシャにとって、めざわり極まりない娘──魔王軍の頭領アカーシャを叩き潰せる絶好の機会でもあったのだ。


 もし、ここでアカーシャが倒されていれば、ただでさえ総数において劣勢な魔王軍は、その総力を指揮する頭脳を失うことになる。

 たとえ魔王リュネシスや一部の幹部の(とっ)(しゅつ)した能力を考慮しても、優れた命令系統を失った軍の敗色は濃厚なものとなっていたであろう。


 だがそれを(しの)ぎ、なおも戦いをこちらに有利な主力戦に持ち込んだという事実が、アカーシャには天啓(てんけい)のように思えた。


「勝てる。この戦い……必ず勝てるぞ……」


 漆黒の魔少女は、ズキズキと痛みつつも暗黒魔力に(あらが)い少しずつ回復と再生を繰り返していく左腕を押さえながら(つぶや)いた。


 彼女は、警戒するように周囲を見渡す。

 やがて力強く立ち上がると、その視線を前方の一点に向けた。そこには巨大な伏魔殿が、どこまでも禍々(まがまが)しい気配をただよわせて(そび)え立っている。


 魔族の姫は眉をひそめ、しばし思い詰めた瞳で悪魔の宮殿を見つめていた。


 アカーシャはこの地──伏魔殿を遠目に望める妙氷山脈に、一旦魔法の力で瞬間移動し、そこから神霊力でラドーシャの元に思念体を送り込むという(はな)れ業を実現したのである。


 本来ならば瞬間移動という超魔術には、恐ろしいまでの膨大な魔力と精神力を消費する。

 だがそれも術者が見知った地域での活用ならば、遠隔透視に無駄なエネルギーを注ぐ必要がなくなるため、魔力使用は大幅に簡略化されるのだ。


 その上で、完璧な魔法結界を張り巡らされた伏魔殿の中に、神霊力を駆使(くし)して霊的肉体の強制潜行を成した。

 漆黒の魔少女が、魔王にすら困難であろう、未知の暗黒大陸での神出鬼没な霊体移動を実現できた理由である。


 しかし、絶大な闇の力で霊体に負わされた傷は、肉体に受けた傷よりも深刻で容易には回復しない。

 ダメージを受けた体を引きずるようにして、魔少女は空中でふらりと歩を進めた。


「地獄を統べるあの男が参戦する前に……リュネシス以上かも知れぬ、あの男までが動く前に……そして何より、これ以上幼い犠牲を増やさぬ為にも……母の軍団を必ず叩き潰す!」


 うわ言のように独りごちるアカーシャの歩む先に、くらい亜空間のエネルギーが渦を巻いている。

 同時に胸を飾る紅玉(ルビー)首飾り(ペンダント)が、(きた)るべき戦いを予見するかのように淡く明滅(めいめつ)する。そんな彼女の後ろ姿には、そこはかとない(あい)(しゅう)の色が漂っていた。


 やがて魔少女が、黒い流れへ足をふみ入れ前進していくと、異空への力場は回転しながら縮小していき、跡形もなく消滅していった。




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